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工場経理のリアル(経理マンの職場)

 工場経理、つまり工業簿記・原価計算。これは理論と実務の間に大きな差があると聞いたことありませんか? 学校や市販の参考書で勉強する内容と経理実務内容の差について考えてみました。

 この記事は、決して会計の専門用語を使わないので、気楽に読んで頂き、例えば、朝活noteやられている方はコーヒー片手に、晩酌しながらnoteやられている方は酒の肴的に読んで頂ければと。更に、もし会社にお勤めでしたら「あぁ、ウチの経理の奴ら。こんなこと考え、育ってきたのか」等、気付きになれば嬉しいです。

 私は昔、簿記検定1級に挑戦。資格予備校での工業簿記・原価計算の模擬試験でコテンパンにやられました。この時の講師が、傷口に塩を塗るように「実務の世界はもっと難しいぞ」と。講師曰く「実務に即して工業簿記・原価計算の試験問題を作ると複雑すぎて問題にならないので、試験問題は比較的シンプル。他方、商業簿記と会計学は試験と実務は結構近いかも。」

 約20年経理実務をやってみて、改めてなぜ工場経理の実務は難しいと言われるのか? 個人的な見解から以下、紐解いていこうと思います。


1.いろんな所から情報を集めるのが難しい

 これまで読んで頂き、何となく、工場ではいろんなシステムがあり、これらの情報を集めて何か複雑な計算をしているなぁ、とイメージを持たれているかもしれません。大体このイメージはあっています。経理システムの他に、勤怠管理等の人事システム、生産管理システム、材料を発注・在庫管理するシステム、物流管理のシステム等々。これらシステムで管理している情報のうち、カネの動きに連動するもの全て集計対象になります。しかし、情報技術が発達している現在、これらを集計すること自体難しいものなんでしょうか?自動化してしまえば良いのでは?どうも原因は、掘り下げたところにありそうです。

1-1.マニアックな集計方法が残っている

情報技術が発達している現在、社内のシステムを一新して業務効率化!」まず、このような夢物語、実際問題ありえないですよね。規模の大きな工場になると、連携するシステムも多く、パッケージソフトを導入、業務標準化を進めたとしても、どうしても工場内の抵抗勢力がおり、例外的に旧システムが残る場合も想定されます。これが厄介。経理の仕事を複雑怪奇なものにする可能性があります。

1-2.工程をイメージできなければ、計算間違いしてしまう

 カップ麺を例に考えてみましょう。話は変わりますが、昔と比べてカップ麺、お店の味に近づいたと思いませんか?昔のカップ麺は、フライ麺しかなく、麺を油で揚げる工程を通るものでした。今はフライ麺に加えて、ノンフライ麺もあります。油で揚げる代わりに温風で仕上げます。油と温風、作る工程が違うと原価(製品1個当たりのモノの値段)が大きく異なってくるわけですね。

1-3.部品表をイメージできなければ、計算間違いしてしまう

 次に自動車を例に考えてみましょう。自動車部品は2万~3万点に及ぶと言われています。自動車メーカの経理マンはこれら全てを頭に入れるのは流石に無理です。しかし大体のイメージは頭の中に入っているはずです。もし完成車の工場でしたら、サプライヤーや部品工場から部品数十~数百点を括られて供給されるので、頭に入れる部品表点数が減るという理屈です。

 自動車1台にタイヤ4個。このレベルの部品表なら、誰でも間違わないでしょう。本当でしょうか? 現場・現物・現実を知らなかったらこのレベルでも怪しい・・・タイヤも部品コード化され、パソコンの画面ばかり眺めていると間違うかもしれませんね。タイヤ5個付きで計算された自動車。謎のプレミアム(単に計算間違い)が付き、計算結果を利用する関係者は混乱します。

 更にこれがエンジン部品になるとどうなるか? エンジンの大きさによって、エンジンバルブ、コンロッド等が何本組みこまれるか異なる。これがイメージできないとエンジン本体の計算もできないということです。いやぁ、工場経理って難しいですよね。

 補足までに、「部品表の管理は生産部門の人の役責。経理では無いのでは?」と思った方もいらっしゃるかもしれません。現に、原価(製品1個当たりのモノの値段)の計算をする役責が生産部門と割り切っている企業も存在します。しかしお金の管理を経理の役責とするなら、経理の立場として、生産部門の計算結果を鵜呑みにせず、製品1個(台)の原価計算について自分の言葉で語れることが経営陣から求められていると理解しています。

2.経理はチームワークと感性が大切

 話は変わり、仕事のやり方に目を向けます。経理事務というと、社内で噂の経理のお姉さんがいて優しく経理の手解きを受ける。決算時になると、ちょっと辛い、でも頑張れる・・・なんてイメージを持っていませんか?

 実際は体育会系。優しい手解きとは程遠く「やっとけ、オラぁ!!!」の世界。現場に行くと職人肌で無口な人が多く、彼らから情報を引き出さなければならない。情報が集まらなくても、工場長や経営陣から報告が求められる。煽りに煽られ、・・・でも計算間違いは許されない。他部門の打ち合わせでも、お金に絡むと全て経理の役責にされる罠があり、部門間の対立に勃発する場合も・・・。泥臭いですよね。でも、工場経験した経理マンは、誰もが経験した内容ではないでしょうか。

 他方で、商業簿記・会計学に近い経理の仕事はどうでしょうか? 例えば、法人税のお仕事。過去の国税調査で問題となったポイント等、重要な考えのみ引継ぎ、「あとは市販の法人税の本を読んでおいてネ」の世界かと。実際、これで十分だと思います。

 しかし、こんな引き継ぎを工場でされると新入社員は即死ですよね。なので「やっとけ、オラぁ!」の言葉の傍ら、先輩は後輩を見守り、他部門からの理不尽な要求には自ら盾となって戦う。まさにチームワークです。しかも自分たちは会社の金庫番。時には工場長達とも対立し、この先輩たちの姿を見て、後輩たちは感性を磨いていくものだと考えています。

3.まとめと補足(研究開発の経理とは?)

 以上、なぜ工場経理の実務は難しいと言われるのか? 個人的な見解を紹介致しましたが、如何だったでしょうか? ひょっとしたら、工場の中で経理マンはピラミッドの底辺 と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、あながち底辺ではなく、むしろ工場内で影響力は大きいと考えます。その理由は工場の組織。組織体系は原価計算をするために編成されたものと言えます。いかにコストを下げるか、この命題達成のため、工場は組織編制されているからです。よって、他部門から理不尽な要求も来たりしますが、最後は工場一丸となれる組織の仕組みがあると考えています。

 最後に補足ですが、工場経理とは別に研究開発の経理とは何でしょうか?研究開発部門は工場のように原価計算のための組織体制は作られていません。研究員には、いかにコストを下げるか以外に、研究成果の命題があるからです。そこに経理マンが入り込みにくい難しさがある訳です。しかし今後、もし劇的に製品の値段を下げる必要が出てきたなら、研究開発の経理にも注目されるようになると考えています。

工場は「原価計算のための組織体系」に対して、研究所は成果が大事に!(2023年9月追加)

<以上となります。最後まで読んで頂き、ありがとうございました。>



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