仕事は基本的に前例主義
私は20年以上フリーランスで映像のディレクターをやっていますが、基本的には過去にやった仕事を見られて仕事が発注されます。「この人はクルマのCMが得意だな」とか「この人はアイドルのMVが得意だな」とか「この人は不動産のVPが得意だな」とかです。
前例主義というとちょっと批判的な言い方に思われるかも知れませんが、確固たる事実として前例主義なんです。
私もその前例主義のお陰でいろいろな仕事をして来ました。時代とともに私の前例も移り変わりましたが、最初は意外にもスポーツ選手が出演するCMでした。サッカーの日本代表やバレーボールの日本代表、オリピック選手やイチロー選手など次から次へとスポーツ選手が出演するCMのオファーが来ました。
それはなぜかと言うと、その時の私のデモリールにスポーツ選手が出演したCMばかりが入っていたからです。そして、この現象はスパイラル的にどんどんエスカレートして行くものです。仕事は前例主義で動きますから、スポーツ選手が出演したCMを演出した事があるディレクターに、スポーツ選手が出演するCMが集中するからです。
今だから言いますが、私は特にスポーツが好きな訳でもないんです。今でも応援している特定のチームなどもありませんし、一般的な距離感でスポーツを楽しんでいるレベルです。
でも仕事はそんな事はお構いなしに前例主義で動きます。だから私は強い興味がなくてもスポーツ選手の演出をしたんです。もちろん、日本を代表する選手ばかりでしたから人としてのリスペクトはすごくしてましたし、オーラは感じましたね。当たり前ですが、リフティングは上手いですし、レシーブは上手いですし、フォームもキレイでした。当たり前なんですけど。
スポーツ選手は演じることに関しては素人なので、表情やセリフが固いんです。セリフもどうしても棒読みになってしまいます。セリフが棒読みだと演出が悪いと思われるので、どうやったら棒読みにならないかに苦労しました。
「もっと力強く言って下さい!」とか「思いを込めて!」なんて言っても無理です。割と上手くいく方法はオウム返ししてもらうやり方でした。私が「キャンペーン中!」と言った直後に選手に「キャンペーン中!」って言ってもらうと、欲しいテンションで言ってもらえたりしました。一流のスポーツ選手は基本的にマネというか再現が得意なんだと思います。
あるいは「これは最高ですね!」というセリフを自然に言って欲しい時には、私が質問で「これは最高ですか?」と聞いて「これは最高ですね!」と言ってもらったりもしました。こうするとセリフを読むんではなくて、自然な言い方になるんです。このオウム返しの方法は子供にも通用するので、今でもよく使っています。
ここから先は
平林勇の定期購読マガジン
【内容】 ・Xや無料noteでは言えないこと。 ・有料マガジンでしか読めない記事。 ・毎記事2000字以上。 ・月に5〜8回投稿。多い時は…
サポートして頂けたら、更新頻度が上がる気がしておりますが、読んで頂けるだけで嬉しいです!