ショートショート「三俣と俺」
「コチラ○○県警の山田ですけど、そちらは小泉泰樹さんのお電話でよろしいですか?」
「えっ?あっ、はい。そうですが…」
「嘘だよ!オレだよオレ!三俣だよ!ビックリしたか?ハッハッハ」
それは友人の三俣のイタズラ電話だった。
「ビックリさせるんじゃねぇよ」
と自分でも驚く程、大声を出した。
三俣は軽い気持ちのイタズラだったのだろう。
もちろん俺も軽く受け止めた。
ただ、しばらくしたら俺もなにか仕返しをしてやろう。とは思った。
俺達は同じ高校に通っている。クラスこそ2年になって別々になったが、入学して最初に友達になったのもあり、引き続き仲良くやっている。
とうとう仕返し決行だ。まずは学校の自転車置き場から三俣の自転車を見つけ出し体育館裏へ移動。そこからなるべく細かく分解して草むらに隠す。それから自転車置き場に戻り、三俣が来るのを物陰で待つ。三俣はなかなか現れなかった。もうバイトの時間が迫っていたので、仕方なくそのまま帰ることにした。
次の日、三俣は歩いて登校して来た。一足先に学校に着いていた俺は校門で待ち伏せた。
「三俣、自転車はどうした?」
と白々しく聞く
「昨日無くなってたんだよ」
「三俣、実はな!俺が体育館裏に隠したんだよ!ヘヘッ!分解し過ぎて元に戻らなくなっちゃったよスマン」
と、告げると
「やりやがったな」と三俣は物凄く悔しがった。
数日後、俺の教科書が無くなった。これは絶対に三俣の仕業に違いないと思い、問い詰めると、学校近くの橋の下に連れて行かれ、燃えカスを指差して
「コレおまえの教科書!」と言われた。
俺達は完全に限度を超え始めていた。
その日、5時間目は三俣のクラスは体育の授業でグラウンドでサッカーだという事はわかっていた。俺はその時間は数学。仮病を使って保健室に行かせて下さいと頼み込み、授業をサボった。こっそり三俣の教室に潜り込み、制服をハサミで切り刻んだ。
その日の放課後は学校から直でバイトだった。ほんの少しのつもりがバイト仲間と話し込んでしまい、帰宅が21時くらいになってしまった。急いで家へ帰り、自転車を止めていると、父ちゃんと母ちゃんが車庫で何やら話していた。
そのまま車庫に入ると、ウチの車がボコボコに凹んでいた。
結局、車は廃車になった。
俺は思い始めていた。これは遊びの範疇をこえている。
俺へのイタズラ電話は良いとしても、教科書と父ちゃんのマイカーを失っている。
三俣は三俣で自転車と制服を失っている。
ここでヤメてもいいのだが、三俣からスタートした事だし最後に可愛いイタズラをして三俣にはこれ以上、何も失わせる事なく停戦協定を申し込もうじゃないかと。
次の日、三俣の下駄箱にラブレターを仕込んでからバイトに向かった。
明日ラブレターの差出人が俺だと知ったらアイツどんな顔をするのだろう?そう思うとワクワクした。
バイトが終わり家まで自転車を飛ばしていると、公園のブランコに人影が見えた。よく見ると三俣じゃないか。
俺は公園の脇に自転車を止めると自販機でジュースを2本買い、ブランコへと向かった。
三俣はラブレターを読んでいた。
「よう!三俣どうした?」
と言ってジュースを差し出した。
三俣は俺の顔を見てジュースを受け取ると
「このラブレターってオマエが書いたんだよな?字でわかるぞ」
そう言ってジュースをひとくち飲んだ。
「わかっちまったか!なら仕方ないな」
もう少し驚いて欲しかったってのが本音だが。
そうだ。ここで切りだそう。
「三俣 とりあえずここらで停戦協定を結ぼうぜ」
すると三俣は
「そうだな。ちょっとエスカレートし過ぎた。それがいい」
と素直に提案を受け入れた。
「自転車は家の物置きに使ってないのがあるし、制服も兄貴のがあったはずだから使えよ」
兄貴も同じ高校出身で三俣とは体型もさほど変わりはないだろう。
「ありがとうな!ウチのクラスで退学になった奴いるから、そいつに教科書は貰おう!車は親父さんが使う時はウチの親父に言うからいつでも使ってくれ!」
三俣も俺の事を気にかけてくれているように言うと、さらに一言足した。
「あと、ウチの母ちゃんいつでも使ってくれ」
「えっ?」
一瞬意味がわからなかったが、スッと意味を理解した。
俺は無言で立ち上がり自転車で家へと飛ばした。
クソっ。下駄箱にラブレターがあった時から三俣は俺の仕業だと気がついていたんだ。その仕返しが母ちゃんかよ。それは無いだろ三俣。
家に着き、自転車を家の前に乗り捨てると、玄関のドアを開け、靴のままキッチンに飛び込んだ。
すると母ちゃんが
「アンタなんで靴のまま上ってるのよ!そんなに腹減ってるの?」
と笑った。
「あれ?なんで?母ちゃん生きてるの?」
母ちゃんは不思議そうにしている。
と、その時だった。
ウィーンというバイブ音がポケットの中から響いた。
「もしもし」
「嘘だよ!ビックリしたか?ハッハッハ」
三俣のしたり顔が鮮明に浮かんできた。
「ビックリさせるんじゃねぇよ」
自分でも驚く程に小声しか出なかった。
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