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自然学校ディレクターの”視点” 子どもハイキング編

 自然学校とは、子どもや大人を対象にした各種自然体験を専門に扱う団体の事を言います。ざっくりいうと「自然体験屋さん」です。多くの自然学校は、組織キャンプと呼ばれる形態を採用しており、参加者をいくつかのグループに分け、多くのスタッフと組織を創って運営しています。
 こうした形態には、「ディレクター」とよばれる職種があります。多くは意思の決定者であり、キャンプ現場の責任者です。この役割は団体内の専門指導職(プロフェッショナルメンバー)が担うことになります。多くの子どもが集う子どもの組織キャンプでは、子どもたちの様子、流動的な自然環境を常に観察しながら柔軟にプログラムを動かしていく高度な判断が求められます。(安全のマージンを取りすぎては面白くないし学びもない。かといって野放図だとそれは事故につながる…この中間を飛ぶという判断です)
 今日は、「子どもハイキング」のケーススタディから一つ好事例に繋がった判断基準を紹介します。

当初の計画と変更後の行程

 この日は東京都の高尾山系「景信山(かげのぶやま)727m」を目指します。当初地図の赤字で示した、小仏峠ー景信山というルートを往復ピストンで計画がされていました。
 参加者は小学1年生~6年生28名(5班体制)、スタッフ12名(各班2名+ディレクター2名)

プレゼンテーション1

 ところが、この日はディレクターの判断により山頂で急遽ルートを変更し、次のような下山コース(青字ルート)を取ることになりました。

プレゼンテーション2

 ぽっとここだけ見ると、急に登山ルートを変更することは活動運営上ハイリスクな気がします。しかしこの日はこの判断がうまくいったわけですが、その理由は…。

視点①環境要因リスク ー登山道の状況

 この日は1週間前からシトシトと雨が降り続いていました。登山日はようやくやってきた晴れの日。赤線のルートは山々を繋げる尾根上のルートになるのですが、たっぷりと水を含んだ上に気温が高く、そして多くのハイカーが歩いた登山道は、そこらじゅうがもうそれはまるで田んぼのようになっていたのです。

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 歩けばまぁ滑る滑る。特に少しでも下りの傾斜がある所は、大人でもいつ転ぶかヒヤヒヤしながら歩くほどです。

視点② 参加者要因リスク ー参加者装備

 それでもまだ登山靴などしっかりとした靴底がある装備があり慎重に歩けば通過できるかもしれません。あるいはストックを持って少しずつストックに荷重を分散しながら歩けばどうにか歩けるかもしれません。
 しかし、この日の子どもたちの多くはいわゆる「運動靴」。靴底はツルツルで足首のホールド力も軟弱。登山なんだから登山靴買えよ!というご指摘もあるかと思いますが、子どもの活動となるとなかなかすぐにそこまで装備を充実させられないのが現実でもあるわけです。

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視点③ 下見をしていたスタッフのイメージ

 このイベントを実施にあたっては、2週間ほど前にスタッフの数人と現地の下見へ入りました。この時はいくつかのルートを確認しようと、赤線のルートだけでなく、青線のルートも歩いていたのでした。
 これによって計画を変更しようと閃いたとき、そこへスタッフが子どもを引率できるか?という懸念もルートの様子をスタッフが把握できている状況によって緩和され、すぐに切り替えることができました。

 視点④ 環境倫理ーLeave No Trace

 安全的視点だけでいえば、慎重に慎重を期して歩くか、登山道のぬかるみの少し横を歩けば実は安全に歩くこともできます。事実そのように歩く登山者も多く見受けられました。これはこれで安全上価値があるわけですが、他方こうした行為が続いていくと何が起こるのか…。
 それは、道の拡張、「登山道が広がってしまう」という問題です。

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 例えばこの写真、正規の登山道は右側の道ですが、これまで多くの登山者がきっとぬかるみを避けるために登山道を少し外れた道を歩いたのでしょう、ここは明らかに左側に1本、「新しい道」が出来上がってしまいました。
 道になってしまったところは地表が剥げてしまい、行く末は右の道のような状態になることでしょう。きっとそうなったらまた新たな「道」が作られ…。どんどん草が剥げる場所が増えて行ってしまうワケです。

 こんな時に考えたいのがLeave No Trace(LNT)の原則
「影響の少ない場所での活動」
でした。どれだけ活動における自然へのインパクトを少なくできるか。この日で言えば、子どもが安全に歩行するために40人近くも自分の団体のメンバーが「新たな道づくりに貢献」するとは望ましいことではない(つまり赤線のルートを通ることは環境配慮としてもよくない)という視点があったワケです。

 これら4つの視点が組み合わさった結果、山頂で休憩中に急遽より安定化している青線ルートに切り替えることにしました。これには(⑤ディレクターの過去の経験)も少し加味されてはいるものの、こうした視点を組み合わせて流動的に考察し、判断することが安全でダイナミックな活動の裏付けになるんだなと改めて感じたところです。
 とりわけ大きな団体や子どもの活動となると「一度決めた計画は極力完遂する」ことが美徳になりがちですが、こと野外活動においてはそういう考えからも脱却することを想定した取り組みや心構えが重要なようです。
 そしてその多くはディレクターの裁量によるところが多いのがこの業種の特徴。なので、こうした視点に着眼したケーススタディを共有するつもりで紹介してみました。

まとめ

今回のケーススタディから学んだ視点は…
・環境リスク視点からプログラムを考察
・参加者の装備や能力視点からプログラムを考察
・環境配慮、LNTという視点からプログラムを考察

これらの組み合わせによって、結果子どもたちが「楽しかった!!」とケガせず満足に1日を終えられる取り組みとなったのでした。
また、いい事例が現れたら共有しますね!みなさんの参考になれば…。

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