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「大人の道具箱」の世界へようこそ。新しい収納家具の秘密・その5

香港で大ヒットした「大人の道具箱」。一方、日本マーケットでは、取扱店舗でのリピートも低く、苦戦中でした。

1. 業者向け展示会の壁。

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市川木工は毎年、ギフトショーやIFFT/インテリアライフスタイルリビング展などの、業者向け商談見本市に出展しています。

業者向け見本市とは、ご来場いただいたバイヤー様に、実物を見せながら商談をする場所です。「これなに?」「新しいものはどれ?」「何に使うの?」そんなご質問にひとつひとつ答えながら、商品をアピールし、注文を取るのです。

中でもよくある質問が、
「売れてるのどれ?」
というもの。

香港でのヒット以降は、「大人の道具箱です。今、香港でとても売れてるんですよ!」とPRしていました。ところが、ある時お客様に、こんな事を言われたのです。

「香港の話じゃなくて、日本の話を聞きたい。」

言われてみれば、今までの経験上、同じ商品を扱っていただいても、とてもたくさん販売する店もあれば、全然売れない店もありました。それは、ショップのコンセプト、顧客、立地など、複雑な条件が絡み合ったうえでの結果でした。

「売れている商品」が、どこの店でも売れるわけではない。

その時改めて痛感したのです。

2. オンラインショップの壁

店舗を持たないわが社。一般販売はオンラインショップで、と思っていても、言うほど簡単ではありません。何故なら、香港からの大量注文で、作っても作っても、在庫が無い状態が続いていたからです。

オンラインショップでの売上見込みも不明でした。今まで長らく書いているブログも、Facebookも、インスタグラムも、一定のフォロワーがいる程度のこぢんまりしたもの。フォロワーを増やす努力をしたくても、日中は工場で製造業、家では主婦業に追われて、これ以上は手が回らないのです。

オンラインショップを売り上げの軸に成長させるには、長時間パソコンの前でオンラインショップと向き合う必要がありました。毎日が忙しく、その時間もなかなか取れない日々、そもそも在庫が無くては話になりません。

3. 転機は、藤枝市ふるさと納税返礼品。

そんな時、工場のある静岡県藤枝市で、ふるさと納税返礼品の供給業者を募集していることを知りました。早速応募すると、ありがたいことに採用していただけたのです。2019年のことでした。

早速、返礼品として、大人の道具箱を3種類アップしました。少しすると、ぽつりぽつりと注文が入り始めました。

さて、その年の年末、震えるような出来事が起きました。それまでは、たまに1セットづつ入っていた返礼品の注文が、一気に増えたのです。

1日1セットだったのが、3セットになり、5セットになり、10セットになり!それが毎日毎日続きました。

後から知ったのですが、ふるさと納税のピークは12月で、年間の80%がこの時期に集中するのだそう。結局、最初の年の12月は、1ヶ月間の注文が40セットまでになりました。

この数字、喜んでばかりはいられません。その時設定していた発送までのリード期間は1ヶ月。つまり、わずか1ヶ月間で、夫婦2人で返礼品分40セットの大人の道具箱を作って出荷し、さらに香港向けの注文も作らなければいけないのです。

休み無く働くことひと月以上、どうにかこうにか間に合って、出荷できた時の脱力感は、言葉では言い表せませんでした。

4. 注文は、全国から。

結局、初年度のふるさと納税返礼品の注文は、北海道から沖縄まで、全国各地からありました。中には、2セットも注文してくださる方までいました。

思わぬ効果もありました。メールで「買いたい」と、問い合わせが入るようになったのです。そのような皆様には、それぞれ完成時期をお知らせして、対応することにしました。

今まで大人の道具箱がなかなか流通しなかったのは、日本マーケットで受け入れられなかったのでは無く、ボトルネック、つまり、出口が狭かったのだと気が付きました。

各ふるさと納税サイトに掲載していただけたことで、商品が多くの皆様の目に留まり、それが次の転機になりました。ふるさと納税サイトで製品を知り、わが社を検索してHPにたどり着き、ご注文してくださるお客様も格段に増えました。現物を見たいという方には、最寄りの取引先ショップをご紹介することもありました。これからは、取引先ショップに頼るだけではない、自分たちでできる新しいルートの開拓が必要とわかったのです。

5. アイデアを現物にして、育てる。

先日映画館で、松竹ブロードウェイシネマ 「キンキーブーツ」を観ました。

ストーリーは、「イギリスの伝統ある靴工場を継ぐことになったチャーリー。でも、工場は倒産寸前であることが判明。そんな中、チャーリーはドラァグクィーンのローラと仲間たちに出会い、男性の体重を支えられる男性向けの婦人靴を作り起死回生を図ることになって…。」というもの。

「キンキーブーツ」には、斜陽産業の置かれている現実と、まだ誰も気が付いていないニッチなマーケットを作りだす苦労と喜びが、実に的を得た展開で描かれています。実際、倒産寸前の会社を親から引き受け、今までになかった商品で再生させようとしている社長と私の苦労が、そのまま描かれているようでした。

アイデアを考えるのも、デザインするのも、プロトタイプを作ることも、全体から見たら、実はとても簡単な話なのです。次にやって来るハードルは、それをどうやって量産するのか?その次のハードルは価格設定。その次は、どうやって客を見つけるか…と、どんどん越えなければならないハードルが高くなってく現実。「アイデアを現物にして、育てる」という地道な作業は、どれも未知な世界。でも、そのハードルを超えて初めて、自分の製品が世に出ていくのだと痛感しています。


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