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能における「鬼」とは(2)

世阿弥は芸術論、芸談、書状を含め、22種類もの伝書を現在に残しています。
その中に、絵を描き残しているのをご存じでしょうか?

それが、『二曲三体人形図(にきょくさんたいにんぎょうず)』。世阿弥時代の能楽をビジュアルで伝えてくれる貴重な資料です。
9種類の絵がそこには描かれていますが、今回はそのうち「鬼」に関する絵を紹介します。(なかなか、ゆるかわいい絵です笑)

世阿弥時代の鬼の概念には、二種類あったようです。

●砕動風(さいどうふう)の鬼

一つは、「砕動風(さいどうふう)」と呼ばれる鬼で、形鬼心人(きょうきしんにん)」と記され、「形は鬼だけれど、心は人」とあって、身体に力を入れずに立ち振る舞うことができるから細やかな表現ができる、と説いています。

二曲三体人形図⑧砕動風図

『二曲三体人形図』の「砕動風」 野上記念法政大学能楽研究所所蔵 

●力動風(りきどうふう)の鬼

もう一つは、「力動風(りきどうふう)」と呼ばれる鬼で、「勢形心鬼(せいきょうしんき)」と記され、「勢いも形も心も鬼」とあって、力任せで、立ち振る舞いの面白さが少ない、と説いています。

二曲三体人形図⑨力動風図

『二曲三体人形図』の「力動風」 野上記念法政大学能楽研究所所蔵


「力動風」の鬼の絵はあの世の鬼を思わせます。「目を驚かし、心を動かす一興あり」と世阿弥が書いていますが、観客をびっくりさせるような鬼の演技だったのでしょう。だから、一日に何度もやるべきでない、としていますが、結局世阿弥はこの鬼のスタイルを、後に禁止してしまいます。

世阿弥が「力動風」を禁じなかったら、現在演じられている能に出てくる鬼はもっと違うものになっていたかもしれません。

前回でも触れましたが、能に出てくる鬼は「人の心」を持っています。「形は鬼でも心は人」である能の鬼は、ただ人を驚かす存在ではなく、心に悲しみや後悔を背負った存在なのです。

世阿弥は一過性の驚きで観客を引きつけるよりも、風情のある鬼の美しさを求めたのかもしれませんね。


『二曲三体人形図』は、法政大学能楽研究所の能楽資料アーカイブで公開されていますので、ぜひ見てみてください。
https://nohken.ws.hosei.ac.jp/nohken_material/htmls/index/pages/cate3/K2144.html

今回、野上記念法政大学能楽研究所のご厚意により、資料の掲載を許可していただきました。
こちらもご紹介します!
https://www.hosei.ac.jp/pickup/article-20210128140846/

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