雨 ii 卯月廿一日
建曆元年七月洪水慢レ天土民愁歎にせむ事を思
ひて一人奉レ向ニ本尊ー聊致レ念と云
時により過ぐれば民のなげきなり八大龍王雨やめたまへ
——金槐和歌集
〝金槐〟というのは鎌倉将軍の謂で、暗殺された三代将軍は源実朝のこと。
火乃絵にはこの歌が、雨讃歌のようにきこえる。
⁂
雨はいやおうなしに天から降つてくる。
「天」もまた〝あめ〟だ、
「雨降る」といふことばには
〝空が落っこちてくる!〟
といふ古るきひとびとの肉体感覚が遺されてある
驟雨!
驟雨!
あなたはまた
ネオンサインに照らし出される
白い無数の槍となって
するどく わたしを洗ひにくる!
——「オンディーヌ」結び
吉原幸子さんが〝驟雨!〟といい、
〝白い無数の槍〟と書くとき
火乃絵にはその都会のネオンサインの雨のおくから
実朝の 民のなげき や 那須の篠原 が 視える、
かのようにして聴こえる——
霰
ものゝふの矢並つくろふ小手の上に霰たばしる那須の篠原
——金槐和歌集
霰のあとには きつとかならず篠突く雨が降る、
火乃絵はその民のなげきのど真ん中にあつて
するどく わたしを洗ひにくる! 痛みが欲しい…
というのも19歳の火乃絵がこんなことをいっているからだ、
雨を感じることができるやつがいれば、ただ濡れるだけのやつもいる。確かに生きた瞬間。いつだって雨が降っていた。
——「ロスタイム」結び
⁑
【STAFF Note】【サンオウ通信】というのを、YouTubeでやっている。
火乃絵の処女作「ロスタイム」の朗読、というよりその雨をききたい方はよければどうぞ。
⁑
つづく
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