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振り向いたら座敷わらし【第二話】

私は道中考えていた。座敷わらし…。座敷わらし?
そもそも子供が苦手な私は、座敷わらしなどという只者ではないこの子供とどういう会話をすればいいのか思いつかなかったのである。
しかし、何も話さないのも気まずい。というより果たして座敷わらしは気まずいと思ったりするのだろうか。
そんな私の気も知らず、座敷わらしはすました顔でついてきているようだった。

あっ、そういえば。

「座敷わらしちゃんは…お腹…すいてる?」
座敷わらしはコクンと頷いた。
(座敷わらしってお腹すくんだ…。)

私は家の近所のスーパーでいつも通り値引きシールの貼られた弁当を買おうと思ったのだが、この子にそれを食べさせるのは気が引けたので、カレーの材料を買った。勿論ルーは甘口である。
そしてふと気づいたのだが、この子は周りの人に見えていないのに、人とぶつからないのである。うまい具合に人を避けているのかとも思ったが、周囲の人がまるでそこに人が居るかのように座敷わらしの立っている場所を避けて通るのだ。
そんなこんなで特に問題もなく、いやそもそも座敷わらしがついてきていること自体問題なのではないかと思うのだが、大きな問題はなく私の住んでいるアパートに辿り着いた。
築30年のこのボロアパートの2階の一番奥の部屋201号室が私の住まいだ。

「汚い部屋でごめんね。とりあえず…上がって?」
ドアを開けて座敷わらしを招き入れる。
まさか人生で座敷わらしを家に招きいれるなどという経験をするとは思ってもみなかった。
座敷わらしは玄関ではいていた草履を脱ぎ部屋に上がった。

私の部屋はキッチンと寝室兼居間の2部屋と風呂場兼トイレ件洗面台しかなく、座敷わらしは居間に向かうと、居間に置いてあるテーブルの横にチョコンと座った。
鞄を居間の定位置に片づけて、着替えをしようとした。
スーツのズボンを脱ごうとしたところで私ははたと動きを止めた。

この子は果たして女の子なのだろうかと。

直観的に女の子だと思ってちゃん付で呼んでいた。
服装は和服のようだが、私は和服の知識がないので女の子用なのか男の子用なのかわからない。柄は無地で色合いもどちらの性別で着ていてもおかしくないような色だ。
髪型はおかっぱのような髪型をしているが、私の狭い見識によればでは昔は男の子も女の子も似たような髪型をしていた気がする。

どっちだ…。

私はとりあえず寝間着のスウェットを持ってキッチンに移動した。
「あはは…ちょっと着替えるから待っててね?」
女の子の可能性が捨てきれない以上、さすがに年端もいかない女の子に見ず知らずの男の着替えを見せるわけにはいかない。
危ないところであった。

「今カレー煮こんでるからもうちょっと待っててね。」
そうして冷蔵庫にあった私の好きなミックスジュースとコップを座敷わらしの前に置いて座敷わらしのいるテーブルの向かいに座った。
座敷わらしはジッと私の顔を見つめている。また暫く見つめあいそうになるのをなんとか堪え、ミックスジュースをコップに注いであげた。
「どうぞ…。」
座敷わらしは両手でそのミックスジュースを持つと、不思議そうにジュースを見つめていた。暫く見つめたあと、それに口をつけると目がキラキラさせているのが見て取れた。
可愛い。
子供の可愛さなど縁もゆかりもなかった私はついついその可愛さに当てられてしまいそうになった。
(いかんいかん…!)
聞きたいことは山ほどあり過ぎて逆にわからなくなっているが、何を聞けばよいのだろうか。
「君は…座敷わらしなんだね?」
座敷わらしはコクンと頷いた。
「何で私についてきたの?」
まずはそこから始めることにした。

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