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振り向いたら座敷わらし【第十二話】

喫茶店は本屋さんから広場を挟んで反対側にある。
店構えは少し古びたところもあるが、手入れがされていてその古びているのが落ち着きのある雰囲気を醸し出している。
「こんにちは~。」
店内に入るとカウンターからマスターが顔を出す。
「おや!修介君じゃないか!それに夏樹ちゃんも!」
「うむ!マスター!久しぶりだな!」
マスターは満面の笑みでいらっしゃい!というと福ちゃんの方に目を向ける。
「…ご祝儀が必要かな?」
「やめてください。」

私達がテーブル席に座るとマスターがお冷を出したくれた。
そこで私はこれまでの経緯をマスターに説明する。
「座敷わらし!まさかそんなありがたいお嬢さんとお会いできるなんて!何たる幸運!」
マスターは少し大げさなジェスチャーを加えながらそう言うと、福ちゃんに手を差し伸べる。
「私はこの喫茶店Ageのマスター、田所敬です。どうか、お見知りおきを…。」
「わたしは福。よろしく。」
そうしてマスターは福ちゃんと硬い握手を交わした。
「そしたら注文をお願いしてもいいですか?」
「お任せあれ!」
そしてマスターはこれまた大げさな身振りで注文票を取り出した。
「私はブレンド。」
「私はカフェオレだ!福もカフェオレでいいか?」
福ちゃんはコクンと頷いた。
「かしこまりました!少々お待ち下さい!」
注文を取るとマスターはカウンターに戻っていった。
「…見える人、案外いるもんですね。」
「思いのほか多いな。その分福の友達も沢山作れるというものだ!」
夏樹さんの隣に座っている福ちゃんの方を見ると心なしかうれしそうに見えた。
「これからはちょくちょくマスターや店主さんに会いに来てもいいかも知れませんね。」
「そうだな!」
店内はまた古き良き喫茶店という雰囲気で落ち着ける。
混んでいるというわけでもなく、ちらほらとお茶をしている近所の方たちが何人かいて、先ほどの福ちゃんの話をしていても、他のお客さんは本を読むのに没頭しているか、ぼーっとお茶をしていたりする。
ここの喫茶店はとても静かで穏やかな空気が流れているのだ。
「お待たせしました!ブレンドコーヒーとカフェオレですよ!」
「ありがとうございます。」
「初めてご来店されたそちらのお嬢さんにはお茶菓子をサービスですよ!」
マスターはそういうと福ちゃんにクッキーを差し出した。
「ありがとう。」
「いえいえ、どういたしまして。」
マスターは軽く会釈をする。
「そういえばマスターは福ちゃんが座敷わらしと聞いて疑ったりはしないんですか?」
「そうだねぇ…。」
マスターは自慢の口ひげに手を当てて、少し考えているようだった。
「私もそういった類なんじゃないかと思われるのも目にしたことがあるし、結構そこら辺は絶対ではないけど信じてる方なんだよ。」
マスターは福ちゃんの方を見てニッコリ笑う。
「それにこんな可愛らしいお嬢さんのことを無下には出来ないし、修介君と夏樹ちゃんが嘘をつくとは思えないしね。」
「うむ!私は嘘をつくのは嫌いだしな!」
「夏樹さんは嘘をついてもすぐわかりますしね。」
ガハハと夏樹さんが笑う。
その後、福ちゃんと夏樹さんと私で談笑して、時折夏樹さんがまだ決まってもいない将来設計の話などをし、暖かで楽しいお茶の時間を過ごした。

「ご馳走様でした。」
「ありがとうございました!またのご来店をお待ちしております。」
マスターは少し大げさに気取ったお辞儀をしてくれた。
喫茶店を出ると外は少し日が傾いていた。
「いやぁ、満喫したな!」
「わたしも楽しかった。」
「だいぶのんびりできましたね。」
夏樹さんはんーっと背伸びをする。
「それに、福のことが見える人もそこそこいるということもわかったし!収穫だったんじゃないか!」
「それだけ福ちゃんの友達も増えるでしょうしね。」
私は福ちゃんの頭をそっと撫でる。
福ちゃんとの思い出、つまり福ちゃんへの想いを持つ人が多ければそれだけ福ちゃんが存在し続ける可能性が拡がる。
確かに私と夏樹さんはいるが、多いに越したことはないだろう。
と、思ったがそれは口に出さないでおいた。今のこの楽しい時間を自分から壊す必要もないし、したくもない。
「そしたら帰りますか。」
「そうだな!」
「お夕飯、楽しみ。」
そうして私達は帰路についた。

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