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振り向いたら座敷わらし【第十四話】

福ちゃんが美味しそうと言ったが、実際本当に大家さんのご飯は美味しい。
煮物などは丁寧に作られているのが感じられ、焼き魚の焼き加減も丁度いい。
ぬか漬け、ほうれん草のおひたしも美味しくとても私では再現できない味だ。
福ちゃんは一口食べる毎に犬の尻尾がついてたらぶんぶん振っているような反応をしている。
「やっぱり大家さんの料理は美味しいですね。」
「ほんほうはな!」
夏樹さんは口に頬張りながらしゃべっているのでちょっと何を言っているかわからない。
「ありがとう。母に叩き込まれたかいがあったわ。」
「はるえの料理、すごい美味しい。」
また大家さんがありがとうといってやさしい手で福ちゃんの頭を撫でた。
「大家さんが福ちゃんのことを見えてよかったです。見えない方だと弁解するのが大変で…。」
大家さんがふふっと笑った。
「私以外にもこの辺りは見える人がまだいるのよ。昔は今より見える人が多かったのだけれどね。」
「そうだったんですか。」
福ちゃんの話していた見える人がだんだん少なくなっていったという話もあるようだが、ここら辺でもその傾向はあるようだった。
「この町も昔はそういった子と遊んだりする子供もいたわ。私も昔はよく遊んだものよ。」
大家さんはどこか遠くを眺めているような目で福ちゃんに目を向ける。
「でもね、この町がどんどん発展していくにつれて徐々に見える人も少なくなっていったわ。そのうちそういった子達も見かけなくなっていってしまったの。」
福ちゃんは食べてる箸を止めて少ししゅんとしてしまった。
「だけど見える人がいなくなったわけではないの。この町に住む私くらいの年代の人は見える人が多いし、子供たちの中にも、私が知ってるだけでも見える子が何人かいるのよ。」
大家さんは福ちゃんに優しく笑いかけた。
「だから大丈夫よ。福ちゃんにもきっと、沢山お友達が出来るわ。福ちゃん、私ともお友達になってくれるかしら?」
福ちゃんは少し目を潤ませながらコクンと頷く。
「ありがとう、福ちゃん。」
そういって大家さんはまた福ちゃんを優しく撫でる。
「うむ!福には私も修介も春江さんもいるから安泰だな!」
誰よりも早くご飯を食べ終わった夏樹さんががっはっはと笑う。
「なんだか夏樹さんが言うと本当にそんな気がしますね。」
福ちゃんはなんだか嬉しそうで、それが私も嬉しい。
あぁ、大丈夫かもしれない。
福ちゃんの周りにはこんなにも暖かい人たちがいる。
皆福ちゃんのことを想ってくれている。
これなら大丈夫かもしれない。
「なんだ修介!泣いているのか!」
「えっ。」
気づけば私の目からは少し涙がこぼれているようだった。
「泣くほど嬉しいなら嬉しいと言えばいいぞ!私が胸で受け止めてやる!」
夏樹さんがそういって自分の胸を寄せてあげる。
「嬉しい…もしかしたらそうなのかもしれません。」
「修介くんは色々抱え込み過ぎるからね。もっと私達を頼ってくれてもいいのよ?」
「ありがとうございます。」
私が涙を拭っていると福ちゃんが私の傍まで来て私の頭をなでる。
「しゅうすけ、大丈夫。わたしもしゅうすけのそばにいる。」
「ありがとう、福ちゃん。」
嬉しいだけじゃない。
私には福ちゃんがいて、夏樹さんがいて、大家さんがいて、みんな暖かい。
私の今までの灰色の人生ではなかったことだ。
私は嬉しい、それに、幸せだ。

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