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振り向いたら座敷わらし【第十一話】

まさか本屋の店主さんまで見えるとは思わなかった。
案外そこら辺の道を歩いている時でも福ちゃんのことが見えている人もいたのかもしれない。
「福ちゃんは私と会うまでに福ちゃんのことが見える人には会ったことある?」
福ちゃんはコクンと頷く。
「わたしがもともといたとこには、たくさんいた。」
「そっか、それなら寂しくはなかったんだね。」
「でも、どんどん見える人がいなくなっちゃった。」
そう言うと福ちゃんは俯いてしまった。
夏樹さんがすかさず私をバシッと叩く。
「いいか福。」
夏樹さんは福ちゃんの頭にやさしく手を置く。
「見えなくなった人のことを考えるととても辛いだろう?胸が締め付けられるような思いだよな。」
夏樹さんはしゃがんで福ちゃんの目をまっすぐ見つめた。
「その思いに引っ張られるとな。今の目の前にいる人たちを大事にする気持ちも何処かへ持ってかれてしまうんだ。それに、今は私たちがいるだろ?」
少し俯き加減だった福ちゃんに夏樹さんは二ッと笑いかけた。
「…うん。」
福ちゃんは夏樹さんに抱き着いた。
「なつき、大好き。しゅうすけも大好き。」
私は少し涙ぐみそうになったが、福ちゃんに笑いかけた。
「私も夏樹さんも福ちゃんと一緒にいるから大丈夫だよ。」
福ちゃんは夏樹さんに抱き着きながらコクンと頷いた。
「そしたら喫茶店に行って美味しいカフェオレでも飲もうか。」
「そうだな!」
「うん。」
福ちゃんはやっぱり寂しかったのかもしれない。そして何かの縁で私のもとに来たのだろう。
であるならば私のすることは変わらず一つである。福ちゃんを、そしてここに夏樹さんも入ったのだが、ずっと二人に対する想いを抱き続けることだ。

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