一方通行風呂　#毎週ショートショートnote

風呂が好きだ。風呂にそれを伝えたいくらい。
そしてとうとうその願いが叶う場所を発見した。
風呂が喋り出すという銭湯に来たのだ。

「やぁ」

浴槽に入ると本当に風呂が喋った。
風呂と会話ができるなんて。心が舞い上がった。

「あの、大好きです！もうずっとここにいたいくらい...！」

「よく言うよ。色んなとこ渡り歩いてるくせに」

「え？な、なぜそれを...？」

「ほら当たり。あんたは浮気性だ」

「そ、そんなこと言ったらそっちだって何人も受け入れてるじゃないですか」

「こっちは選べないからな。いつもここで待つだけだ」

な...なんか、思ってたのと違う。
いつも暖かくみんなを迎えてくれてると思ったのに、風呂は案外皮肉屋で、水風呂のように冷たい態度だった。

これなら一言も話さずにただただ温かさを享受していた方が気持ちよかったかもしれない。相手が自分の想像するような反応を示すかなんてわからない。
この気持ちは、一方通行くらいの方が幸せだったようだ。

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