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ひと夏の人間離れ #毎週ショートショートnote

待って!

公園の茂みに転がった私。
声は聞こえるはずもなく、坊の足からすぽんと落ちた私はそのまま置き去りにされてしまった。

でもこれはいい機会かも。
いつも好きに駆けていく坊が実はずっと羨ましかった。
私もたまには自ら道を選んでみたい。


そう思って公園から出たものの、坊のいない世界はそれはそれは広くて恐ろしいものだった。
蹴っ飛ばされて路肩に転がり、ぺたぺた歩くもなかなか進まない。

やっと家が見えた頃、夏は終わりに近づいていた。


「あー!このサンダル!何でここに?」

ママは驚きながら私を靴箱にしまってくれた。

「どこにいたの?アンタのせいで坊が泣いて大変だったんだから。公園で何度も探したのよ」

右のサンダルが呆れたように言った。


次の日から急に肌寒くなり、私はそのまま靴箱で長らく眠った。
そして翌年、やっと出番が来たかと思ったら。

「これ、なくしたと思ったらしばらくして出てきたんだよねーお気に入りでしょ?はい…あ、もうきついかな?履けないかぁ」

ママの言葉に坊は地団駄を踏みわんわん泣いた。

あぁ、私はなんて貴重な時に坊の元を離れてしまったのか。
あの夏は坊と私の一度きりの夏だったのだ。


(482字)



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