TOB価格を上回る株価 ~トランコムのTOB(2024年)~

トランコム(9058)がMBOを発表(2024/9/17)

2024年9月17日、トランコムがMBO(マネジメント・バイ・アウト)を行うことを発表しました。

↑トランコムのIR資料より

個人的には、10年以上にわたって株式を保有し、応援してきた会社ですから、MBOにより強制的に株式を買い戻されることに残念な想いです。
特に物流2024年問題と言われるように、これから物流の世界ではますます変革が起き、さらに経済における重要性が増すという面白い局面ですから、大変残念です。

株主としては日々の株価は全く見ず、四半期ごとの業績を確認する程度の、まさにファン株主であると自認しています。

スキームとしては、株式会社BCJ-86がTOBを行います。
この株式会社BCJ-86は、代表取締役が杉本勇次さんです。BCJとは、ベインキャピタルジャパン(Bain Capital Japan)の略と考えられます。

ベインが関与したニチイ学館のMBO(2020年7月)

私は過去に保有していたニチイ学館のMBOでもベインキャピタルジャパンが参画していました。ニチイ学館のときは株式会社BCJ-44でした。
ニチイ学館のMBOは、不合理なTOB価格設定であり、株主総会に参加しました。

ニチイ学館は2020年7月にMBOしたのですが、そのときの時価総額が約1100億円。
その後、2024年6月に日本生命がニチイ学館を含むニチイホールディングスをM&Aしたのですが、そのときの時価総額が約2100億円。
4年で時価総額は1000億円増加して、2倍近くになりました。
その時価総額の増加分は、ベインキャピタルやMBOに参加した経営陣の利益になったと考えられます。

このプラス1000億円は、それだけ事業価値が増加したからこそなのですが、ニチイ学館の場合、事業価値を増やすのは誰の目にも明らかなことでした。万年赤字事業であった英会話事業を辞めることです。
それをすればグループ全体での事業価値は大きく改善し、時価総額も大きく上昇したはずです。これは火を見るよりも明らかです。
このようなリストラクチャリングは上場していたとしても実施できたはずですが、実際にはMBOにより私たち個人投資家を退出させた後で、行われたのです。

大変不満の残るMBOでした(その他にも不合理な部分があったのですが、それはまた機会があれば書くようにします)。

なお、当時、リム・アドバイザーズが、ニチイ学館のMBO価格は安すぎる、株価2400円が妥当である、と主張していました。時価総額にすると1550億円ほどです。

MBO価格 1100億円
リム・アドバイザーズが主張した価格 1550億円
日本生命のM&A価格 2100億円

リム・アドバイザーズの主張は、けっこう良い線だったな、という印象です。

トランコムのMBO価格10,300円

話は脱線しましたが、今回のトランコムのMBOも、ニチイ学館のときと同じベインキャピタルが参画しています。

MBO価格は10,300円。
MBO発表後の株価推移は10,300円を超える水準となっています。

ちなみに私の取得価格は2,000円ほどです(10年以上前なので)。
なので、5倍くらいになるのですが、トランコムの株式はずっと保有し続ける気だったので、MBOで高く売れることよりも、MBOが失敗して株式を保有し続けられる方が嬉しいです。

では、なぜMBO価格よりも高い株価で推移しているのでしょうか?
それは、MBO価格が安いため、もっと高値でのTOBが行われるのではないか、という期待があるからです。

ダルトン・インベストメンツというアメリカに拠点を置く投資運用会社がトランコムの株式を徐々に買い増していました。
直近の大量保有報告書によれば、2024年8月16日には、ダルトン・インベストメンツらで、発行済株式の16.24%を保有しています。

その他の投資家から、MBO価格10,300円よりも高い価格での提案があるのではないか?とマーケットが考えているから、株価はMBO価格より上で推移していると考えられます。

このような展開は、トランコム・ベインは当然想定していたと考えられます。前掲のニチイ学館でも同様のことが起こりました。

発表日の株価7,330円とMBO価格10,300円の妙

トランコム・ベインの見事なのは、2024年9月17日の終値7,330円に対して、MBO価格10,300円を提示しているところです。
7,330円の翌日、値幅制限により+1,500円の8,830円のストップ高となりました。
その翌日、値幅制限により+1,500円の10,330円がストップ高の株価となります。実際に、10,330円で取引が成立し、約19万株の売買が行われました。

MBO価格の少し上の水準がストップ高の株価となり、そこである程度の売買を成立させることによって、株価がMBO価格よりも上に大きく上昇してしまうことを防ぐ効果があったと考えられます。

もしも、MBO価格が10,300円のところ、ストップ高の株価が11,500円で、買い注文が大量に入っていたら、誰も売らないまま株価が11,500円まで上昇することもありえます。
しかし、ストップ高をMBO価格10,300円の少し上になるようにして、ある程度売買を成立させておくことで、株価がMBO価格を大きく超えてしまうことにブレーキを掛ける効果があったと思います。

これは、私が勝手に想像していることですが。

MBOは経営者株主とその他株主との利害が真っ向対立する

そもそも、MBOは、経営陣らを含む大株主と、個人投資家らその他の株主とで利害が対立します。
経営陣らを含む大株主は、MBO価格を安くしたい。(彼らは借金をして株式を購入することになるため)
その他の株主は、MBO価格を高くしたい。(個人投資家らは、MBOによって会社経営から強制的に追い出されてしまうわけですから、せめて株式は高く買い取ってほしい)

ですが、基本的に経営陣が圧倒的に有利です。MBO価格、時期など、自ら決定できるからです。

下記事項について、後日、追記したいと思います。
・MBO価格10,300円は、妥当なのか?
・二段階買収とは何か?
・なぜ大株主であるAICOHは、公開買付に応募せず、後日、自社株買いをする契約になっているのか。




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