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「保育士不足」「待機児童」は経済学的に考えれば解決できないのが当たり前という話

昨今、「待機児童問題」や、その根源となっている問題として「保育士不足」がしばしば取り沙汰されます。厚生労働省の発表でも、我が国では約7.4万人保育士が不足していると言われています。(画像の元データである厚労省の資料は記事の最後にリンクを掲載しています。)

保育士不足

では、7.4万人保育士につく人が増やせたら、この国から待機児童がいなくなるのでしょうか?

結論は、NOです。

この問題は「人手不足」で片付けられるほど簡単ではありません。待機児童問題は、量的なアプローチでは解決できない構造をしています。

この問題の構造

まず、この「保育士不足問題」の構造を分解してみていきましょう。この問題は、

①保育士足りなくて待機児童発生!
②保育士増やそう!
③給料上げられないから保育士増えねえw
④①に戻る

という風に負のスパイラルを形成しています。厚労省の行った調査によると、保育士資格を持ちながら保育士としての就業を望まない人の「保育士としての就業を望まない理由」では「賃金が希望と合わない」が一位でした。

次に③の「給料を上げられない」のはなぜなのか、ということについて考察します。

保育園というビジネスモデル

この問題は、保育園というビジネスモデルに端を発しています。まず、それについて考えてみましょう。

保育園とは、基本的に「働きたいが子供がいると働けないので、働いている間子供を預けておきたい親」から子供を引き取り、預かっておく代わりに代金を受け取るというビジネスモデルになっています。

ここでは必ず

親が働いて稼ぐお金(A)>保育園が受け取る代金(B) ・・・①

という式が成り立つはずです。なぜなら、A<Bの時、親は働かずに子供の世話を見ていたほうが得をするので保育園に子供を預けるという行動をとらないからです。

ここで、保育士が1人、児童が1人という保育園を仮定して考えてみましょう。この保育園が得る代金はBです。保育士に支払われる給与はBから設備の維持費やその他諸経費を引いた額になるので、

保育園が受け取る代金(B)>保育士の給与(C)

となるはずです。また、①の式から、A>Cであることも自明です。となると、相当子供が好きだとか、ボランティア精神が旺盛だとかがない限り保育士の人はAの給与が得られるほかの仕事に転職してしまいます。これは今回のように保育士と児童の数が「1人」ずつではなくても、人数比が保育士:児童=1:1の時には必ず成り立ちます。

では、これを防ぐためにはどうすればよいのでしょうか?答えはひとえに、「保育士一人当たりの児童の人数を増やすこと」です。

仮に保育士:児童=1:5のケースを考えてみると、

5B>C

となります。こうなればもしかしたらC>Aになるかもしれませんね。つまり保育園というのは、通常一人の親が一人の児童の面倒を見なければいけないところ、保育園という一か所に児童を集中させ、保育士資格を持っている技術ある人材に多くの児童の面倒を見させることによって利益を生み出しています。あとは専用の施設に集めていることによって効率的に面倒が見られるという点もあるかもしれませんね。

少し話がそれてしまいました。本題に戻りましょう。本題は「なぜ保育士の給料は上げられないのか」です。今書いた通り、保育士の給与は保育士一人当たりの児童の割合に依存するのであって、マーケットの大きさには依存しません。つまり、魔法か何かで保育士として就業する人が十分(7.4万人くらい)に増え、待機児童が無事全員保育園に入園することができたとしても、待機児童の入園分で増えたB(保育園が受け取る代金)を、これまた増えた保育士で山分けにするわけですから、保育士一人当たりが受け取る賃金は向上しないのです。となると、結局現行の給与でも保育士として働いていた人々以外は「給料希望と合わないしやーめよ」ってなって7.4万人くらいが保育士を辞めてしまうのです。「魔法で増えた7.4万人のなかにたまたまその賃金でもいいよっていう人がいたらそのひとは残るじゃん!」ってお思いの方もいるかもしれませんが、その賃金でもいいよっていう人は最初か保育士として就業しているはずですよね。だから、魔法で増えた人の中には一人たりとも給与に満足している人はいないはずです。保育士の楽しさに気づいて給与がどうでもよくなった、とかそういったことがない限り、増加分の人は全員転職してしまうでしょう。

これらのことからわかるように、保育士を増加させるためには保育士一人当たりの児童を増やすか、そもそもの価格設定を高くするかの二つの選択肢しかありません。価格が高くなりすぎて(B>A)保育園を利用する人がいなくなってしまうと、保育園が消滅してしまうので全員が待機児童状態になってしまいます。かといって、保育士一人当たりの児童数を増やすといっても、これも限界があります。保育士さんは免許を持っている専門職とは言え人間なのであまりに多くの児童の面倒は一度に見ることができません。また、厚生労働省の資料では、保育士になりたいと思わない理由に、子供たちの安全を守らねばならないという責任が重すぎる、というのをあげている人も多く存在しました。保育士一人当たりの児童人数を増やしすぎては、この責任はさらに重くなり保育士としての就業を望む人はますます減りかねません。

この問題の解決策

待機児童問題の構造を見てきましたが、どんな解決策がありえるでしょうか?

保育士1人あたりの児童数が増えても成り立つように保育士試験をより難しくして、スキルのある人だけが保育士につけるようにするというのが考えられますが、これでは保育士になる人の人数が減ってしまって結局待機児童問題は解決しないでしょう。

次に考えられるのが国が補助金を出すことで保育士の給与を上げる作戦です。実はこれは部分的に行われているそうですが、結局その補助金は設備投資などに回されてしまって保育士の給与になっているのはごく一部だそうです。保育士の給与に充てられる資金が増えることはこの問題の解決につながりそうですから、きちんと保育士の方に十分な給与がいきわたるような仕組みができればよいな、と思います。

あとは保育園の「児童を一か所に集約する」という特徴をフルに生かして効率的に子供の面倒をすることで実質的に保育士一人当たりの児童の数を増やすことなどが考えられます。



具体的な解決策を提示できませんでしたが、まとめると、

「保育士が増えて待機児童が解消されても、増えた収入を増えた保育士で分け合うことになって結局給与上がらないからまた保育士が減るので解決は無理」ということです。


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厚生労働省の資料


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早稲田大学政治経済学部に通っています。プログラミング学習とギターと数学と英語をやって自粛期間を過ごしてます。 いろいろ書きます。ジャンルは、政治、経済、哲学、ビジネス、トレンド、エトセトラ。小説を書きたいと思って早2000年がたちましたが、圧倒的実力不足で小説はかけてません。

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