SF&ミステリーという最高な組み合わせでスウェーデンを学ぶ

最近読んでいる本は、呼び出された男 -スウェーデン・ミステリ傑作集- です。

読み始めてかなり後になってからこの本が6000ページにもわたる分厚さがすごい本だとわかりました。書店で買おうとしたものなら、きっとその分厚さに物怖じして買わなかったでしょう。素晴らしいお話にKindle経由で出会えました。


この本は、スウェーデンの名だたる有名作家のミステリー短編集です。

スウェーデンの暮らしやスウェーデン人の描写から、スウェーデンを学ぼうを思って書いました。嬉しいことにそれらがたくさん書いてあり、とても勉強になりました。具体的には、

・日本ではないような宗派間の対立(レスタディウス派の東西分裂)

・スウェーデンにおける衣住食の豊かさの指標についての描写

・スヌース(スウェーデンで生まれた口の中に入れるタイプの嗅ぎタバコ)やシュナップス(じゃがいもなどからできるヨーロッパ各地にある蒸留酒)など、未知のアイテムとの出会い

・読むだけで凍えてくるような寒くて暗いスウェーデンの冬の描写

・キルナなどスウェーデンでまだ私が行ったことのない街の様子

など、小説を読む楽しさに加えてスウェーデンのこともわかるという点で、その豪華すぎる一冊にとても満足しています。



SF好きの私の心に特に刺さった、タイトルにもなっている呼び出された男という話について主に書いていきます。


この本の面白いところは、

国の権力や決断には抗えない市民の抵抗がいかに無意味か

・人の命に優劣があるのか否か

・国の偉業の達成のためならなんだってする政府の傲慢さ

・医学界の新たなテクノロジーがもたらす、ドミノ倒し状の人体の取り合いの始まり

などといった、物議をかもすトピックが複数入っている点です。

SFは単なる現実から逸脱したフィクションではなく、作家さんから世界に向けた警鐘でもあります。

実際、このお話の1970年代に書かれているのにもかかわらず、人体の冷凍保存や臓器の複製など、ここ最近の医学界の発展を洞察し、それをほぼ正確に予言しています。SF小説は最新技術に振り回される、決してハッピーではない結末のものがほとんどです。この皮肉交じりで未来の予言が覗けるという点で、私はSFが大好きです。


医学的な発展のために、どうしても自らの命を延長したい高齢で危篤状態の天才ドクターは、陸上競技で世界記録を保持する健康な男の体に自らの脳を入れ替え、その体で研究を続けることを決めました。

呼び出された男は、診察の内容や呼び出された要件を知らされないまま、数日間家族から離れて検査三昧の日々を病院で過ごします。

真実を知った男は病院から抜け出そうとしましたが、国はその体を天才ドクターに捧げるために、警察官を総動員してその男を逃しませんでした。

男の脳は冷凍保存され、研究が終わったらその脳の年齢にふさわしい別の体に移植すると伝えられ、その事実を知った妻が泣きながら男に会いにきます。

妻との2時間の面会はあっという間に終わり、診察台で麻酔をかけられて意識がなくなっていく。ここでお話は終わりました。


この、脳を別の人体に移植するということを一人がし始めたら、された人がまた他の人体を必要とし、ドミノ倒し状に人体の取り合いが始まることが示唆されていると思いました。

また、基本的人権を無視してまで男の体で医学的快挙を獲得しようとする国の傲慢さも描写されています。国の決断に逆らうと犯罪になり、普段の生活が奪われるというありえないことも、もしかしたら今後起こるのかもしれないし、すでにどこかで起こっていたのかもしれません。

男は世界記録を持つ逸脱した体力の持ち主だったのにも関わらず、メダル保持者としての次はドクターの手術や研究の”手” として使われる。なぜそのドクターがその男を選んだのか?他人の命を奪ってまでその技術は世界に必要とされているのか?


考えたらきりがないトピックばかりだけど、とても刺激的で誰かに共有したいお話だったのでここで書いてみました。


良かったらこの一冊を読んでみてください!

読んでくださりありがとうございました!

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