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#3【3両目の電車の君】

"2020.5.25"

Key:恋愛。片想い。OOO。大オチ。2回読むべき物語。

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「もし君が知らない人だったら、僕は君を殺めてしまうかもしれない。」

自分でもなんでそんなことをいったのかわからない。
けれど、そんな気がしてしまった。

165cmの君は誰もが注目するようなルックスではないかもしれない。
黒髪をスッと真下に下ろしたきれいな君は柑橘系の香りがして。
近づくだけでなんだか明日のことがもっと美しく見える。
もっともっと君の後ろ姿を追っていたくなる。

そんな君をきっとこの手で守っていたかったのかもしれないと。
そうやって咄嗟にやってきたことばだったんだ。
「聞かれてないだろうか。」
鼓動が波打つように焦る気持ちにはなったが、
きっと今の君は僕には触れてはくれない。
聞こえているかどうか、反応もせずに君は気にせずに僕の隣を独り占めする。

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3両目の電車。

せわしない朝9時の人だかりがある街から街へ。
いつも君とはそこで待ち合わせる。
先に乗っている君は片手にはシルバーのiPhone10を持って。僕とお揃いのケータイでいつも何かを聞いている。きっと洋楽なのだろう。朝の時間は邪魔しないように、その時ばかりは聞こえないように「おはよう。」と声にならない声で挨拶を交わす。

18時ごろにまた3両目の北に向かう電車へ乗る。
朝のように同じ車両には乗れないけれど、
いつも向かっている同じスーパーで待ち合わせる。

君は必ず、朝に食べるであろうヨーグルトとパンを買って帰る。
「毎日そんなものを、よく食べれるな。」
そういうと君は頬を丸めて、ふてくされそうだから
いじわるな言葉は心に留めておく。

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3両目の電車に君がいない。

そんな当たり前のような日常が一変した。

いつもの朝。
何にも変わりのない朝。
空は青く、湿度も低いカラッとした天気。

何にも変わらない街で、変わって欲しくない現実だけが変わってしまった。
どこかで僕らは気づけばすれ違い、
気持ちも確かめられず、
そうして戻れない距離まで遠のいてしまったんだろう。

朝9時の忙しなさも
18時のあのスーパーにも。

君の姿はもう、気付いたらなくなってしまった。
君の隣にいた日常はあまりにも短く感じる。

「君ともし出会っていなかったら、きっとこんな苦しさは知らなかっただろう。」

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ーそうだー

ー君が知らない人だったら、あまりの美しさに殺めてしまうかもしれないー

ーこれ以上、知らないことが増えていったら”知らない人”に。
 今までのことは何もなかったかのように消えてしまうのではないか。ー

そう思うと、自分の意識が遠のいてしまうような気がした。

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「もし君が知らない人だったら、僕は君を殺めてしまうかもしれない。」

一枚の手紙にはただ、そう書かれていた。
白と黒の混ざったマーブル模様の独特な封筒に包まれて。

寒気がした。

宛先も名前も何も書かれていない。
きっとあの人からなんだ。

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僕の声は聞こえない。きっと。

君の笑顔にも触れられない。ずっと。これからも。

僕らはもう交わらないんだ。
明日、もう一度君に会いに行こう。
"サヨナラ"を伝えに。

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3両目の電車。

いつも私は決まってその車両に乗っていた。
iPhone10を片手に。
最近は洋楽にはまっていて、電車の中でそれを聞くのが
毎朝のモーニングルーティーンだった。

けれど、今は4両目。
彼に気づかれないように。

意識してしまえば
私はきっと彼のことを
気にしなければならないから。

そして、いつも彼が乗ってくる駅に着いた。


彼は決まって3両目に乗って、
私のことを探す。

そう。
きっと彼は。
これからも私のことをそうやって見つめてくるのだろう。
私の気持ちも知らずに。

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君のいない3両目の電車。

僕は肩を落とす。

今はもう会えないんだ。

ただ3両目の車両に揺られる。

ふと視線を横にやる。

これは偶然だろうか。

隣の車両に君がいる。

これは運命だろうか。

今すぐ会いにいきたい。
”ごめん”と伝えたい。
最後に”サヨナラ”と伝えたい。

けれど、人混みで前に進めない。

次の駅は、僕らの降りる駅。

そこで伝えよう。

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駅を降りる。

そこには彼の姿。

目があった瞬間。



その瞬間。




寒気がした。


彼の手には、何枚もの封筒。

白と黒の混ざった奇妙なソレは、紛れもなく私に届いていたソレ。


「助けてください!」


気付いたら叫んでいた。

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「えっ。」

言葉にならない言葉が、宙を待った。

僕はただ、君に会いにきただけなのに。

君にそっと”サヨナラ”を告げにきただけなのに。


わからない。


わからない。


気づけばあたりは人で溢れ、
僕の右手から封筒はこぼれ落ちて、
地面に伏せるように僕は姿勢が変わっていた。




君の名前は知らない。

君が何をしているかも知らない。

君がどんな人かも知らない。

3両目の電車の君。

僕は君に恋しただけだった。

近くにいられればよかった。


それだけなのに。



掌から落ちた、封筒から一枚。
自分に見せるように出てきた手紙。

「もし君が知らない人だったら、僕は君を殺めてしまうかもしれない。」


理解できた。

これはきっともう一人の僕だ。

自分じゃない。


自分じゃないんだ。。。。

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後からわかったことだが、彼は多重人格だったらしい。

私をつけていたのは、彼の中の
"僕"という人格。

そして、もう一人いる”自分”という人格。

彼の中には何人かの性格がはっきりとあって、
その間は他の人格は出てこないらしい。


ちなみに彼の右手に持っていた何枚もの白黒の封筒。
その他にもiPhone10を持っていたらしい。
私と同じ洋楽を聴きながら。

そんな彼の封筒からは少し柑橘系の香りがしていた。


今、調査を受けており
いくつの多重人格かを調べているようだ。

その中で既にもう一人の人格者がいることがわかった。

それが”私”という人格。

165cmの黒髪をスッと真下に下ろした”私”。

まるで”私”みたいね。

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ことばクリエイター:高縞 ひな

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