
新卒で地域おこし協力隊になり喫茶店を開業した話
こちらの記事は、一般社団法人にいがた圏様にご依頼いただき執筆いたしました。
新潟県への移住、地域おこし協力隊に興味のある方にご覧いただければ嬉しいです!
今から8年前、
わたしは22歳で東京から新潟県上越市に移住して地域おこし協力隊になった。
それから協力隊退任後、
上越市に定住して喫茶店を開業するまでの話。
たった2年半だったけれど、
あっという間なんて言わないし言われたくない時間だった。
自分にとって長く、苦しい2年半、
けれど楽しく、充実した、
後悔したことはない2年半。
ここでの暮らしを醸すには充分満たされた時間だった。
この文章を書いて、思っていたよりも随分長くなってしまった。
地域おこし協力隊から喫茶店を開業の流れは、
いわゆるロールモデルのように見えるかもしれないが失敗を繰り返して今も自問自答、模索している。
n=1の自分語りになってしまうけれど、
もしよかったらお付き合いください。
[ 自己紹介 ]
まずは簡単に自己紹介を。

□ 名前:宮本小雪(みやもとこゆき)
□ 生年月日:1993年10月19日
□ 出身地:東京都清瀬市
□ 着任前:大学生
□ 趣味:ものづくり、スノーボード
[ なぜ地域おこし協力隊になったのか ]
高校、大学と毎日満員電車に乗るようになって
東京が苦手だと感じるようになった。
駅を歩いていると段々と自分がどこにいるのか、
どこに行きたいのかも分からなくなってきて、
たくさんの人の流れを見ていると自分自身まで見失いそうになった。
みんな何も考えずこのダンジョンを突き進んでいるノンキャラクタープレイヤーに見えて、あぁわたしは東京では生きていけないな、と思った。
東京から出たいと思う理由としてはあまりにもありきたりだったが、当時のわたしは常に漠然とした不安の中にあった。
大学4年生になり、
周りが就活で忙しそうにしている中で
わたしは求人サイトで「上越市 求人」と検索するだけの毎日を過ごしていた。
この先のことを考えたときに、このまま東京で生きていく自分は想像できなかった。
東京を出たいと思ったときになぜ新潟県上越市にポイントを絞ったかというと、
母の実家があるからだった。
小さい頃から夏休みやお正月には祖母の家に遊びに来ていて、大学2,3年の春休みには市内のスキー場で住み込みのアルバイトをした。
とにかく雪がたくさん降るところが好きだった。
来る日も来る日も「上越市 求人」で検索をするが、就きたいと思える仕事を見つけることができなかった。
当時の将来の夢は、グラフィックデザイナーとお土産屋さんと喫茶店のオーナーだった。(後に述べるが全て上越で叶った)
大学ではグラフィックデザインの勉強をしていたので、デザイン会社に就職をしたいと考えていたが、小さなデザイン会社しかない上越市では実務経験が3年以上の採用だけだった。
そもそも新卒で単身移住をして、生活ができるのだろうか?
地方で暮らしていくには車が必須だけれど
大学生で大した貯金もない。
都会に比べて随分低い給料で、
東京から新潟に移住してよかったと思えるほどの
満たされた暮らしを一人で築けるのだろうか。
新潟への移住のために仕事選びを妥協するか、
やりたい仕事のために東京に残るか、
その間で揺れていた。
もう新卒で新潟に移住することは難しいと思い、
東京のデザイン会社の面接を1件受けた。
内定の決まってゆく同級生を目の当たりにして焦っていた。
しかし望みを捨てきれず「上越市 求人」で検索を続けていたとき、
「上越市地域おこし協力隊」の募集を見つけた。
恥ずかしながら、地域おこし協力隊についてはその時に初めて知った。
給与は大卒の平均初任給に比べると大分低いが、
何よりも「家と車が貸与される」ことが決定打となった。
とりあえず家と車があれば生きていけるだろう。
上越市の地域おこし協力隊の活動内容は、
退任後の就農を目指して農業を行う地域と
国の登録有形文化財の古民家を活用した飲食店の企画運営などを行う地域の
2ヶ所の募集があった。
わたしは後者の地域「上越市大島区菖蒲地区」の地域おこし協力隊に
応募することにした。
地域おこし協力隊は任期が最長で3年と決まっているので、
ここで生活の基盤を整えよう。
活動の中で資格の取得もできることも魅力だった。
もうこれでダメだったら新潟への移住は一旦諦めようと思っていたところで、
ありがたいことに地域おこし協力隊の採用をもらった。
[ 着任地域のここが好き ]
新潟県上越市は東京23区の約1.5倍。
海も山もある豊かな自然と
大型ショッピングセンターや総合病院、
個人店まで充実した市街地が
バランスよく共存している。
自然を楽しみつつ、生活の便利さもある、
移住初心者にはおすすめだと思う。
わたしの着任地域は上越市の山側の端っこ。
お隣の十日町市との境にある
大島区菖蒲地区という地域。
冬には多い時で4メートルも雪が積もる豪雪地帯。
地域の中には国の重要文化財に指定されている
茅葺き屋根が立派な「飯田邸」という古民家がある。

実はわたしは地域おこし協力隊では珍しく
着任地域に住居を構えなかった。
協力隊の多くは活動をする地域の空き家を借りて
実際に地域の生活に入り込む。
しかし22歳のわたしが単身でいきなり地域の中に
移り住むのは大変だろう、
と地域の方と行政の担当者さんが車で20分ほど離れた市営住宅への入居を勧めてくれた。

地域おこし協力隊の悩みの多くに
公私の境が曖昧になってしまうことがあるだろう。
また上越市では3人目の協力隊で前例がなかったにも関わらず、わたしに寄り添って提案してくれたことがとても嬉しかった。
活動地域の好きなところはたくさんあるけれど、
雪がもりもり降るところと地域の人たちが特に好き。

わたしが活動していた2年半は雪が少なかった。
地域の方たちは「小雪ちゃんが来てくれたから雪が少ないんだわ」と喜んでいた。
それでも1シーズンに何度かもりもり雪が降る日もあった。
朝、事務所の前に停めた車が帰る頃には
大きな雪の山になっていたりする。
寒いはずなのに汗をだらだらかきながら雪を掘るのが、大変なはずなのに楽しかった。
全部の音を吸い込んで静かにしんしんと降る雪がたまらなかった。
「雪を楽しみにしてるのなんて小雪ちゃんだけだなぁ」と言われて、へへっと笑っていた。

そして、何よりも地域の人たちが好き。
いきなりきたよそ者に地域のおじいちゃんおばあちゃんは「孫が来たみてぇだ」と言ってくれた。
体調を崩した時に地域のお母さんは
「私にとって貴方は娘同然だから、遠慮せずなんでも言ってね」とメールをくれた。
「小雪ちゃーん!野球しよー!」と誘ってくれる小学生も、
毎日山ほどきゅうりとトマトをくれるおじさんも、
いつもお茶飲みに誘ってくれるおばあちゃんも、
東京での希薄な人間関係からのギャップが新鮮だった。

[ 協力隊としての活動 ]
大島区菖蒲地区の募集要項にあった活動内容
・米、高原野菜、そばなどの栽培、販路開拓、農村レストランでの提供
・菖蒲深山そばの継承
・農村レストランの運営補助
・集落支援作業
・高齢者支援作業
・地域行事支援作業
て、てんこ盛り……!
今思えばメールの送り方も、名刺の渡し方も本当にな〜んにも分からないのに
この活動を一人で背負う勇気がよくあったな。
着任初日、市役所の担当者には
「1年目はお茶飲みが仕事だよ」と言われる。
活動の拠点となる事務所を与えられ、
さて、お茶飲み……?
お茶飲みの文化は今までなかったし、
知らない人の家に「お茶飲ませてくださーい!」とも言いに行けない。
もちろん今になれば、
何をするにしてもまずは地域の人と仲良くなることが大事だというのは分かる。
とりあえず自分の自己紹介をA4の紙に印刷して、
地域の家にあいさつに回った。
とはいえ急に来たよそ者、お茶飲みには呼ばれず1ヶ月が経った。
生産組合の田植えや、高齢者サロン、地域おこし協力隊の研修、そば打ち、、
市役所の担当者と地域のキーパーソンから声のかかった場所に行きとにかく挨拶をしまくった。


そうしているうちに、
事務所の目の前のお家に住んでいるおばあちゃんが
「小雪ちゃーん。お茶飲まんかねー?」と
声をかけてくれるようになった。
他のお茶飲み仲間の家に行く際にも誘ってくれて、
だんだんと地域に受け入れられていく感じがした。

1年目は頼まれた仕事をこなし、
毎日お茶飲みをしていただけだった。
本当にこれで良いのか……?と思っていたが、
頼まれたことは断らず、
分からないことは分からないと言った。
2年目、
国の登録有形文化財である飯田邸を活用した
「いいだていかふぇ」を企画、立ち上げ。
元々飯田邸では年に3〜4回イベント営業として
地元の菖蒲深山そばを提供していて、
1年目にはそのお手伝いをした。
その中でもっと若い人にも来てもらえないか、
営業日を増やせないかと企画案を提出した。
菖蒲深山そばは、地元産のそば粉を使用した十割そばで強いコシと風味が特徴。
イベント営業を楽しみにしているファンも多かった。
そばと合わせて異なるターゲット層に菖蒲地区を知ってもらうため、フランス料理のガレットを提供した。

当時上越市内でガレットを提供しているお店がなく、地域で栽培しているそば粉を使用するには
ガレットがぴったりだと思った。
生産組合バックアップの元、
地域の方にお手伝いいただきながら
夏季に(冬はあまりにも雪深いので)週3日の営業。
上越市の中心部からは車で50分程度と決して来やすい立地ではない場所に自分の企画で初めて菖蒲地区を訪れる人がいて、
「今度はイベント営業の時も来ます」と言ってくれる人がいて、
近所の中学生が「手伝いたい!」と毎週来てくれて、
ここに移住を決めて良かったなぁと感じることができた。

また、
高齢者サロンでのワークショップの企画、
地元青年会とクリスマス会の企画、
生産組合の農作業、
地域行事への参加などを行った。



3年目は退任後に向けて
「いいだていかふぇ」を地域の主導で運営できるよう引き継ぎを行いつつ、転職活動を始めた。
退任後は仕事のことを考えて大島区からは離れるが、上越市内中心部への定住をしたいと思っていた。
任期中に調理師免許を取得したこともあり、
上越市立水族博物館内のレストランとお土産屋さんを運営する会社に内定をもらうことができた。
会社からなるべく早く来てほしいと言われ、
地域と役所担当者に相談したところ
「上越市内にいてくれるなら、協力隊は途中で退任して大丈夫だから」と背中を押してもらった。
2年半の活動や思いは、
ここには到底書ききれない。
けれど、地域おこし協力隊の交流会に呼ばれた際によく伝えることは
「1年目はお茶飲みでよい、
2年目にがむしゃらに頑張ると
3年目の活動は波に乗って楽になる」
ということ。
[ 転職、喫茶店の開業へ ]
協力隊を退任して市内で引っ越し、転職をした。
もう移住者の地域おこし協力隊ではなく、
上越市の人、になっていた。

言葉のイントネーションも似てきて、
東京に帰省しても上越に戻ると「帰ってきたー!」と思って、季節の中で生きている実感があった。
雪解けの音、
こごみの胡麻和えや蕗味噌の苦味、
高田公園の満開の桜、
田植え前の水鏡になった田んぼ、
コーヒーをテイクアウトして海を眺めながら感じる潮風、
青々とした山と虫の声、
稲刈りの時の土の香り、
カメムシの多さで降雪量の予想、
青く光る雪、朝のツンとした空気。

移住してきた頃、
「こんな何にもないところによく来たね」
と何度言われたことか。
こんなになんでもあるのに。
欲しい物は大抵ネットで頼めば翌日に届くし、
東京にはないものが山ほどあって楽しい。
転職をして、結婚をして、子供を産んで、
ライフスタイルが変わったことで仕事を続けるのが難しくなった。
長くなってしまうので色々省くが、
小さい頃からの夢だった喫茶店を開くことにした。
上越市に移住して7年が経っていた。
最初の頃よく耳にしていた「上越って何もないよね」なんて言葉を段々と聞かなくなってきていた。
そんな「何もないよね」を変えたのは
上越の素敵なものを発見したり、磨いたり、新しいものを作ったり、発信したり、大切にしてくれた人たちのおかげなのだと思った。
わたしも上越をちょっと面白くしたい、
という思いで「読書喫茶ヒミツヤサン」を開業した。
かたわら、デザインやものづくりをしている。

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[ さいごに ]
わたしは上越市大島区菖蒲地区で地域おこし協力隊になって、移住をして後悔したことはないけれど、
地域の方たちはどうだったのだろうと今でも思う。
わたしが協力隊の活動をして、
上越市といえど地域から離れた場所に定住をしたことをどう思っているのだろうと不安になることもある。
けれど「いいだていかふぇ」を地域の方が今年も営業してくれて、
わたしのお店にも遊びに来てくれる人がいて、
たまに連絡をくれたり、お茶飲みをしてくれて、
それで十分なのかもしれない。
簡単に「上越おいでよ!」「協力隊おすすめ!」とは言えないけど、
少なくともわたしは上越が大好きだし
協力隊として移住してみて良かった。
もし上越に移住しようかな、と思っている方や
協力隊になった方、移住してきた方がいたら
ぜひお店にお茶をしにきてください。
相談に乗ったりアドバイスできるようなことはないけど、
上越の素敵なところ、面白いところはたくさん教えられますー!

[ お知らせ ]
にいがた地域おこし協力隊 合同説明会開催!

新潟県の地域おこし協力隊に関心のある方、新潟移住に関心のある方、新潟県内の地域おこし協力隊の最新情報が手に入るオンラインイベントが開催されます!是非とも、この機会にご参加ください!
\このイベントで聞けること/
・具体的にどんなお仕事を協力隊はするのか
・どこの市町村が協力隊を募集してるのか
・お給料や待遇はどんな感じか
・協力隊員はどんなことにやりがいを感じるのか
【日時】
令和7年2月19日(水) 19:00-21:00
【参加方法】
オンライン開催(バーチャルプレイス「ovice(オヴィス)」を使用)
【対象者】
地域おこし協力隊の活動に興味のある方、応募を考えている方、
新潟県への移住を検討している方 など
【申込等について】
・参加無料です。
・事前申込が必要ですので、2/18(火)までに下記のフォームからお申込みください。
<参加申込フォーム>
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