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英国動物愛護事情②「暗黒面」から思うこと

前回、イギリスの「ルーシー法」をご紹介しました。生後6か月未満の子犬・子猫をブリーダー以外の「第三者」(仲介業者やペットショップなど)が販売することが禁止されました。また、ブリーダーは子犬や子猫を母親やきょうだいと共に、飼育場所で見せなくてはいけません。

この法律、一番の目的は「パピーファーム」など劣悪な環境で行われている飼育・繁殖をなくすことです。動物福祉の先進国といった印象の強いイギリスですが、課題も多いみたいです。東欧の国などから違法に子犬を仕入れる悪質な業者をなくすことも狙い、何年もかけて施行に至ったのがルーシー法だそうです。

パピーファーム(Puppy Farm):直訳すると「子犬農場」。アメリカでは、「パピーミル」=子犬工場が一般的

政府主導の啓蒙活動
イギリス政府は「ゲット・ユア・ペット・セーフリー(= ペットを安全に迎えよう)」というキャンペーンも行っています。SNSでプロフィールを偽って異性に近づくことを、英語で「キャット・フィッシング」と呼ぶらしいです。それになぞらえて、悪意ある動物販売業者のインターネット情報による「ペット・フィッシング」の罠にかからないよう警告しています。

プレゼンテーション1

イギリスでもネットで子犬や子猫を探すことが多いようです。でも、「お金のために動物を不適切に扱う、悪質な業者が想像以上に存在する」としています。そんな業者が扱う子たちは、健康面や精神面での問題を抱える傾向があり、飼い主さんも大きな負担を強いられる場合があると説明しています。

需要が無ければ供給も無くなる
また、そのような業者から子犬・子猫をお迎えすることは、業者の生き残りに加担していると警鐘を鳴らしています。飼い主側にも、「業者を慎重に見極める意識を持つように!」とのことです。確かに需要がなければ商売は成り立たず、結果として供給がなくなるわけで、パピーファームや悪質業者に苦しめられる動物たちはいなくなりますよね。

最終的には、犬や猫たちの幸せのために考えられた法律です。

ペット取引の「暗黒面(ダークサイド)」
このウェブサイトでは「ペット取引のダークサイド」として、衝撃的な実例も紹介されています。

亡くなった子猫のケース:お迎え4~5日後にひどい下痢と下血で動物病院を受診。まだ生後4週間程度であることが判明。治療の甲斐なく、12日後に死亡。

別のケースでは違法行為が発覚しました:

組織犯罪のケース:ペット紹介サイトで知った家庭(個人ブリーダー)から子犬をお迎え。直後に体調を崩し、相談のためブリーダーに電話。何度かけてもつながらず、おかしいと感じた飼い主が動物保護団体に連絡。捜査の結果、パピーファーム業者であることが判明。(なお、子犬は生死の境をさまよったが、回復)

飼育場にいた犬たちは、尿の臭いにまみれ、すべて肢や胸などにキズを負っており、被毛の長い犬種は毛玉だらけの状態だったと言われています。その業者は、5年間で数百万ポンド(およそ数億円)を売り上げていたそうです。

プレゼンテーション1

この事件には後日談があります。業者は「両親と子ども役」を雇い、短期契約で家やマンションを借りて家族経営のブリーダーを装っていたそうです。子犬や子猫は、生まれて間もなくお母さんから引き離され、パピーファームから連れて来られます。偽装「パスポート(登録証)」で、外国から密輸入されることもあるそうです。

ルーシー法施行後は、より手口が巧妙になる懸念もあるようです。対策に向けて活動している保護団体について、またご紹介したいと思います。この辺は、「さすが動物愛護先進国」と感じさせられますよ。

イギリスの暗黒面から学ぶこと
さて、日本の場合は法律や流通システムの関係で、こんな手口が問題になることはないと思います。今回、改めて考えさせられたのは、「需要がなければ供給もなくなる」というキャンペーンのメッセージでした。

"If you buy a pet from these sellers, you may not only end up with huge vet bills, but you will also help this cruel trade continue."  => 「こうした販売者からペットを購入すると、動物病院への高額な支払いが必要となるかも知れません。でも、それだけではないのです。虐待的なビジネスが今後も続いていくことを、あなたは間違いなく(結果的に)サポートすることになるのです。」(https://getyourpetsafely.campaign.gov.uk/) 
筆者注:医療費の場合は助動詞に「may = 可能性」が使用されている。一方、最後の節では「will」が使用されており、ニュアンスを正しく翻訳するため「間違いなく」を追記

当然のこととして、劣悪な飼育環境で繁殖させられている親犬・親猫は救わなくてはいけません。これに関しては、改正・動物愛護法の「飼養管理基準」が作成されていて、改善に向けた動きが活発化しています。

一方で、顕在化しずらいのですが、日本でも利益優先の繁殖屋が「健康面や精神面での問題を抱える」子犬を量産しています

プレゼンテーション2

「命を扱うプロ」としての意識知識を正しく持った本当の「ブリーダー」さんを見極める目を養う努力が、私たち飼い主の義務ではないかと…。需要、相変わらずあるようですが…