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小さな命がまく、幸せの種

前回はちょっと重たい話になってしまったので、今回は温かい「家族」のもとで生まれてくる小さな命たちをご紹介します。

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ブリーディングとは、いわば命の創造。それは、「心」が介在するものであるべきだと思います。そんな環境では、前回書いた平蔵やお姉ちゃんの様な遺伝的疾患のリスクはあたりまえの前提として避けるための努力が行われます。もちろん、極・近親交配などで「売上」を安易に得ることが優先順位の(最)上位に来ることも決してありません。

素敵な誕生のストーリー。一人でも多くの方に知って欲しいと思います。

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ベテランお母さん、ナッツ
ひめりんごと平蔵のお友だち「ナッツ」。もうすぐ3歳になるジャックラッセルテリアの女の子です。すでに2度、立派に子育てを終えているので、うちの「ふたり」よりも年下ですがベテランのママさんです。

ナッツは生後4ヶ月の頃、ご家族に迎えられました。お母さん、お父さん、それから小学生のお姉ちゃんのもと、愛情たっぷりのお家で暮らしています。

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ナッツの日常:社交的なプロフェッショナル
お母さん(産んだ方でなく飼い主さん^_^)は、往診メインの獣医師・堀江志麻先生。平蔵がひどい下痢から血便が出て、ぐったりした時もすぐに駆け付けてくれた命の恩人です。お家での診察・処置なので、ビビりで、それでいてキレキャラ(^_^;) のひめりんごも大丈夫!

ナッツは、しまペットCLINICの「往診同行犬」として、一緒に患者さんのお宅を訪問することもあります。

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ひめりんごと平蔵は、家に来て最初の健康診断から始まり、楽しいイベントでもお世話になっているので、先生のことが大好き。犬見知りのひめりんごが、信頼できる先生のご家族であるナッツとはびっくりするくらい早く打ち解けられました。「保定」*のやり方を教えて頂くときのモデルになってくれたこともあります。また、なかなか素人には難しい歯磨きの練習役もこなし、社交的かつプロフェッショナルな大人ワンコです。

(* あお向けで膝の上に乗せ、飼い主のOKが出るまでその体勢を保持すること。診察や被毛などのお手入れに加え、飼い主とのコミュニケーションにおいても基礎ともなります)

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ナッツの出産:ご家族のもとで
彼女が最初の赤ちゃんを産んだのは、2018年の12月10日。2度目のヒート後、1歳9か月の頃でした。とても軽い初産で、ナッツを取り上げた「ブリーダーさん」(*ここでの「ブリーダー」の定義については、前回の記事を読んでくださいね)がお家に着く前に男の子、女の子「ふたり」の元気な赤ちゃんが生まれちゃいました。

(古くから安産の代表と考えられている犬ですが、難産になる場合もあるため、経験のある専門家の立ち合いが通常は望ましいそうです。ブリーダーさんはイヌの助産師さんでもあるんですね。)

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この日は朝から軽い陣痛が始まり、11時半に「ひとり」目が誕生。そのわずか15分後には「ふたり」目がポロっと生まれ、お昼前には2児の母になったナッツ。「ナッツのおうち」で、一息ついているうちに、ベビーたちはおともだちワンコのお母さんたちの愛情あふれる温かい手に包まれて、産湯につかっていたのでした。

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ところで「ナッツのおうち」は、お姉ちゃん(先生のお嬢さん)と、そのお友だちがナッツとベビーたちのために作ってくれたもの。「奥は暗い方がいいよねぇ」、柵は「赤ちゃんは出られないように、でもナッツは出やすい高さがいいよねぇ」など、みんなでアイディアを出しながら出来上がったお家。ベビーたちは、生まれる前から、たくさんの愛情に包まれてたんです

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仔犬たちの成長:愛情ある教育的指導
おっぱいをたくさん飲んで、いつもポンポコリンなお腹の仔犬たち。男の子は167g、女の子は199gだった体重は、5日後には倍に増えました。生後2週間を過ぎた頃には、眼が開きはじめ、おっきな頭を少~し持ち上げてよちよち歩きができるようになりました。生まれたばかりは、耳に穴が開いてないんだってことなど、恥ずかしながら私も初めて知ることがいっぱいでした。

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生後1か月を過ぎると、しっぽフリフリで歩き回ったり、きょうだいでプロレスごっこをして遊んだり、すっかり犬らしくなりました。よちよち歩きの頃からご家族がトレーニングをしていたので、この頃にはシートの上でトイレができるようになった「ふたり」!ひめりんごも平蔵も、トイレが完璧になるまでには半年以上かかりましたが、早い段階から適切な方法で教われば、仔犬ってできるんですね。

ちなみに、生まれた時は200gなかった体重は、この時点でふたりとも約1キロ。体の大きさが1か月で5倍になったのと同じくらい、トイレだけでなく、色んなことをすごいスピードで吸収するんだと思います。

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ヒトも犬も大好きで、社交的かつとっても穏やかな性格のナッツ。お母さん(飼い主の先生)によれば、うなったことは一度も無いそうです。育児では、おっぱいをあげて、うんちやおしっこの世話をして、だいぶやせる程の愛情をかけていた彼女ですが、仔犬たちには唸ることがあるそうです。お母さん曰く、
「(話をしたわけじゃないので)ホントの理由は分からないけれど、自分より強い犬が現れた時、動きを止め、時にはひっくり返り、敵意がないことを伝えることを仔犬に教えているように感じます」

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私もひめりんご&平蔵と暮らしているので理解できますが、日々のふれあいの中でお母さんが感じるこの印象、おそらく正確だと思います。教育的指導=叱り、も含めたバランスの良い愛情が小さな命には大切。私たち人間と、きっと同じですよね。

仔犬たちの巣立ち:幸せの種
生後約2か月、ナッツママとご家族が注ぐいっぱいの愛情に包まれてすくすくと育ったきょうだいは、1月末にブリーダーさんのもとにお引越し。新しいご家族が決まったこともあり、親離れして自立心を養うために「ひとり」で眠ることも学習するそうです。

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そして2月。「なぎちゃん」と「コモンくん」と名付けられたナッツベビーは、それぞれのご家族のお家へと巣立っていきました。お別れの日、お母さんからふたりのご家族に素晴らしいプレゼントがありました。ナッツが、なぎちゃん、コモンくんを身ごもった時のエコー画像から、誕生と昨日までの成長記録。

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いつか新しい飼い主様が決まったら、このアルバムをプレゼントしよう。たぶん99%が、母犬と子犬がどんな風に過ごしたかわからない世の中。でも残りの1%から、少しずつアルバムを手にする人が増えますように

不衛生な環境の中、ひたすら仔犬を産ませ、競り市に犬が出回る日本。母犬は子犬を産み出す機械じゃないから、家族に愛されてほしい。そんな幸せの種が広がりますように

という想いが込められたアルバムだそうです。

ふたりが旅立った後、お母さんに「寂しくないですか?」と聞いてみました。「確かに少し寂しいけれど、それ以上に、新しい親戚(=ふたりをお迎えした家族)ができたような嬉しさの方が大きいかな」、とのことでした。

なぎちゃんとコモンくんも、今ごろ「家庭」の中で「家族の一員」として暮らしているでしょう。ナッツもベビーたちも、ご家族から本当にたくさんの愛情を与えられていると思います。でも同時に、ご家族にも彼女たち・彼からたくさんの「ギフト」が贈られているでしょう。その贈り物の一つが、新しい親戚としての、人とヒトとのつながりなのかなと感じました。

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ブリーディングとは:「いのち」をつなぐ?
ナッツは去年(2019年)の11月にも、ころっころのベビーを出産しました。この時は5頭でしたが、ベテランママに育てられた仔犬たちは、また「新しい親戚」をナッツのお家にプレゼントして、それぞれのご家族のもとに巣立っていきました。今後も、ナッツとお母さんは、こうした「いのち」のつながり活動を通した幸せの種まきを続けられると思います。

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ブリーディングにおいては、「家族がキーワード」だと語るお母さん。「家族」と暮らす母イヌが出産し、その家庭で育てられた子犬たちが、適切なプロセスを経た上で自分たちの「家族」のもとに巣立っていく。それが、「命」を扱う上では欠かせないのではないでしょうか?

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私は、命の誕生を大切にし、「何があってもずっとサポートする」、という想いがブリーディングの原点にあるべきだと感じます。同じきょうだいでも性格は違う。この子がどんな性格か、どこに気をつけるべきか、どこを伸ばしたらいいか。それは、一緒に暮らしてみたからわかること。それをしっかり新しいご家族に伝える事がすごく大切

モノの見方・考え方は本当に様々で、世の中には唯一無二の「正解」が無い場合が多いとは思います。が、ことブリーディング(=「命」を産みだすこと)に関しては、お母さんのこの考えが「正解」だと私は考えます。みなさんはどう思いますか?「次女」であるナッツの妊娠・出産・子育てからベビーたちの巣立ちを通して、お母さんは次のようにつづっています:

1頭の犬が、1つの家庭で愛され、大切にされ、そして母犬となり、新しい家族を幸せにしてくれる仔犬たちを産む。そして、出来る限り心身ともに健全な仔犬たちであるようこちらも努力をしなくてはいけない。犬たちの出産はこうであってほしいなぁ。母犬がどこでどんな風に暮らしているのか、どんな風に仔犬を育てたか、見える世の中になりますように 

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仔犬の誕生が、こんな想いのもとであれば、前回書いたような遺伝的疾患で苦しむ犬たちも間違いなく減るでしょう。あ、あと、「チワプーの着ぐるみを着た喜怒哀楽」ひめりんご姉さんがどんな環境で、どんなお母さんとお父さんのもとに生まれてきたのかが分かれば、もっといい関係性が築けるかもしれないなぁ・・・なんてことも思ったり・・・。

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最後に今回も「ダークサイド」から心の声を…^_^;
と、思いましたが、今回は温か~いお話しなので「ダークサイド」の声も出てきません。もういちど繰り返すと…、モノの考え方・見方や価値観はたぶん人の数だけあるでしょう。どんなビジネスをしても、周りに迷惑を掛けなければそれぞれの自由。それから、世の中には理想論で解決できないこと、たくさんあります。でも、「いのち」を扱うにあたっては、安易な売り上げ以上に大切にして当然なこと、たくさんありますよね?違いますかね…

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写真提供:しまペットCLINIC