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人生や仕事に悩むすべての人に―『お探し物は図書室まで』

先月、編集制作会社を退職した。たったの2カ月で早期退職。

ホワイト企業を謳う会社だったから入社したのに、実態は真逆だった。大量の業務を社員に押しつけて、残業代はなし、締切に間に合わなければすべて社員の責任と怒られる。

労基を違反し、社員を労らない社長の態度と会社の体制に耐えられず、社員全員で一斉退職した。

私は小学校の頃からライター・編集者になりたくて、これまで夢一筋に生きてきた。ようやくやりたい仕事ができると思って転職した結果がこれだ。初めての無職。

人生って思い通りにいかないことばかりだ。文章に携わる仕事をしたい気持ちは変わらないけど、身を削って仕事をする働き方は自分には合わない。何が自分にとってふさわしい道なのか、問い続ける日々。私はこれから先、どうやって生きていったらいいんだろう。

そんな時に出会ったのが、青山美智子著『お探し物は図書室まで』だった。読書家の間で評価が高く、気になったから図書館で予約して、数人待ってようやく手元にやってきた小説。人生や仕事に悩む今の私には、ぴったりすぎる一冊だった。

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人生や仕事に行き詰まりを感じる人々

ここには、人生や仕事に行き詰まりを感じている人々がたくさんいた。連作短編として描かれる、5人それぞれの物語。みんな私と同じだと思った。

一章 朋香 二十一歳 婦人服販売員
二章 諒 三十五歳 家具メーカー経理部
三章 夏美 四十歳 元雑誌編集者
四章 浩弥 三十歳 ニート
五章 正雄 六十五歳 定年退職

やりたいことがあるわけでもなく、ただ内定をくれたから働いているだけ、生きがいを見出せない朋香。子供の頃からアンティークの雑貨屋を開きたいという夢を抱き続けるも、会社の人間関係や仕事に支配され、もやもやした気持ちで過ごす諒。

雑誌編集部でバリバリ働いて、育休から復帰したら資料部への異動を告げられ、育児や仕事に行き詰まりを感じる夏美。イラストの仕事をしたいのに、就職はうまくいかず、バイトも続かず、ニートの状態が続く浩弥。42年間真面目に勤め上げ、定年退職し、この先何をして生きていけばいいのか悩む正雄。

どの人の悩みも、誰しも生きていれば必ず経験するものなのではないかと思う。目の前に立ちはだかる壁、望み通りにいかない現実、居場所が見つからず思い悩む日々。彼らの想いに共感してばかりだった。

司書の小町さんが背中を後押ししてくれる

そんな彼らに救いの手を差し伸べるのが、町の小さな図書室で働く司書の小町さん。「何をお探し?」と深みのある低い声で尋ねる。その第一声から不思議な安心感を覚える。

小町さんは目当ての本を探してくれるだけではなく、人の人生に一振りエッセンスを加えるような力がある。みんな小町さんの言葉や、選ぶ本から何か気づきを得て、前を向いていく。気づくのは、その人自身の力だけど、それに気づかせてくれるのは小町さんが差し出してくれた本、言葉、かわいい付録たち。小町さんにどれだけ救われたことだろう。

小町さんにもらった本や付録はきっかけとなり、彼らはそれから自分で何かを感じ、答えにたどりつく。何を探しているのか、冷静に自分に問いかけて、今できることからゆっくりやっていく。やっていくうちに、道が開けることもある。

私も小町さんに本を選んでもらって、悩みも聞いてもらいたいな。理想の素敵な司書さんだと思う。

温かい読後感が心地よく、心に響く作品だった。彼らと一緒に私自身も慰められているように感じて、彼らのように私も諦めずゆっくりやっていこうと思った。人生や仕事に行き詰まっている人、悩んでいる人、本が好きな人には特におすすめしたい。







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