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【超ショートショート】(143)~いつか同じ音色に~☆ASKA『Black&White』☆

箱庭と言われる、
箱の中に、
ある街並みが映し出されている。

その街並みを眺める者が1人、ここにいる。

彼女は、いつかこの箱庭の街に仲間入りする、
その予定であると、神様から告げられていた。

(神様)
「お前には出会わなければならない人物がいる」

その人物を求めて、
その箱庭に産み落とされる予定が、
もう何年と何十年と過ぎていた。

彼女は、
以前居た別の箱庭の街で、
その出会わなければならない人物に出会い、
恋をした。
ふたりは、次の世で一緒になることを約束して、
彼女はその箱庭の世から卒業。

彼女は、毎日、
自分が生まれる予定の箱庭のその人物を見つめ、
どんどん自分とは違う世界の人になっていくのを、
寂しく感じていた。

(彼女)
「どうして人は誰かを好きにならないといけないの?」

そんな悩みを募らせながら、
彼女は、箱庭のその人物のために、
できることはないかと、
勉強を続けた。

彼女が夕方箱庭を眺めていると、
彼女に尋ね人が来たと、
施設の先生が話し、
彼女のもとへ連れてきた。

(尋ね人)
「いや、こんにちは!」

はじめてみる人に人見知りしていると、
その尋ね人はこう話した。

(尋ね人)
「今回のその箱庭に、
君が生まれることはなくなりました。」

(彼女)
「どうして!?」

(尋ね人)
「それは、
もう君にも理由がわかっているだろう。」

すると、彼女は泣き出してしまう。
彼女が出会わなければならない人物と
言われていた男(ひと)に
愛する女(ひと)ができ、
そのふたりは互いの想いを成就させたという。

だから、そんなふたりのもとに彼女が
生まれでる意味がないと神様に判断された。

ひとしきり泣き終えると、
彼女が堰(せき)を切ったように話し始めた。

「どうして私は、いつも一人なの?
神様にだって、次は一緒になれるって、
だから、辛抱しなさいって。
なのに、何度も何度も辛抱したのに、
いつも目の前の箱庭で彼の幸せを見るのよ!
私、どんな悪いことをしたって言うの?
どうして、生まれると、人は人を好きになるの?
何のために人は生きるの?
やっぱり愛?
そんなもの、この世からなくなればいいのに(涙)」

尋ね人は、彼女の話を聞きながら、
笑顔の中に、心配な笑みを浮かべこう諭すように
尋ねた。

(尋ね人)
「どうして、君はいつもそうなんだい?」

(彼女)
「いつもって?」

(尋ね人)
「いつもはいつもだよ(笑)。
何で君は、自分から寂しいほうへ歩くんだい。」

(彼女)
「歩いてないよ!(怒)」

(尋ね人)
「いや、歩いてるじゃないか!
自分の言葉を見ればわかるだろう。
何で君は、人から逃げようとするんだ?
好きならば、もっと素直にならないと、
もしあの男(ひと)が
君のことを好きになってくれていても、
神様が、一緒にはさせられないって、
そう思ってしまうんじゃないか?」

(彼女)
「だから、私は生まれないの?」

(尋ね人)
「そうだよ。君が生まれないのは、
その男(ひと)を傷つけないためで、
もっと言えば、君自身を傷つけたくないんだ!」

(彼女)
「傷つくって?」

(尋ね人)
「それはね!君があの男(ひと)と
同じ音色の気持ちじゃないことを知るからだよ。」

(彼女)
「音色?」

(尋ね人)
「音色とは、人の心の波長みたいなもの。
同じ考えとか気持ちの人同士なら、
心の波長もピッタリとあって、
耳に心地よいハーモニーが流れる。
でも、もし心の波長が合わないとしたら?
ただの雑音になり、自然と波長の合わない人とは
一緒にいなくなる。
今の君の心の音色は、あの男(ひと)とは、
違うんじゃないか?
そう自分でもわかるだろう。」

尋ね人の話したことを熟考するように、
しばらく沈黙が続いた。
彼女は箱庭の男(ひと)を眺めながら、
自分と何処が違うのか、
話ながら気づこうとしていた。

(彼女)
「どうして違ってしまうんですか?
互いに好きだという気持ちは
前の箱庭で確認しています。」

(尋ね人)
「それは前のだからだ!
また新しい箱庭になれば前のことを
少なからず忘れてしまう。」

(彼女)
「ひどい!」

(尋ね人)
「ひどいことじゃない。何度も箱庭を変え、
何度もいろんな人生を経験する。
それが人としてのこの世のつとめとなる。」

(彼女)
「何で生まれてくるの?」

(尋ね人)
「それは、愛を知るためだ!」

(彼女)
「愛を知ってどうするの?」

彼女からのこれから堂々巡りの尽きない
質問責めに合うと予想する尋ね人は、
彼女の頑固な心を解きほぐすように、
話を続けた。

(尋ね人)
「さて、もう質問はよいだろう。」

(彼女)
「いいえ、まだ質問の途中よ!」

(尋ね人)
「君の質問には、もう意味はない。
君はもっと素直になりなさい。
どうして、そんなに殻に閉じ籠るんだ!」

(彼女)
「籠ってないよ!」

(尋ね人)
「いや、籠ってるじゃないか!
そうだから、人の気持ちにも気づけないんだぞ!」

(彼女)
「人の気持ち?」

(尋ね人)
「もし君が心を解きほぐし素直になっていれば、
あの男(ひと)とこの箱庭で一緒になれた。」

(彼女) 
「えっ?!」

(尋ね人)
「君がいつまでも、
無い悩みを悩んでいるから、
あの男(ひと)が待っているのにも
気づかなかったんだよ!」

(彼女)
「待って・・・いる? 」

(尋ね人)
「そうだよ。あの男(ひと)は、
あの女の人と一緒になるギリギリまで、
前の箱庭で〈一緒になる〉と約束した
君のことをちゃんと思い出し、
長い間待っていたんだよ!
君も上から見ていた気づかなかったのか?」

彼女は信じられない話を聞いた顔をしながら、
尋ね人の話を聞いた。

(尋ね人)
「君とあの男(ひと)が約束した公園のベンチ。」

(彼女)
「ピアノ柄のベンチ?」

(尋ね人)
「そうだ。
そのベンチに毎日通っていたのを見ていただろう?」

(彼女)
「うん。」

(尋ね人)
「あのときあの男(ひと)は君を待っていたんだよ!
ベンチに来る前に花を買ってきたり、
お菓子や果物を持ってきたり、
全部君へのプレゼントだ。
でも、君は、そんな男(ひと)の思いにも気づかず、
無い悩みを作って、自分は駄目だとそればかり。
もうこの世にはいらない人間だと思っているし。
君は、誰からも愛されていないと、
ずっと前から信じてる。
なぜだい?」

彼女は、そんな難題に答えられずにいると、
尋ね人が彼女に代わり答えを言った。

(尋ね人)
「君は他人からの愛情表現を知らない。
というよりも受けたことがないんだ!
子供の頃に他人に抱きしめられた感覚も、
頭を撫でられ誉められた経験も何もない。
いつもひとりぼっちだった。
その寂しさが自分だと思うようになり、
幸せの寂しさを知らずに来てしまったんだ。
君も幸せの寂しさを知っていいんだよ!」

(彼女)
「幸せの寂しさって?」

(尋ね人)
「幸せにも寂しさがあるだろう?
君は幸せっていうと逃げるから、
だから幸せに寂しさを付けてみたんだ。
君も幸せになってもいいってことだ。
幸せの寂しさは幸福ってこと。」

(彼女)
「幸せって?」

(尋ね人)
「幸せになったときの自分を思い出してごらん。」

(彼女)
「ちょっとわからない。
怖いかな。幸せって。」

(尋ね人)
「なぜ怖い?君の子供の頃のひとりぼっちは、
君の幸せとは関係ないんだよ。
誰だって幸せになっていい。
他人から愛されていいんだよ。
ここでは、
もっと自分に自信を持てと言いたいところだけど、
そう言われ続けた君には、
その自信の付け方がわからないんだよな。」

彼女が「うん!」の頷く。

(尋ね人)
「じゃあ、こうしよう!
君は箱庭にいるあの男(ひと)が好きだ!
それは変わらないだろう?」

(彼女)
「うん」

(尋ね人)
「あの男(ひと)と同じ心の音色になれるように、
真似してみてごらん。
同じ音色、波長になれれば、
いつしか幸せになっていると気づくはずだ!
真正面から来る幸せは、怖いかも知れないが、
例えばピアノの音色が運んで来る幸せなら、
いつも音楽を聴く度に、
君は自然と心を解放して幸せを受け入れている。
幸せって、そんな些細なこと。
怖くなんかないさ。」

(彼女)
「もし、あの男(ひと)と同じ音色になったら、
いつか今度、一緒になれますか?」

(尋ね人)
「あぁ~、なれるとも(笑)」

(彼女)
「でも、もしなれなかったら?」

(尋ね人)
「そうならないように、
僕が君の幸せを命を掛けて祈ってあげるよ!
僕は君が幸せになれるなら、
この命も惜しくないんだ!
もう神様にそのように、
ここに来る前に約束してきたさ!
だから、もう怖がらなくていいんだよ!
幸せを怖がるな!(笑)」

その話を聞いて少し涙を浮かべた彼女が、
どうしてそんなに親切に、この尋ね人がするのかと
不思議に思った。

(彼女)
「あなたは、誰ですか?」

(尋ね人)
「僕かい?僕は君の守り神だ!
君は僕であり、僕は君なんだ。
だから、君が幸せになってくれないと、
僕も幸せになれない。
君の守り神の中で、
誰が君を幸せにできるのかと、
今競走中なんだ!」

(彼女)
「競走?」

(尋ね人)
「そう!君をもし僕が幸せにできたなら、
僕もまた箱庭に生まれでることが出来るんだ!」

(彼女)
「誰か会いたい女(ひと)がいるんですか?」

(尋ね人)
「あぁ~、いるよ!」

(彼女)
「どこにいますか?」

(尋ね人)
「ほら!ここだよ!
君のあの男(ひと)の隣の女(ひと)。」

彼女と尋ね人は、
お互いが同じ音色だと知ると、
安心したように笑みが生まれた。

彼女は、この時、
「幸せ」という些細なことを
受け入れることを怖いとは思わなかった。
どちらかというと、
嬉しい!楽しい!
そんな思いだった。

(尋ね人)
「そうやって、少しずつ幸せになれるといい。
焦らず、一緒に幸せを知っていこう。(笑)」


(制作日 2021.10.24(日))
※この物語はフィクションです。

今日は、
2017年10月25日発売 アルバム
ASKA『Black&White』
発売から明日で「4周年」になります。

そのアルバムタイトルと同じ曲
『Black&White』を参考に、
人の心の調和について書いたつもりです。
どんなに両思いでも、
心の音色が違っていたら、
愛されていることにも気づけないかもしれない。

でも、
気づかないようにしてしまう心の壁も、
人それぞれにあるもの。

例えば、
「幸せが怖い」
こうした心ってなかなか変えることができない。
幸せで、あることに罪悪感すら感じてしまう。
その人がどう成長したのか?

心理療法に箱庭を用いるように、
今回の彼女が、
その箱庭を利用して、
尋ね人の守り神と一緒に、
「幸せとは何か?」を少しずつ知って、
彼女の心の壁を突破して、
愛しのあの男(ひと)と
同じ心の音色になって欲しいなーと。

(ニックネーム)
ねね&杏寿
(旧ひまわり&洋ちゃん)
(Instagram)
https://www.instagram.com/himawariyangchiyan/

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参考にした曲
ASKA
『Black&White』
作詞作曲 ASKA
☆収録アルバム
ASKA
『Black&White』
(2017.10.25発売)

YouTube
【ASKA Official Channel】
『Black&White』Music Video
https://m.youtube.com/watch?v=_YcdLA-T7gc

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