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廻向堂 第二話

願い

「うわー、座る場所ないな」
「マジで、タイミングずれたなぁ」大学のお昼休み時間、校内どこのフリースペースは人で混雑しており昼食難民になってしまっていた。
「おっ、あそこ空いてる」と隼人が指を刺した先にはソファータイプの椅子と机があった。

「よかった 無事に座れて」「うん、ここいいな 意外と穴場スポットなんかな」「なぁ そんな感じする。 知る人ぞ知る的な 座りごごちも最高」とお気に入りのスペースを見つけることができた凪と隼人は満足そうに昼食をとり始めた。

「ちなみにあれどうなったん?」と遠慮気味に隼人が尋ねる。
「あれ?、あっ廻向堂のこと?」
「うん。1週間ぐらい経つからさ なんか進展あったかなと思って」
「うん、 あれから色々考えて とりあえず、祖父の家に行ってみたんだ。 曽祖父についてのことが知れるかなと思ってね」とリュックサックの中からファイルを取り出した。

「廻向堂を立てるにあたっての思いや日記、建築様式の紙など とりあえず関連しそうなものは持って帰ってきたんだ。 で、これが今色々整理するためにまとめていて」といってPCも開いて、マインドマップ系ツールで放射線上に広がっている図を出してきた。

「祖父の家から貰ってきた資料をまとめるとこんな感じになるんだ。でもね。未来のからのメッセージが断片的でね」とマインドツールの右側がそんなに埋まっていないことに目にいく。

「いいじゃん すごくいいね 俺もその資料見てもいい?」と隼人が興奮気味に聞く。

「もちろんいいよ ちなみに今週末空いてる? 一緒に廻向堂に行ってくれない? あれからまだ行けてなくて」

「いいよ もちろんだよ 俺も行ってみたいと思ってたんだ すごい綺麗な建物なんでしょう 最近、東京ビルばっかりで味気ないなと思ってたんだよね。 面白い建築興味ある。」と廻向堂とどう関わっての道筋を作りはじめているような実感を得ることができた。 


週末の土曜日 凪は廻向堂の最寄の守野駅で隼人と待ち合わせをしていた。例の本はもう一度みることはできるのだろうか。
前回、帰り際にアオイさんのことを尋ねた時に「帰りましたよ」と受付の方が言ってくれていたのに違和感を感じた。
あの時は、そっか帰っちゃったのかと思ったけど、あとなって考えるとどこに帰ってたんだと気掛かりであった。
今更ながらアオイさんって人間?かどうか不確かな部分がある。そんなこんなを思い巡らせていると隼人がやってきた。

新緑の並木通りを通り、小石の砂利道の音を聞きながらはじめてきた時とは違う面持ちで地面を踏みしめていった。「ここが廻向堂」と二人は重厚な鉄門も前に立ち止まった。鼻からゆっくりと空気を吸ってゆっくりと吐いてとひと深呼吸をすると、お互いは顔を見合わせながら「じゃぁ行こうかと」言い合って門を押し開けた。 

受付に行くと以前と同じ女性がいた。

「こんにちは」と挨拶をすると
「あらまーこんにちは お連れ様もご一緒で」

「はい。 大学の友人で 一緒にきました。」
「あらそう。 ごゆっくりどうぞ 庭のバラがちょうど見どころになっていましてね そちらもよろしければどうぞ」
「ありがとうございます。ちなみにアオイさんは今日いらっしゃったりしますか?」
「多分 もうすぐ来られると思いますよ。 凪さんがいらっしゃたと知るとね」
「あっ ありがとうございます。 アオイさんにもう一度会いたくてここに来たので」
「そうだったの バラも見ていってね」と受付での会話が終わると、

この前の本を見せてもらうためにはアオイさんに会う必要があるので一安心しながら以前本を見せてもらった部屋に向かった。

その空間は庭園を見ることができるゆったりとしたベロア生地のソファーがある。 
「アオイさんってどんな人?」ソファーに座りながら隼人は思わず尋ねる。
「きちんとしている感じで執事っぽい感じ」
「ふーん この建物の管理者って感じか」
「うん でも人間かどうかも少し怪しさもある」
「なんだそれ、もうSFじゃん」
「まぁ 見たらわかるって」
「凪さん こんにちは あおいです。」と二人の背後から凛とした空気感を纏って姿を表した。
「あっ こんにちは アオイさん あっ こちらは友人の隼人です。」と突然現れたことに戸惑いながらソファーから立ち上がって振り向きお辞儀した。

「またこちらに遊びに来てくださり光栄です。 私に会いに来たと伺ったのですか 何かご用でしょうか」
「この前の白い本をもう一度見せてもらいたくてここに来たんです。」
「あれですね 少々お待ちください」
そう言ってはアオイは違う部屋に移動した。

少し経つとアオイは戻ってきて例の本を凪に手渡した。
「隼人も一緒に見てもいいですか」とアオイに尋ねると
「いいですよ そちらのソファーでごゆっくりお過ごしください。」
アオイは部屋から去ると、二人はソファーに座り直し、まじまじと本を見つめた。
「これが凪が前に言ってた未来からのメッセージっててやつ?」
「うん 今は真っ白だけど本を開くと浮かび上がってくるんだ」と凪は言ってこの分厚い本をゆっくり開いた。
「凪へ この本をもう一度開いてくれてありがとう 今度は友達を連れてきたんだね」と以前はまっさらであった最初のページに文字が浮かんだ。
凪と隼人は思わず目を合わせる。
「どっかから監視されてる?」
「いやデスノートじゃないんやから」
「俺もこれ触れても大丈夫?死神いないよな」
「うん 触れても問題ないと思う ほい」と例の本を隼人に手渡した。
そうすると先ほど浮かび上がっていた文字はさらさらと消えて元の文字に戻った。
「あっ これ凪以外触れてはいけないやつやったパターンか」
「いや どうやろ アオイさんは隼人も見ても問題ないとは言っていたから大丈夫やと思うけどな」
「うんだといいけど でも返すわ」
「ありがと あれまた文字が」というと白紙のページに文字が浮かんできた。
「すみません 悪用されないために 凪さんが触れている間しか浮かび上がってこないようにしているのです。 我々のミッションを成功させるために」と再び文字が上がった。
「この次のページからを一緒に見てほしい」と凪が恐る恐る次のページを開いた。

22世紀の未来社会の具体的な問題が次々と記されていた。人口減少による労働力の不足、公共空間の減少によるコミュニティの崩壊、物質的な豊かさの価値低下による人々の孤立と無関心。未来のひ孫は、これらの問題がどれだけ深刻であるかを詳細に描写していた。

「私たちの曽祖父が廻向堂に込めた『人の心を繋ぐ力』は、これらの問題を解決するためのヒントを持っています。この力を理解し、現代の社会で生かすことで、未来を変えることができるはずです。君の行動が、私たちの未来に大きな影響を与えるのです。」

情報量が多すぎて本から浮かび上がってくる映像が苦しくなって思わず凪は本をバタンと閉じた。

隼人は呼吸が荒くなっており、一点を見つめながらかたまっていた。

「これを俺たちで解決してほしいということ?」
「うん この本からのメッセージでは」
「いや ことが大きすぎねえ?」
「うんだから言っただろう」
「いやまじで地球救え レベルじゃん」
「いやそれは難しいからこれらの問題があり中でこの堂を守り続けてほしいということが俺たちもやるべきことだと考えてるよ」

「いや うんそうだよな 誤解していた 世界をどうしろってことではないよな まずはこの堂
のあり方をってことだよな うん なんかごめん 圧倒されちゃって」
「いや わかるよ 一回目に見せてもらったとき はぁって感じだったんだよ」
「おう 今やっと凪の気持ちがわかったわ 未来のメッセージとかなんなん 未来は時空を動かせれるようになってるってこと?」
「そこまでわからんわ てかこの本持って帰っていいのかな」
「どうだろ アオイさんに聞いてみよか」と後ろを振り返ってみるとそこにはアオイさんがピンとした姿勢で手を前で重ねて立っていた。

「どうでしたか 未来からのメッセージを受け取ることはできましたか? この堂に関しての未来からのメッセージはこの本にまとめられたことが全てです。 ちなみにこの本は持って帰っても大丈夫ですが2つほどの約束をお願いします。 一つ目は第三者に幅広く公言しないこと 未来からのメッセージは時間軸の影響により、限られた人数 いわば関係者のみが閲覧することによって未来からのメッセージ力が発揮されると考えられています。 不特定多数にこの存在が知られてしまうと言葉がただの字列となってしまうのと同時に意味が変容して伝わってしまうと考えられています。2つ目は紛失しないことです。 厳重な管理をお願いします。 理由はほぼ1つ目と同じです。 そして、これはこのメッセージを受け取った方のみにお伝えすることですが」とアオイは急に慎重な面持ちで少し前屈みになった。

「送った側の世界では、人生で一度だけ過去にメッセージを送ることができます。 これは『像』と言われています。 像とはいろんな方法で送ることができますが、その像は必ず受け取ってもらえるとも限りません。その送る人の力量と頭脳と技術が必要とされます。今回の場合は本として特殊加工されており、また特定の人物のみという指名制になっておりとても賢い方からの送られたもの考えていいでしょう。 ですから取り扱いには十分ご注意お願いします。」とアオイは深々とお辞儀をし、部屋から再び去っていった。 

第三話


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