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廻向堂 第三話

影響

ひと段落といっていいのだろうか。気だるそうなアオイは管理室の屋上にある木に登り、街全体を見渡していた。
「あら 久しぶりじゃない」とパーマのかかったロングヘアーを風になびかせながらレイカがやってきた。
そう俺はこの管理室に1ヶ月ぶりにきた。例の白い本の像でずっと外出していたからである。
「うまくいってるの?」レイカはコーヒーをアオイに渡しながら聞いてきた。
「何をもって上手いかどうかはわからん 送信者が仲介者に対しての要求は果たせたよ。受信者が送信者の『像』にどういう影響を受けるかまではわからないよ。」とコーヒを啜った。

俺は人間だ。
人型ロボットではない。
ありがたいことに人間である証拠とはとかそういうややこい時代は到来していない。

この管理室は未来からの『像』の保守管理を行こなっている。
まあでもこの時代に『像』が送られてくることはほぼない。過去に送られたものの回収と分析の業務が多い。

そして、この『像』を俺が今送ることはできない。その技術は未発達であるためである。

でも今回のおかげで『像』のことが少し知れた。
例の白い本の送信者は受信者のひ孫と名乗った。これが嘘ではなければ半世紀以内にはこの技術が開発されるといったとこだろうか。 

まあなんとも厄介な技術だなと思う。いつの時代になっても過ぎ去りし過去への後悔や執着いうものは存在するのだなと。
 
しかし、『像』を分析していくうちにわかったことがある。

これはタイムスリップではないということだ。
その送信者の過去と現在を変えることはできないということである。つまり同一線上の時間線を行ったり来たりということではないということなのだ。
例えば、5歳の時に死んだ母親に二十歳になってから過去にあてた手紙を『像』として送る。家帰って、母親の実家掃除してたら手紙が出てきて「二十歳の息子へ未来からのメッセージ読みました。 大きくなったね」なんていう感動ストーリーということは実現できないということである。

あともう一つ、過去の対象人物の行動を強制することができないということだ。
例えば、賭け事で一番稼げるように答えを書いた紙を送るとする。でも、勝負事で実際その通りにするかというとそうではないらしい。
そういうことをする性格も持ち主はそういうのも信じないでその場の勘を信じて別の選択肢をして後悔するものであるらしい。


まぁ人生とはうまいことなっているなとも思ってしまう。

そして俺のもう一つの仕事は『像』を確実に受信者に渡す仲介者としての役割である。
ほとんどの『像』はこの仲介者を注文することはできないらしい。
理由はわからないが、人手不足といったところか質の保証といったところだろうか。 まあ、最先端の技術というのは賢い人が作っているときはシンプルで分かりやすいのにいろんな人が使いすぎると余計に複雑になってしまう。内容の構造がどうなってるのかわからないのに少しでもエラーが出ると不平不満が出くる現象的なものか。
現代でも便利、早いという言葉で包まれている事柄が多く、仕組みを知らずに使っていることが多い。その仕組みはとても複雑だか一つひとつを見ていくと単純なことの組み合わせにしかすぎないのになと考えてしまうことがよくある。

「アオイさん、室長が呼んでいます」小柄でいつも水玉のカチューチャをつけているサラが呼びにきた。
「室長、今日いないんじゃなかった?」空になったコップをサラに渡して木から飛び降りる。
「はい。でもアオイさんがここに来られたと知り、管理室まで来られました。」
「まじか、居ない日にここに寄ったのに」と渋々、アオイは屋上の扉を開けた。

室長とはこの管理室の室長である。名前は知らない。 多分人間。ガタイが大きく動物好きである。室長曰く 友達が人間以外で構成されており、 非言語のコニュニケーションが好きらしい。 時には人間以上によき理解者となってくれる。 とのことだ。  

「アオイです」と室長室の扉の前に立った。「入れ」と渋い声が響いて、ドアが自動で開いた。 
「そこに座れ」とソファーでくつろいでいる黒猫を横目に見ながらアオイは目の前にある椅子に腰掛けた。

「で、進捗状況はどうだ。 ここに来たということは何かことがひと段落したということだろう。」

「はい。 仲介者としての役割は無事完了しました。 思いのほか早くに受信者の凪様が廻向堂にいらしてくれたのでいいシチュエーションでお伝えすることができました。」

「そうかそれはよかった。 この現代では仲介者としての役割が滅多にないため後世のためにしっかりと記録をよろしく頼む」

「はい 分かりました。 あと重大なことがことが分かりました。 『像』を送ることができるようになるのはおそらく、半世紀以内かと」

膝の上でウサギを撫でていた手が止まり室長はアオイに目を合わせた。

「例の白い本は送信者からのメッセージの通り、受信者の方が触れると文字が浮かび上がりました。 その時に浮き出てきた文字が受信者のひ孫と名乗ったのです。 この証言が嘘ではない限り500年以内には開始されているかと」

この管理室では未来のことは何もわからない。いつ『像』の最初の送信が行なわれたのかもわからない。 今それが届いていないということはまだ起こっていない未来とのことしかわからないのだ。

「そうか それは重要な情報だな 送信者番号が未来からの時系列順である説がより強固となるということだな 500年か思っているより、早いなぁ 色々準備しないとな」とボソボソと呟くと
再び、目線をうさぎに戻してキャベツを食べさしていた。


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