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天を楽しみ命を知る、故(ゆえ)に憂えず。


       易経

『易経』は、中国の最も古い経典の一つで、儒教や道教をはじめとする東アジアの哲学や思想に大きな影響を与えました。

元々は占いの書として使われていましたが、後に哲学的な内容が加わり、自然の摂理や人間の生き方について深い洞察を提供する書物となりました。

『易経』は二つの部分から成り立っています。一つは「経文」と呼ばれる原典部分、もう一つは「十翼」と呼ばれる孔子やその弟子たちによる解説部分です。

今回の句は、孔子による解説部分「十翼」の一つである「繋辞伝」(けいじでん)に由来します。

天を楽しむ(天楽)

  ここでの「天」は、天命や天理、すなわち自然や宇宙の法則を意味します。古代中国では、天は偉大な力を持つ存在と考えられ、すべてのものは天によって支配されているとされました。

  「楽しむ」、これはただ単に楽しむという意味ではなく、天の法則や自然の摂理を理解し、それに従って生きることを意味します。

つまり、自然の移り変わりや宇宙の秩序を受け入れ、それに調和した生き方を楽しむことを示しています。

命を知る(知命)

  ここでの「命」は、天命や寿命、人間の運命を指します。人間が生まれ持った運命や人生の限られた時間を意味します。

  「知る」、これは単に知識として知るというよりも、深く理解し、受け入れることを意味します。自分の運命や寿命を理解し、それを自然の一部として受け入れることを表しています。

故に憂えず(故無憂)

  自然の法則を楽しみ、人間の運命を理解し受け入れることで、心の中に不安や憂いを持つことがなくなるという意味です。

天命や運命を受け入れることによって、心の平安を得ることができると説いています。

この句は、古代中国の自然観や人間観を反映しています。中国哲学では、自然や宇宙の法則に従って生きることが重要視されました。

これは、個人の力ではどうにもならない大きな力が存在し、それに逆らうのではなく、受け入れて調和することで心の平安を得るという考え方です。


儒教のカリスマ孔子は、人間が天命を理解し、それに従って道徳的に生きることを強調しました。

この句は、儒教の道徳的な教えを反映しています。人間は天命を理解し、それに従って生きることで、心の安定を得ることができると説いています。

道教でも、自然と調和した生き方が重視されます。老子や荘子は、自然の流れに身を任せることの重要性を説きました。この句は、道教の自然との調和の教えとも共通する部分があります。

「天を楽しみ命を知る、故に憂えず。」は、自然や運命を受け入れ、それに従って生きることで心の平安を得るという深い哲学的な教えを表しています。

『易経』のこの教えは、現代においても、人間の生き方や心のあり方についての重要な洞察を提供しています。

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