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ライブで生計を立てていたシンガーソングライターの変身術

ビジネスの話だと期待してたらミュージシャンの話かよっ。
と、まず思われた方も多いことかと思います。はじめまして。
ミュージシャンも、いちおうビジネスをしている人間に入れてください。
ほんの視界のすみっこのほうでかまいませんので。

今日は、ライブで生計を立てていたシンガーソングライターが、リモートワークの大きな流れと渦潮の中にポーンと放り込まれ、あれ?ライブって生だから素晴らしいんじゃなかったっけ?生きている肌感や、ほとばしるエネルギーの共鳴そのものに意義があるんじゃなかったっけ?という混乱や戸惑いや絶望を、最小限に抑え効率的に乗り越えた結果、たどり着いた生計の立て方の一例を、ご紹介します。


1. シンガーソングライターって仕事ですか?

「シンガーソングライター」というのは、ソングライター(作詞作曲家)とシンガー(歌手)が合体した、いわば人間としては「変わり者」に分類され、もともと社会認識としてはトップアーティスト以外の地位はべらぼうに低く、えっ!それって趣味じゃなくて、仕事……ですか?と、生涯に渡りツッコまれる宿命を持つ、悲しい生き物のことです。

必要書類などの職業欄にはよく「音楽実演家」と表記します。
チラっと二度見され「ああ知ってる、自称アーティストね。」と判断され傷ついていることを悟られないように振る舞うのが、いわゆるオトナのシンガーソングライターです。

わたしなどはピアノを弾きながらパフォーマンスをするので、基本的にずっと一人きりで仕事をしてきました。
励まし合うバンドメンバーなども存在しない、トップクラスに悲しみを味わってきた生き物だと言えるでしょう。画面上でコラボ演奏などをする友達もいませんので、今年の春先など、それはそれは心許ない日々を送っていました。

ですが、何かやらねば、とにかくゴハンが食べられません。
一時期は、道端に咲いているヨモギやタンポポを摘んできて天ぷらにしたり、お隣のおばあちゃんが恵んでくれていた蕎麦の乾麺を茹でて食べたりして、それはそれで楽しんではいましたが、それもずっとはなぁ。

〇〇を生業にしている、というのを、〇〇で食ってる、というだけあって、一番大切なのは、食費です。家賃は滞納しても謝ればなんとかなるけど(実際に滞納していました)食費だけは、すぐに必要。


2. 脱現金のベーシックインカムについて

そう考えていくうちに、ベーシックインカムが米と野菜。
というシンガーソングライターの新しい未来を思い描くようになりました。
つまり、現金を稼がず豊かに生きていく音楽活動スタイルです。
(自粛期間中に、これまで大好きだった服や雑貨などへの物欲が、幸か不幸かほとんどなくなってしまった。あっても楽しかったけど、なくてもスッキリできて意外と心地良いもんだなぁ、と。)

このスタイルはもちろん、半農半音などのネーミングも広がってきていますし地方ではすでに実現されつつあります。地元農家さんたちとのネットワークは、顔の見える暮らしの中では育みやすい。だけど、東京に住みながら、遠隔でもこのスタイルは実現可能なんじゃなかろうか?

少し音楽業界サイドのお話をすると、人によってもちろん価格はずいぶんと違いますが、テーマソングを書き下ろす、というと個人なら1曲50万円〜、音楽事務所なら100万円〜、は最低かかるのではないかと思われます。(あくまでわたし個人の認識です)
これはわかりやすくお伝えしているからで、いろいろと条件などによっても変動はします。録音の方法や使用する機材、楽器の種類と数、アレンジの有無、リテイクの回数、納期や完成度、などなどなど。

それにしてもね。この価格って、コロナ騒動でお店に生産物を卸せず困っている個人の農家さんたちに、プレゼンするのは酷だとわたしは思っちゃうんですよね。気が引けて、言い出せない。笑

だけど仮に「応援したいのでボランティアで書きましょうか?」と提案しても、それはサスティナブルな関係性ではありません。

そこで「お金は1円もいらないので、余ったお野菜これから毎月送ってもらえませんか?」と、代わりに提案してみるのです。

送料込みで4000円分の野菜を送ってもらうと、1年間で5万円以下。
もちろんこれはプレゼンする曲が農家さんに気に入っていただけて、ぜひ使いたい!という流れの上に、双方の合意があった場合の例ですが
10年間、毎月、野菜やお米が届く!」と思ったら、飢え死にしなさそうで希望が湧いてきますよね。
農家さんのほうも、現金は払えないけどお野菜なら!と、お互いに「ありがとう」の循環の中で、未来につながる新しいプロジェクトを進めていくことができます。

現在、実験的に楽曲を書き下ろさせていただいているのは
ふくおか食べる通信」さん。編集長のかじさんがイケメンです。
いずれ、日本各地の「食べる通信」さんにラブコールしていきたい。


3. 必要最低限の現金は、少人数制の「配信」で

そして。自分自身も
「書く曲のクオリティ、届け方へのこだわり」を一旦、捨ててみました。

これまで一般的に、音楽業界のアルバム制作は
「長い時間と莫大なエネルギーをかけて、じっくりと良いものを生み出し責任を持って世に残す」スタイルを良しとする流れがありました。
わたしももちろん、それに何の異論もなく、アルバムを制作する際には、ものすごい集中力を詰め込んで、遺作のようなきもちで毎度レコーディングに臨んだものでした。

生き残っているアーティストは必ず、ある種の「こだわり」を持つものです。おおらかであっても、ここだけは譲れないという図太い芯のようなもの。

だけど、わたしが「ライブ」で生計を立ててきて、その人生を愛してきた理由は「その場で生まれるもの」を恐れず曝け出す、その嘘のない営みが好きだったからです。
ライブのときに溢れ出るあの生命力を、完全には無理だけどできるだけ!再現したい!

そこで、形が悪くても色が薄くてもサイズが不揃いでも、泥つきの野菜を直売所で販売するようなきもちで、録音したての音源を隔週でコンスタントにデータ配信する、フレッシュさを売りにした「まいにちの採れたて音楽」という企画を同時にスタート。(今これを読んでくださってる方、↑お試しに買ってください!お願い。)

日本全国の農家さんたちに絶大なる敬意を払い、自分も農家の一人になりきり、雨の日も晴れの日もまいにち畑仕事をして宝物を収穫するような心意気で、ひたすら曲を書き続ける。
これは、苦しい時もありますし、こんな熟成されていないものを届けてしまってー!と赤面する瞬間にも襲われる、途方もなく無謀な挑戦なのですが、充実した修行のような、きっと後から振り返るとかけがえのない体験となることでしょう。(ひとまずの目標は、1年間続けること!)


4.  ファンの人数を言い訳にしない

わたしは売れないシンガーソングライターなので、ファンは数十名という世界です。
もちろん、ここで言う「ファン」というのは、がんばってね〜応援しています!という優しい言葉をかけてくれる人や、無料なら聞きたいな!という人たちは含まず、わたしが生きていること自体に価値を感じ、暮らしを支えたいと本気で願ってくれる人、わたしの音楽に躊躇なく即お金を払ってくれる人という意味です。
その人数が購入してくださることを想定して、月額 6,600円での販売としました。30名様のご購入で、約20万円。50名様で、33万円。
わたしに「本物のファン」が100人いたならば、月額をもっと安くしたかった。でも現状ではそうすることができません。

逆の見方をするならば
ファンの人数が少ない=音楽で生計を立てることはできない、ではない
ということです。

大切なのは、ファンの人たちを
「神様」だと頭を下げて拝んだり、逆に「顧客」だと数字で勘定して見下したりせず、人生のパートナー、信頼できる仲間として、感謝をもってフラットな心で接すること。

農家さんたちへの向き合い方も同じです。
そこに、損得感情や、短期的な競争の視点で立つのではなく、常に純粋なきもちで寄り添う。

あなたと仲間であることを誇りに思える、という真っ直ぐなきもちで。そうして繋がっていくご縁を、わたしはこれから一生モノの財産にしていきたいです。


5、お わ り に

ベーシックの現金収入を「まいにちの採れたて音楽」で。
ベーシックの食べものを「農家さんへの応援ソング」で。
それプラス、ご依頼をいただいた楽曲制作や、自宅からの配信ライブの「おきもちチケット」の収益で、今わたしは一切、人々と会わずに音楽で生計を立てています。

もともと合理的だとされている資本主義の困ったところは、人の健康や命や幸福よりも、経済、お金を優先させる発想と思考回路です。
お金持ちと貧乏人に分かれるのはまあいいとして、こういうパニックになった時に、やっぱりこの社会のあり方は、弱い。

貨幣はもちろんなくなったりしないけど、それありきでしかものごとを判断できない大きなシステムに依存させられた人生を、そろそろ片足だけでも卒業してみる良い機会かな、と思った今回のリモートワーク期間。

この先もまだまだ進化していくであろうわたしの
#これからの仕事術  今日は 綴ってみました。
最後まで読んでくれて、ありがとうございます。

みなさん明日も素敵な日を。またね!


かおり

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