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ひろってはいけない心のおとしもの①

もし「なぜわけもなく自分は死に惹き付けられるのか」と悩んでいる人がいたとしたのなら、これから話すわたしの体験談は、解読書の一例になるかもしれません。ただあくまでも個人的な体験からの解読書のひとつです。


若い頃、わたしの働いていた美容室は、にぎやかな都会のビルの1階にあった。

バス停から徒歩5分。

老舗のデパートとビルのあいだの裏道を入る。そこは一通で、ビル関係者の車がたまに通行するくらいだった。そして朝はデパートとビルで働く人たちが歩いていた。

そのころのわたしは『9月の彼』を経験し終わったころだったか、次の年くらいだったか。20代の前半だった。


いつものように出勤のためにその裏道を歩いていたある日、わたしは、高いデパートの上からなにか落ちてくる気がして落ち着かなくなった。


毎朝、必ず、「ぁ、」と思って上を見上げてしまう。


しかし、見上げたさきはデパートの上層階と、周りのビルで切り取られた都会の空が見えるだけ。


帰宅の夜遅い時間にはそんな気持ちにはならない。

なのに、朝は必ず同じ場所で通りすぎる瞬間に、不安なこころが一瞬沸き起こり、「ぁ、」と思って上を見上げてしまっていた。

それはある日突然始まり、毎朝続いたのだった。


↓つづく