呪いのバナナにご注意を ~袖の下が通用しないとき~
突然ですが、みなさんは取引先やお世話になった方に贈り物を渡していますか?最近はお中元やお歳暮といった贈り物文化は廃れている、と言われますが、ちょっとしたときに「お世話になったお礼」を贈ると良い印象を持ってもらったり、コミュニケーションが円滑になるきっかけを作れることはありますよね。
アフリカ・ケニアも例外ではありません。イースターやクリスマス等の祝日はギフトシーズン。家族や親戚だけでなく仕事で付き合いがある方々へのギフト選びでスーパーには長蛇の列ができます。
お世話になった方へ感謝の気持ちを形として贈る。これ自体は問題ないのですが、オフシーズンに時々、少し毛色の違う贈り物が発生することがあります。
「賄賂」と呼ぶには細やかすぎて、「プレゼント」と呼ぶには少し思惑がありすぎるそれらの贈り物を、私は親しみを込めて「袖の下」と呼んでいます。
今回はケニアのモノづくり工房でそんな「袖の下」が失敗したお話です。
「袖の下」事件の登場人物
マネージャー Jさん
ケニア工房の生産マネージャーを務める女性。男性社会に揉まれながらもキャリアを積んできて、村の女性たちと長く仕事をしてきた人。敬虔なクリスチャンで毎朝・毎夕、必ず教会に寄ってお祈りをする
女性リーダー メリーさん(仮)
農村部でかご作りをしている女性グループのリーダーの一人。顔が広く、外国人のバイヤーとも複数つながっているビジネスセンスの高い人。地元の村議会への出馬を検討しているという噂も
ことの発端は月2回の工房訪問
袖の下の話に入る前に、少しだけケニアでのかご作りの仕組みをご説明します。
ORIKAGOは、ケニアのマチャコスという街にある協力工房とモノづくりを進めています。この工房ではスタッフさん達が、製品の検品や品質管理を行ったり、日本に輸送するための梱包などを行います。私がケニアを訪れるときは主にこの工房のスタッフさん達と品質の話し合いやトレーニングを行い、毎日チャットやメールを通して連絡も取っています。
ですが、実際の商品づくりはこの工房内ではなく、村の女性たちが行っています。日本からかごを発注すると、工房スタッフが注文の説明と染色のために村を訪れ、女性たちと話し合いを行い、そして女性たちは2~4週間かけて製品を仕上げていきます。
出来上がった商品を代表者が一人、納品のため街の工房まで運んでくるのですが、その時点で検品や支払いも行われるため、値段交渉や品質の議論など様々な話し合いの時間になりやすいのです。
メリーさんはJさんの胃袋をつかみたい
メリーさんも、こうして月2回、納品に来る女性の一人でした。彼女が代表を務めるグループは上手な作り手さんが多く、複雑なデザインも作れるので私も創業当初からとてもお世話になっている人です。
とは言っても、私がケニアにいるのは年に3か月ほど。残りの期間中、メリーさんが接するのは、工房マネージャーのJさんです。Jさんに気に入ってもらえれば、今後色々優遇してもらえるかもしれない、と思ったのでしょう。良からぬ考えもあったのかもしれません。
とにかく、ある日からメリーさんは、Jさんの胃袋をつかむ作戦を始めます。
最初の持ってきたのは、アツアツのチャイ。
※ケニアでは午前10:30のティータイムに必ずミルクたっぷりのチャイを飲みます
「あなたのために、出かける寸前まで火にかけておいたから、まだアツアツよ~!美味しい牛乳を使ったから是非飲んで~♪」と猫なで声でJさんに水筒を渡すメリーさん。
ところが・・・ Jさんは紅茶が大嫌い!
「いえ、結構よ」と断られ、メリーさんはせっかく村から1時間かけて持ってきたチャイを他のスタッフと飲むことになります。
メリーさん、リサーチが甘かった・・・
次に持ってきたのは、チャパティ。
チャパティもまた、ティータイムにつまむもの。
「朝一で焼いてきたの!これなら食べられるでしょ?」と満面の笑顔のメリーさん。
ところが・・・「ごめんなさい、今日わたし断食してるので要らない」という返答。Jさんは大切な願い事があると一日断食する習慣があるのです。
メリーさん、タイミングが悪かったのか・・・
最終兵器!と言わんばかりに持ってきたのが
メリーさんの畑で取れたバナナ
市場でもバナナは売っていますがその多くは別の地域のもの。現地で取れる「ローカルバナナ」は栄養が高くて美味しいと評判なのです。
「今食べなくてもいいから!持って帰ってもいいし!」と渡そうとするも、Jさんは手に取ることもしません。結局、バナナは他のスタッフがありがたく食べてしまいました。
メリーさん、完敗。
Jさんが頑なに受け取らなかった理由
そもそも、Jさんは何をもらっても受け取る気がなかったのです。
私はこの一連の話を後日談として聞いたのですが、「どうしてそこまで頑なに受け取らなかったの?」と聞いてみると、驚きの答えが返ってきました。
「メリーさんは、手数料を多めに取ろうとしたり、嘘が多いから元々あまり信用していないの。何より、どう見ても彼女はクリスチャンではないわ。」
「あのバナナには絶対に、呪いが掛かっていた。私が食べてしまったら最後、彼女のいうことを何でも聞くようになってしまうような呪術を掛けていたはずよ!」
えーー!呪いのバナナ?!とこれには私もビックリ!でも、Jさんはその意見を曲げず、バナナを見た後はお祓いの意味も込めてすぐに教会に向かったそうです。
勘が当たった?メリーさんとの決別
その後、メリーさんは袖の下は諦め、Jさんとは仕事の会話しかしなりました。結局、彼女や彼女とのグループと揉め事が絶えなくなってしまい、最終的にはそのグループとの取引は止めました。
後で分かったことなのですが、なんとメリーさんは別のスタッフさんと手を組み、工房の染料を横流ししてもらったり、手数料が多くなるよう査定を細工してもらったりと、色々と不正を行っていました。Jさんが受け取らなかった袖の下は、その別のスタッフには効果てきめんだった模様。
もしかして、本当にバナナに呪いが掛かっていたのかも?
それぞれの「たくましく生きる術」
Jさんが敬虔なクリスチャンなことは元々知っていましたが、この話を聞いたとき、クリスチャンではない私と働くことについてどう思っているか気になって、思わず聞いてみました。
彼女はあっけらかんとした顔で「あら、全然問題ないわ。そんなの自由だもの。ただ、一つ言うなら、
あなたの国では生きていくのにキリストが要らないってことなのよ。
ケニアで生きていくには、神様のお導きがなければ騙されて辛い思いをするだけだから。」
彼女がどういう経験を経てこの考えに辿り着いたかは、私もまだ少ししか知りませんが、彼女にとって宗教は大きな心の支えであり生きていくために必要なものなのだ、と強く感じました。
と同時に、今回恐らく悪役に見えてしまっているメリーさんにも思いを馳せます。
メリーさんの過去を詳しくは知りませんが、農村部出身で若くない年齢の女性であることを考えると、教育や仕事の機会がそこまで恵まれていたとは思えません。それでも現地の有力者という地位に上ったということは、彼女もまた色々な知恵を身に着けなければいけなかったのでしょう。
今回は相手が悪かったですが、違う相手だったら、自慢のバナナは大きなビジネスチャンスにつながっていたかもしれないわけで、外国人の私が一方的に「悪い!」と一蹴できないのです。
※不正はダメ、絶対。
ケニアでモノづくりを初めて6年目。女性たちを知れば知るほど、「生きる」ことについて色々と学ばされる日々です。
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かご専門店ORIKAGO 代表 岡本ひかる
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ORIKAGOのHP: https://www.orikago.com
運営会社アンバーアワーのHP: https://www.amberhour.com
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