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小説 宇宙意識への扉・3


《夕食の風景》


 一週間後。


 アルバ国際空港にはマスコミやテレビを観て押しかけてきた世界中の人々で溢れかえっていた。
 そんな異常ともいえる光景を映し出すテレビを観ながら、ソファーに寝転がりいつものようにねこのぬいぐるみを抱いている姉が「ねえ、どう思う?」と聞いてきた。
「何が?」
「あの宇宙船。本物だよね?何かの合成じゃないかってみんな言ってるけど、どうなんだろ?」
「確かに映画の撮影だって言われたらそうかなって思うよ。でもさ、テレビから聞こえてきた音。あれは普通じゃないよ」
「だよね......。」

 「ごはんよ」
いつも冷静な母は動じることなく普段通りだ。
「母さんはさ、不思議に思わない?実はものすっごいことが起きているかもしれないんだよ!」
 テーブルの上には母がよく作ってくれるカレーが3人分よそってある。
いつものカレーだ。ほっとする。
「わかんないわよ、そんなこと。それよりも、今週最終回のドラマが中継で観れなくなったらどうしようって、そっちのほうが気がかりだわ」
「え~!!マジで。」
 母は今起きている出来事に興味がないというより実感が沸かないようだった。
「冷めないうちに食べてね」

カレーを食べている夕食の風景はいつもと変わらない。だから、宇宙船に乗って首相たちが他の惑星に行っているなんて現実味がなかった。


☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 

 雨が降り出していた。雨音が激しくなったり少し弱まったりを繰り返している。


 『......そうそう、びっくりじゃない?』
『ありえないって、映画だよ映画!』
『だよね~。でもさ、本気で信じてる人いるじゃん、やばくない?』
『ほんとやばい。うちのお姉ちゃん完全に信じてるし』
『え~!!』

 おそらく女子高生であろう二人組の声が聞こえる。
そんなもんか、そうだよな......と思いながらも、テレビの中継はずっとアルバ国際空港を映し出している。

 信じることはおかしいことなのだろうか?
ニュースのコメンテーターは見解が真っ二つに分かれていた。
世界的に有名なマジシャンがネタばらしといって、テレビ局の外で物体を一瞬で消すマジックをしている。まったくのデタラメだと話していたコメンテーターはマジックが成功すると嬉しそうに拍手していた。それに対して真実だと話すコメンテーターはあからさまに不快な表情で首を横に振っている。
だからと言って何の答えも導けないままニュースは終わり、人気の俳優が出演しているドラマが始まった。
 「母さん、この子好きなのよ。若いけど結構上手なのよ、演技。」
姉は大きなため息をつきながら大きな口にカレーをほおばった。母の話には全く無反応だ。
「じゅんちゃんもこれ好きよね?」
不機嫌そうに食べている姉に母が話しかける。
「え?そうだっけ。特に興味ない。」
「そう?この子かっこいいって言ってたじゃない。」
「あのね、今すんごいことが起きてるの!ドラマどころじゃないんだって!」
母さんはお気に入りの俳優の顔が映るたびにはしゃいでいる。
「母さんはあの時、家にいなかったからわかんないかもしれないけど、明らかにおかしかったんだって。なんか、雰囲気とかさ、テレビもいきなり消えるし。バシって光ったんだよ!おかしいでしょ?ありえないよ。」
「古いテレビだから、故障かしらね。」
「違うの!ネット見たけど、あの時にテレビが光ったって投稿してる人けっこういるんだよ。動画でも上がってたし。やっぱり何かあったんだよ!」
「ちょっと、いいところだから静かにして!」
 姉はごちそうさまと言って席を立ち、キッチンに食べ終えたお皿を片付けると二階の自分の部屋に戻っていった。



☆☆☆ ☆☆☆ ☆☆☆


 

 「ただいま。」
「おかえりなさい。」
いつもより早く父が帰ってきた。

「珍しいね」と話しかけると、父は小さく頷いて笑った。何かあったんだろうか?
「会社でもこの話ばかりだよ。このニュースずっとやってるよな?」
いつものように冷蔵庫からお気に入りのビールを取り出し俺の横に座ると、テレビをじっと眺めている。
「父さんはどう思う?」
 母は食器棚からお皿を取り出しカレーをもう一度火にかけた。父が帰ってきたのがわかり、階段を勢いよく駆け下りてくる足音が聞こえる。
「私はめちゃくちゃ興味あるんだけど。だって不思議だよ、普通じゃないよ。そう思わない?」
姉は父に向って真剣な表情で話しかける。

 普段、それほどテレビを観ない父が、ずっと画面から目を離さずに観ているのは少し不思議な気がした。


 「実はさ」

しばらくの沈黙があった。

「今日、父さんの知り合いから連絡があってな。彼は、アルバ国際空港にいるらしいんだ」


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