草野仁さんの講演
先日地元で草野仁さんの講演を聴いてきました。
これまでも素晴らしいなあと思う講演などをたくさん聴きましたが、やはりキャスターを務める方の分かりやすさや安心感は特別だなあと思いました。
以前池上彰さんの講演を聴いた時にも思いましたが、内容にかかわらず、ただ声を聴いているだけで心地よくなる不思議な力があるんですよね。これは他の職業では真似ができない境地ではないかなあと思いました。
もちろん、飽きさせない内容の組み立て方も素晴らしくて、とても楽しい時間を過ごしました。
草野さんは元々取材記者になりたいと思ってNHKを受けたのに、アナウンサーとしての採用通知を受け取って困ってしまったそうです。ただ、同期のアナウンサー16人の中でも、アナウンサーを希望した人は1人だったそう。当時は、希望よりも、NHK側で考えた適材適所が優先されたそうです。
今ではすっかり大ベテランのキャスター・司会者といった感じですが、最初は取材記者になりたかったんだーと意外に思いました。
そして、新人のアナウンサーが、研修を経てどこに配属され、ニュースを読めるようになるまでにどんな過程があるのかなどという流れを教えていただきました。
アナウンサーの失敗談なんかも聞くと、どんなに優秀な方も、やはり人間なんだなあと、すこし安心した気持ちになりました。
そして、草野仁さんといえば、やはり一番のイメージは「世界ふしぎ発見！」ですよね。
この番組は、放送が始まってもう33年になるそうですが、どうやってこの番組が作られたのか、いろいろ教えていただきました。
33年前の当時、今までにないタイプの家族揃って楽しめる娯楽番組をつくりたいと思い、制作スタッフの間では歴史をテーマにしようという案が上がったそうです。
本来歴史というものを知る上では、テストのために年号などを覚え込むことではなく、例えば自分がその時代に生きていたらどうするのか、などと考えることが本質なのではないか。そんなふうに、歴史と楽しく遊べるような番組をつくりたいと考えたそうです。
例えば、実際正解がAだったとしても、他の回答者が出したBのほうがよっぽど効率的だよね...といった話ができたらいいのではないかというように。
当時は一週間に16のクイズ番組があったクイズ番組全盛期時代だったそうです。(たしかに、たくさんあった気がします。)そこで、他の番組に出演していない人にオファーをしようと考え、まず挙がった人が黒柳徹子さんだったそう。
最初は出るのを渋っていた黒柳さんは、当時52歳だったそうですが、オファーをもらってから自分を振り返ってみたそうです。
クイズにおいて自信があるジャンルもあるけれど、自分には知識が足りない分野もたくさんあると気づき、1週間前に大まかなテーマだけ教えてもらえれば、勉強して番組に臨みたいと言って最終的にオファーを受けてくれたと。
そこで、回答者全員に1週間前には大まかなテーマを伝えることになったのだけれど、草野さんは「黒柳さんの勉強するという姿勢は素晴らしいけれど、黒柳さんはレギュラー番組の収録、舞台の稽古や執筆とほんとうに忙しいから、実際そんなに勉強はできないだろう」と思っていたそうです。
でも実際収録が始まってから、黒柳さんは欠かさず勉強をしてこられたそう。ある日、前日までスケジュールがいっぱいだった黒柳さんは、勉強のために借りていた3冊の本を、収録前日の夜22時すぎから読み始めて翌日午後3時まですべて読み、そのまま収録に来たという日もあったそうです。
この人は本気で自分の欠落した知識を埋めていきたいと思っているんだと、草野さんは感じたそうです。
それからも黒柳さんは、どんなに忙しくてもクイズのテーマに関する本4,5冊を必ず読んでからスタジオに来ていて、「音楽家に関して」というテーマの時にはなんと16冊を読破して収録に臨んだそうです。
「ふしぎ発見！」は、黒柳さんが52歳の時から始まって現在85歳。この33年間1度も休むことなく、どんなに忙しくても疲れていても勉強を欠かさなかった黒柳さんを見ていると、あらゆる面で全く衰えを感じないので、脳は使えば使うほどに活性化するんだなあということをつくづく思ったそうです。
このお話を聴いて、36歳の私、あらゆる分野において知識がないなあ、恥をかいてばかりだなあと思っているだけでしたが、もっと素直に学びたいなあと思いました。
そして、「世界ふしぎ発見！」が33年も続いている理由は、やはり歴史の本質、ひいてはものごとを何のために学ぶのかという本質に立ち返ったこと、そして本質とは楽しいものなんだという提示をし続けているからなんだなあと、感動しました。
そう、誰のために学ぶのではなく、自分の知的好奇心を満たしたい、まだまだ知らないことがたくさんあるなあという素直な気持ちを生かしたいと思いました。
草野さんの、穏やかでいて力強いはげましは、ほんとうに意欲が沸いてきました。ただ声が大きいとかひたすら熱いとか話がうまいとかじゃなく、不思議な魅力があるんですよねえ。とても良い時間を過ごすことができました。
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