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「君の話」を読んだ中二女子の感想〈上〉

もし人間がもう少し賢かったのなら。

この物語はこんなにも悲しくなかっただろう。

人間が作り出す虚構は、こんなにも美しくなかっただろう。

そう思いました。

読んだ時期もちょうど良かったと思います。

私自身、主人公の千尋と同じような空虚さを抱えていた時だったので。

本屋でたまたま目に入って、買ってもらって。ここまで本棚で寝かせていたのは正解でした。

でもそれを抜きにしても、ここまで強烈な小説はそうそう無いと思います。

作者の顔が、見えないんですよ。

幻想と虚構のまばゆい光に彩られて、作品から透けて見えるはずの作者が見えない。

「三秋縋さんの他の作品も読みたい」そう、途中までは思ってました。

ですが全て読み終えた今、この作品は同じ小説家だからと言って書けるものじゃない。唯一無二の作品だと思っています。

三秋さんの他の作品を読んでみようとは思うのですが、その作品と「君の話」を結び付けてはならないと感じているんです。

この話で、ヒロインとして登場する夏凪灯花。

彼女は実在しない存女の子でした。(幽霊のような存在だと私は思っています。)

松梛灯花にとっても、千尋にとっても理想の存在。

彼女の存在が、私には悲しくて仕方がなかったんです。

夏凪灯花になれなかった松梛灯花も、夏凪灯花を信じられなかった千尋も。

どっちだって馬鹿なんですよね。

だから殊更、悲しい。

ばかだなあ、と思った。そんな回りくどい手段を選ばなくても、ただ〈履歴書〉を僕に渡して、「私たちは運命の二人なんです」と伝えさえすれば、それで済む話だったのに。

夏凪灯花を演じていた松梛灯花の事情を知ったときの千尋の言葉です。

(言葉というか、心内語かな?)

確かに、そういう意味で松梛灯花は間違えた。でももし千尋がいうようにしていたら、この物語はこんなにも美しくなかっただろうと思います。

そもそもそんなことができるくらいに人間が賢いのなら、この世界にあまた存在する悲劇は起こり得なかったでしょう。

だからだ。と私は思います。

賢くないからこそ、人間はこんなにも愛おしいのだろう、と。

「ばかだなあ。」という言葉は、灯花が亡くなってから、千尋が今の自分を見たら灯花はこう言うだろうと予想している言葉でもあります。

そして、千尋が灯花を助けようとしていることを知ったとき、千尋に対して涙とともにこぼした言葉でも。

この直前のシーンは、リアルに描かれすぎていて、私はあまり好きになれません。この物語の幻想的な美しさに水をさしているような気がして。

でも「ばかだなあ。」と灯花が呟くこのシーンが、私は大好きなんです。

千尋と灯花が、初めて二人とも救われたシーンとして。

もしかしたら、この物語で二人ともが救われる場面はここしかないんじゃないかとも思います。

これは、それほどまでに美しく悲しい物語なんです。

※この作品が好きすぎて、いつも目安にしている1200文字じゃ収まらなかったので〈上〉にしました。〈下〉も書きます。思いが籠りすぎると稚拙な文章になるとも言われますが、どうしても伝えたいんです。そして残しておきたいんです。読んでくださると嬉しです。どうかよろしくお願いします!



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