レビー小体病特有のリアルな幻視を見る本人の気持ち・思い・考察

拙著『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』(2015年度日本医学ジャーナリスト協会賞優秀賞)から幻視に関する記述を一部抜粋しています。

本は、2012年9月から2015年1月までの私の日記と巻末の講演録(『レビーフォーラム2015』)からなります。

注)時間の経過(ページ数)とともに、幻視に対する感情や考え方は、変化しています。2016年12月現在、幻視はありますが、恐怖感はなく、受け入れて共存しています。

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9月19日、動く虫の幻視を見た。その瞬間、悪夢が現実になったと直感した。幻視は、去年の春にも見た(歩く虫、人)。その後はなかったので、目の錯覚と思おうとしていた。でも錯覚にしては、リアル過ぎた。【p.10】

運転中、とても大きな虫を見た。3〜4秒だろうか。驚いて凝視すると目も毛も見えた。完全に本物だと思った。でもあんな虫が実在するだろうかと思う。肉眼で見える限度も超えている。【p.13】

あれ以来、虫を見る度に、それが本物か幻視かと凝視する。人の幻視を見るのが恐い。いつどこに現れるかわからないから恐い。しかも本物と全く見分けがつかないのだから。せめて虫だけでおさまっていて欲しい。【p.14】

幻視を見た。恐い。幻視がたまらなく恐い。どうやって平静を保てばいいのだろう。見たくない。人は見たくない。今、ひとりで居て、部屋の中に男が立って居たら、こちらに向かって歩いて来たら、私はいったいどうしたらいいのだろう。誰がこの恐怖を理解できるだろう。【p.18】

このまま幻視が出なければいい。毎日見えた時は、怯えていたが、今は忘れている。夜中、トイレに起きた時、扉を開いて男が居たらどうしようかと本気で心配していた。道を歩きながら、この猫は本物か、この虫は本物かと思いながら歩いていたので疲れた。確かめる術(すべ)などほとんどないのだから確かめることはやめた。

テレビでパンくずが虫に見えてトーストが食べられないと聞いた時、不思議に思った。ただの幻だと頭で理解すれば食べられるのではないかと思った。今は、わかる。絶対に(!)食べられない。本物にしか見えないのだから。【p.24】

数日振りで飛ぶ虫を見る。『な〜んだ。やっぱり冬でも虫はいるんだ』と思いながら追って行った。消えた。消えるはずはないと思って探しまわったが、確かに消えた。

顔を覆いたいような気持ちになる。別に虫を見たところで何の害もない。ただ、本物との区別を「自分で」つけられないということが恐い。自分でまったくコントロールできないものを自分の中に抱えているということが恐い。  将来、私は、目に見えるものひとつひとつを本物か偽物か確かめるために触って歩くようになるのか。自分の見たものごとの真偽を何ひとつ自分では確認できなくなるのか。1匹の小さな虫は、そんな風に私の存在を揺るがせる。【p.70】

自分が本物と区別のつかない幻視を見るようになって、レビー患者の苦悩が理解できるようになった。狂ったわけでも、知性や理性がなくなったわけでもない。ただそう見えるのだから仕方がない。本物にしか見えないのだから。それだけのことなのに、人からは人格も知性も失われたように扱われる。悲劇だ。【p.70ーp.71】

「今日はこんな幻視が見えたんだよ」と何でもないことのように夫に言いたいとずっと思いながら、どうしても言えない。夫を苦しめたくない。けれども言えないことで、孤独感に苦しめられる。人からは、誤解される。【p.78】

幻視が見える頻度は、去年の秋より減っています。でもいつどこで現れるのかは、まったくわかりません。体調とも精神状態とも認知機能とも無関係に思えます。【p.86】

幻覚があっても、私は私のままで、何も変わっていません。今まで通り普通に接してもらえたらうれしいです。【p.213】

幻覚(幻視・幻聴・幻臭・体感幻覚)は、私の場合、正常な意識と思考力の時に起こる。意識障害を起こして朦朧としている時には、起こっていない。

全く正気の状態で起こるのだから、錯乱や妄想などの精神症状とは違うと感じる。脳の感覚機能の一部分が、一時的に誤作動を起こしているだけ。

これは、医師も誤解している。『幻覚=思考力も判断力も知性も人格も失われている』とほとんどの人が誤解している。そうではないということを、本当のことを、私は、伝えなければいけないと思う。【p.216ーp.217】

みなさん今夜、お家に帰られて、夜、寝室の扉を開けた瞬間に、知らない男が眠っていたらどうされますか。(略) レビーの、特に高齢の方が叫ぶと、全く違います。「頭がおかしい」と怒鳴られ、説教され、バカにされ、BPSDだと決めつけられます。病院に無理やり連れて行かれて、抗精神病薬を飲まされるかもしれません。

「認知症だから、ない物をあると言って、わけのわからないことをするのよね」と家族の方は言います。違います。思考力があって、本物にしか見えないものが見えるから、正常に反応しているんです。不審者がいれば怖いです。でも慰められるどころか、狂人扱いされます。言いようのない悲しみ、悔しさ、孤独、不安、絶望を感じるということを、本人になって、初めてわかりました。【p.239】

(p.239は、『レビーフォーラム2015』の講演録。動画は『認知症スタジアム』動画ライブラリー )

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VRで再現された幻視(動画あり)

*「私の幻視をVRで再現するまで」(連載『誤作動する脳 レビー小体病の当事者研究』医学書院のwebマガジン「かんかん!」から)

*「VR認知症 レビー小体病 幻視編」の音声(最重要部分)

樋口直美公式サイト 

*幻視について語っている動画【ディペックス・ジャパン】2014年11月収録 

私の時間感覚の障害 


*写真は『私の脳で起こったこと』p.84-p.85    

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