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新刊『誤作動する脳』を読んで①

Facebookに投稿された鬼頭史樹さんの書評をご本人の承諾を得て転記します。鬼頭さんは、名古屋市認知症相談支援センター 若年性認知症支援コーディネーター・名古屋市社会福祉協議会のソーシャルワーカーとして幅広くご活躍されている方です。

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樋口直美さんの新刊、「誤作動する脳」を読了。

なんだか、樋口さんが目の前にいて、その語りを聴いているような本でした。いつものベレー帽とストール、優しくも明瞭な語り口で。

認知機能障害 として私たちが知っている知識、記憶障害、見当識障害、注意障害、遂行機能障害 などなど。そんなのが単なる言葉にすぎなかったことを痛感する。

それらは実に多様で、ボーダーレスで、不思議に満ちている。

医学的にはこれらを言葉にして定義づけることは必要なことなのだろうけど、そこに囚われてしまってはいけないんだと気づかされた。
私たちに必要なのは、医学をかじることではなく、当事者 の語りを聴き、驚いたり、ときにおもしろがったりしながら、その工夫や付き合い方を学んでいこうとすることだ。

そういう意味で、認知症 に限らず、発達障害 や 統合失調症 などの当事者、かかわる専門職をはじめ、多くの人に読んでほしい。

一方でこの本の価値は、もうひとつ別の段階であると思う。それは、この本が「他者への扉」となる可能性をもつということだ。

樋口さんは確かに「誤作動する脳」をもつ人だ。しかし、私たちはひとりひとり固有の脳を持っているはずだ。
思えば、この社会はあまりにも画一的な「標準の人」を基準に考えられすぎている。標準の人なんて存在しないにもかかわらず。
このこと自体が生活のしづらさを生んでいるのではないか。

だからこそ、私たちは他者の体験に耳を傾け、また、自分の体験を語る必要がある。その対話を通じ、そこに生じる“ズレ”に新たな価値が生まれる可能性があるのではないか。

そんな、他者に開かれた社会づくりこそが求められていると思う。

最後に、樋口さんの脳疲労のことを考えると、本を書き上げるのは、想像を絶する苦労があったのではないかと思います。大げさでなく命がけだったのではないかと。そんな苦労を乗り越え、素晴らしい本を世に出してくれたこと、本当に感謝しています。

それにしても、この「誤作動する脳」という名づけ、本当に素晴らしい。社会を変える言葉という感じがする。   (文:鬼頭史樹さん)

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