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ハガキサイズな絵の話~入院した生徒さんへの絵手紙

わたしの仕事は絵画教室の講師です。
油絵を教えるからには自分でも大きな作品を描いて、公募展や絵画展・コンクールに参加する。個展もやる。
みんなも大きい絵を描きましょう!と生徒さんに日々ハッパをかけていた。

2011年夏、絵画教室の生徒さんの一人が入院するという。
「初期なんで死にはしません、でも退屈だわ」と言うので、
「じゃあ、毎日絵手紙を描きましょうよ」とわたし。

暇ならベッドで描いたらどうか…と彼女に勧めたのだが、
手術した後の状態でそんな事は無理だと。
話してたら何故かわたしが毎日描いて彼女にあげることになった。(; ・`д・´)

毎日描いて、毎日出した。2週間。14枚。
この絵はその時の絵。ハガキ大。

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日付が変わる直前の夜中の中央郵便局に持っていって当日スタンプ押してもらったりして、結構苦労して仕上げて毎日出した。

でも、彼女の病室には毎日は届かなかったらしい。
なんでも看護師さんが楽しみにしていて、看護室で回し見してるんだって。
さっさと持ってこいよ!って荒い口調で彼女は笑ってた。

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その話を聞いて、わたしはちょっと不思議な感じがした。
嬉しかった。
自分の絵が、初めて人の役に立ってるような気がした。
疲れた人の気持ちを、和らげる。


懐かしいな。
現物は手元にはない。出す直前に撮った写真があるだけ。


他の生徒さんらが、
入院したら先生の絵手紙が毎日貰えるって本当ですか!!??
すっごく楽しみです!!って目をキラキラして言うから、ちょっと困った。
病気にはならないでね♪


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この1日1枚ハガキ絵制作は、その後も数年続けた。
もう郵送はせず、自分用。ハガキフォルダに全ファイリング。
今思えば転換期だった。

【良かった事】
・毎日一枚描く習慣がついた。結果的に300枚以上描いた。
・たくさん描くのでいろんなものが描けた。構図や技法も試した。

【悪かった事】
・一日2時間ずつ制作時間が押されて、油絵を描く時間が足りなくなった。

・気軽にタダであげてしまったので、その後、絵画の販売をする気がなくなってしまった。あの人にはタダで14枚もあげたのに、内容が同じものを1万円以上で販売するなんて…。アタシはプロじゃない。もうお金なんか貰えない。
僅かにあった、あるいは育てようと思っていたプロへの思いが消し飛んだ。


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でも、描くのはとにかく楽しかった。
普段1ヶ月以上、100時間以上かかって油彩画1枚描いてたから、1~2日で描ききって、数ヶ月で100枚って描いた感あるじゃん?
ペン+水彩画が楽しくてたまらなかった。水を得た魚。

子どもの時からずっとペン画が好きだったことを思い出した。
学生の時はずっと、通学中ボールペンでスケッチをしていた。
『ペン画が好き、ペンで絵が描きたい』という気持ちを思い出す。

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油絵は美大進学に必要だから始めた。
ペンはデッサン・スケッチ・下描きのための素描道具であり、『作品』としては通用しない。勉強&習得するなら油彩画を。
そう思って、ペンにはのめりこまないようにしてた気がする。

そんな制約が外れた今、突然、何か実現できる気がした。
描かなきゃ、急いで描かなくちゃ!
でも何を?
テーマは?
大きさは?

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ペンと油彩画の両立は難しい。
一番最初に困ったのは大きさだ。
ペンはB4くらいの大きさまでが、最適で限度だと思う。
(ペンで100号クラスを描いてる人は、いるっちゃいるけど)
油彩画は逆に、最低でもB4の2~5倍くらいの大きさが必要。

絵画展にペン画を出すことは可能だが、サイズの下限があり、自分が発表するには大きさが全然足りない。
大きいサイズが好きではなかったわたしは、小さいサイズで絵が描きたかった。もし二択なら…。


二択なら?

絵画展に発表するのを辞めた場合…。
ペン画作品の発表の場はどこなのか全然わからなかった。
雑誌や出版?イラスト部門?デザイン?

それに油彩画講師のくせに油彩を捨てたいというのはマズいなと思った。
この仕事を辞める?
こんな自分を慕ってついてきてくれる生徒さんを捨てて?

2011年。悩みの始まり。

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