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猫の道

じゃ、いつもの通り、キディランドの前集合で。

新卒で入った会社、入社2年目くらいの頃。
同期の男女5〜6人で集まる定期的な飲み会があった。
そして、飲みに行く店も決まって同じ店だった。
初めて行った時は、本当に店はここにあるのか、そう思うほど目立たない店だった。

全員が集まり、キディランドを出発し、少し表参道方面に歩く。
右手すぐに階段があり、それを降りた数段低く暗い道を渋谷方面に歩く。
二つ目の四辻に八百屋があり、八百屋の中にある階段を地下に降りる。
そこがいつもの飲み会の場所だった。

今では、キャットストリートと呼ばれ、屈指のファッションスポットでもあり、道は明るく整備されている。
当然、いつもの店は今はなく、ただ八百屋だけは健在だ。

店に入ると、初老の夫婦だけが迎え、メニューもなく、出される料理を頂き、その料理はまるで実家で食べる晩飯のような献立、ところが抜群に美味く、それがいつも行く理由となっていた。
高菜炒飯・豚汁・コロッケ・煮物・玉子焼きなど、行くたびにあまり変わり映えしない献立にもかかわらず、特に女子が気に入っていた。
いつも貸し切りで、ご夫婦交え、他愛のない会話をした覚えがある。

じゃ、また来ますね。ご馳走様でした。

外まで見送ってくれたご夫婦に挨拶し、もと来た暗い道を歩いて帰る。
風が気持ちいいね、と少し赤らんだ女子たちを、後ろから笑いながら眺め歩く男子。

そんな昔のことを思い出しながら、神宮前から渋谷に抜けるため、歩いたキャットストリートだった。


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