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夜更けの電話

昨日、午後十一時ごろ。
家の電話が鳴った。
なんだ?こんな夜に・・・。

一応、家には固定電話がある。
しかし、スマホがあるため、まず使わない。
かかってくることも滅多にない。
そもそも、固定電話の電話番号は、めったな事がない限り他人に教えていない。
だから、たまにかかってきても、だいたいは間違い電話だ。
何のため契約してるんだろう?と、たまに思う。
それに不便だ。
スマホと違ってわざわざ別料金を払わないと、着信番号がわからない。
つまり、誰からの電話なのか分からない。
とはいえ、とりあえず電話に出た。


「はい、もしもし」
(あっ、ひがしさんのお宅でしょうか?)
聞いたことのない、こもった男性の声。

「そうですが」
ぶっきらぼうに答える。
(ひがしか?俺や、佐藤や)
声の調子がガラリと変わる。

「あぁ?佐藤?・・・なんや、おまえか・・・、ビックリしたわ。家なんかにかけやがって、スマホはどないした?」
大学を出、最初に入った会社の同期。
今では互いに別の会社で働いているが、気が合うのか、今でもつきあっている。
ヤツが大阪出身のため、どうしてもエセ関西弁になる。

(いやな、こういう事は、ちゃんと電話せなあかんやろ?)
「なんだ?こういう事って?まさか、また結婚するなんて言うんじゃないだろうな?」
(いや、そのまさかや。ご招待しよか思うて、ちゃんと電話したわ)
聞いて呆れた。

「・・・アホか。電話なんかどっちでもええわ。それにな、おまえ、もう何度目や?確か五度目?」
(ピンポーン)
調子のいい声。
「もうご祝儀払わんぞ。逆にもらいたいぐらいやわ。お車代たっぷりな」

ヤツは外資系の金融会社に転職し、一山あてた。
都内の一等地に億ションを現金で買い、結婚と離婚を繰り返している。
過去四度の結婚には全てつきあった。
その度に、ヤツにとっては些細な金だろうが、普通のサラリーマンにとっては痛い出費を払ってきた。

「今度は何歳だ?」
(は・た・ち)
「はたちーっ?」
びっくりした。
「おまえ、犯罪一歩手前だぞ」
(冗談や)
「アホ」
本気でやりそうなことだけに、安堵した。

(まぁ、俺も今回が最後と思うてるからな。カタギの人間にしたわ)
「なにが堅気だ。どうせまた財産目当ての芸能人もどきだろ?それよりオレと一緒になるか?一秒で別れて一億ぐらいもらってやる」
(ばぁか。今回はマジメだって。ウチの会社にきてる派遣の子)
「・・・本気か?なんだかエラい地味だな」
(そや。本気や)
「・・・ふーん、まぁ、そういうことにしといてやるわ」


ヤツの結婚式には四度出た。
と同時に、葬式にも一度出た。
最初の嫁さんの葬式だ。
普通の嫁さんだった。
高校の時からつきあって結婚した。
薬剤師をやっていて、とても優しく、何度か手料理をご馳走になった。
持病だったのか、心臓が悪く、自宅で倒れ、若くしてそのまま逝ってしまった。

葬式でのヤツの憔悴ぶりは、見ていて可哀想だった。
それからというもの、全てを変え、全てを忘れ、仕事に没頭した。
根は変わらないが、表面はがらりと変わった。
そのヤツが、今度は本気というんだから、まぁ、信じてやろう。


今日、自宅に戻りポストを見たら、一通の封書が入っていた。
全うな招待状が早速届いていた。




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