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採血嫌いの実態

丸い椅子に座るなり、「お手柔らかにお願いしますね」と、ぎこちない笑顔で告げた。
相手も手慣れたもので、「はいはい」と愉しげな笑顔で答えた。

「気分悪くなったりしますか?」と聞かれ、「いえ、単に注射が怖いのと血を見るのが苦手なだけです・・・」と、ますますぎこちない笑顔で答えた。

「はい、じゃほら、後ろの風景がきれいなカレンダー見て、旅行に行ってるとでも思って、がんばってくださいね」
言われる前から左腕だけ差し出し、顔は180度近く捻っていた。
それっきり、一切現場を見ないようがんばった。

少しすると、腕をしばる感触がし、「はい、じゃ、最初だけ少しチクッとしますからね」と言われ、言葉も出ず無言でうなずいた。
「イテッ」思わず言葉が出た。

「・・・まだ射してませんよ、消毒してるだけじゃないですか」
たぶん呆れ顔で言ったのだろう言い方そのもの。
言われてみれば、単にゴシゴシ指で腕を擦ってるだけのことだった。

「すみません・・・」と言い終わらない内に、チクっと痛みが走った。
顔がひきつった。イテッと言う暇もなかった。
「はい、もう少しですからね、きれいなお花畑いいですねぇ」
気を紛らわせようと言ってくれてるのだが、カレンダーを見る気も無く、ただ目を閉じ、ひたすら終わるのを待っていた。

「はい、終わりました。がんばりましたねぇ」
無駄に力んだ全身の力が一気に抜け、「なぁんだ、楽勝楽勝、お手数かけました」と胸を張って、勇ましく答えた。

「もう一本いきます?」
注射をかかげ、にらみ笑いをしながら返してきた。
「じゃ、また来年」
胸の前で手を振り、軽く笑って退散した。


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