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聴覚過敏 当事者の実感と対策

私は聴覚過敏だと思う。咳、鼻をすする音、太鼓を練習する音など、苦手な音がある。
学校でも会社でも困ったけれど、在宅のフリーランスになり、環境を適応させた後に聴覚過敏という言葉を知った。
ASD傾向もあるように思う。ネット診断では当てはまりまくりだが、困らない環境にした後にこの特性を表す言葉を知ったので、病院での診断を受けたわけではない。

聴覚過敏に関する、インクルボックスの動画(辻富彦先生への赤平大さんのインタビュー)を視聴し、耳鼻科医の辻富彦先生の論文を読み、
聴覚過敏に困っている人や、接する人の参考になればと思い、当事者の実感と対策を書きます。

苦手な音

子どもの声 …自分が幼少期のころが最も、子どもの声が苦手だった。もうちょっと静かにして欲しかった。
今は子どもの声はかわいいと思う。ただ、金切り声は苦手だ。人をからかう声も、自分に対してで無くても辛い。

大人の声 …穏やかな日常では大丈夫。ただ、直近では、花火大会へ行く満員電車でイヤホンを忘れて耳栓を無くした時、間近で騒ぐ人がいて地獄だった。花火自体の音は爽快だ。

掃除機の音 …父親がガンガン壁に当てながらかける音は、イラ立ちを撒き散らしているようで苦手だった。
今は普段、ルンバや夫や自分がかける時は大丈夫。ただ、台湾旅行へ早朝に出発する予定の前夜、掃除機をかけだす夫に「こんなタイミングでやめて」と泣いて抗議した。ストレスと緊張で過敏性は高まるようだ。

クチャクチャ食べる咀嚼音 …物心ついた時から父がクチャクチャ食べる音が苦手で、嫌だと言えずこじらせた。
ひどくなった大学時代は人と食事に行くのも怖かった。家を出て、今はだいぶ良くになった。息子に「口を閉じて音を立てないように食べよう」「クチャラーはモテないぞ」と話している。

咳・喉を鳴らす音(エヘン虫)・鼻をすする音 …授業中や勤務中、電車移動中など気になる。感染る気がする。
家族が咳をする場合、心配もあいまって気になる。加湿や食事、薬などで咳の元となる病気を治そうと対応。

太鼓の音 …祭りの最中の太鼓の音は好きなのに、日常で練習音が聞こえてくるのはうるさいと感じてしまう。
防音対策をして、手紙でお願いし22時までの練習を21時までにしていただき、歩み寄れたと感じたら軽減されたように思う。

苦手な音に接すると、キツい。ひどい時は冷や汗が出てゾッとするほど。アトピー持ちで花粉症なのだが、苦手な音は、アレルギー反応に近いように感じるほど、生理的に受け付けない。
例えば、「黒板を爪で引っかくような音」だと、通常感覚の方にとってもゾワッとする音かな?

聴覚過敏の苦手な音を見渡すと、人の発する音を、不快に感じやすいと思う。
飛行機の音は轟音でも結構平気。車の走行音は平気だけどクラクションは苦手なので、そこに人間の意図や存在を感じると辛いのかもしれない。

音で、集中したいのに阻害されると、自分の世界が邪魔されると、侵蝕されるようで、体に入り込んでくるようで、気持ち悪い、嫌なのだ。


感覚の過敏性に気づいた時期と変遷

大学受験
日常生活に差し障りが出るほどの、感覚の過敏性に自分で気がついたのは、大学受験の時。ストレスMAXだ。それまでは家では苦手な音があったものの、我慢していた。
授業や試験中、咳や喉を鳴らす音、鼻すすり、ペンを必要以上にカチカチさせる音が気になる。ペン回しや貧乏ゆすりも…これは視覚過敏か。
図書館で勉強する時くらい、耳栓を遠慮なくしておけば良かった。思春期で自意識過剰だったからか、当時は馴染みがなかったからか、耳を塞ぐ道具を活用しなかった。定型発達の人でも、静かに集中したい時は耳栓くらいするはず。
家では、歌詞の無いインストゥルメンタルの音楽をヘッドホンで聴きながら勉強していた。

親とは一触即発だった。父のオエェとえずく音で朝起きてしまうのが不快で「うるさい」とボソッと言ったら、滅茶苦茶キレられた。親が子に「お前はおかしい」など、否定するようなことを言うと反抗性が高まってしまうと思う。
互いのイライラが暴発する前に、冷静に話し合える時を見計らって、音が辛いということを伝えてみてもよかったかもしれない。感覚の過敏性の苦しさを、当時世間で全く浸透しておらず説得材料も無い状態で(ネットで関連ワードで検索して調べる術も昔は無かった)、感覚や価値観が違う人にわかってもらうのは困難だったと思うけれど。

大学
早稲田大学の第一志望の第一文学部は落ち、滑り止めの第二文学部に入った。
母親から「出ていって欲しい」と言われ、一人暮らし。半笑いで言われて傷つき、自暴自棄になった。居場所が無く疎外感があったが、親とは一緒に暮らさないで距離を置いてよかったかもしれない。
もし私が息子に一人立ちを促す言葉をかけるなら「あなたのことは愛している。家を出て一人暮らしをした方が、自立して生活をする練習になると思う。」と話すと、自尊心を損なわずに納得できるだろうか。
例え衝突が絶えない状況でも「距離を置いた方が良好な関係を築ける場合もある。あなたのことは好きだけど。」と、子離れ親離れを愛でくるんで伝えたいのだが伝わるだろうか。

授業中、受験時と同じく咳など気になり、いたたまれない。心理学も学んでいて、音に慣れようと自己流で暴露療法(イヤホンをせずに電車に乗車など)をしようと試みたが、悪化した。
メンタルクリニックにも行った。「音が嫌で人を殴ってしまいそうです」と話したら(殴ったことはない)、強迫神経症と診断されて薬を処方された。二次障害への対症療法は、根本的な解決にならなかった。
授業は面白いのに、聴覚過敏による不快感まみれで、気にしてしまう自分も嫌で自己嫌悪も重なり、大学を二年で中退。

皮肉なことに、確か中退した後頃(20年ほど前)オンデマンド授業(生徒が自分の都合に合わせて、オンラインで授業を受けることができる)が出はじめた。勉強は好きだけれど、学校(の教室で集団授業を受けること)は苦手なので、オンデマンド授業が盛んだったら、中退せずに済んだかもしれない。

会社
色々な音が聞こえる状況で座って何かをし続けるのは厳しいと思い、イベントの制作会社へ。1/3ほどはイベントの現場で立って動く、大変だが不快まみれになる間はあまりなく楽しい。
デスクにいる際の電話や頻繁な宅配の対応は苦手だった。仕事で集中している時に不意に話しかけられるのも得意ではなかった。予め時間を決めたミーティングは大丈夫。
海外出張で時差のある中がんばり過ぎて眠れず、過労で倒れた。

適職
その後、飲食店やデザイン制作会社の勤務を経て、在宅勤務からの、フリーランスになった。デザインやマンガの制作をしている。

感覚過敏の人は、状況が許されるなら、フリーランスが向いているかもしれない。営業や経理、進行管理なども自分で行う必要があり、決してラクではないが、生理的な不快感にさらされ続けるよりはだいぶ快適だ。
その後コロナ禍でテレワークが進んだので、テレワーク勤務推奨の会社も合うかもしれない。


聴覚過敏に悩んでいたとき人と暮らすのは一生無理だと絶望していたが、20代の頃アパートの6畳一間で6年間同棲していた。今の夫である。気が合う人と慣れ親しめば、愛着が形成されれば、安心できる。

在宅になり家で過ごす時間が増えると、住宅街の工事音やアパートの他の住人の生活音が気になり、鉄骨造りのマンションの最上階角部屋を探したりもしたが、平家の賃貸を経て、現在は戸建てを購入。
親と会うのは、お盆や正月など年に2〜3回ほどで、良好な関係になった。

妊娠・ホルモンバランスの変化
妊娠時、聴覚過敏が強まった。定型発達の人でも匂いに敏感になってつわりが起こるので、さもありなん。妊娠中はホルモンバランスの変化により常に車酔い状態だ。体や心の調子を整えようと、ヨガやマインドフルネス、仏教を学んだりして乗り切った。

産後、子宮腺筋症の治療でミレーナを入れてホルモンバランスが変化したからか、低い耳鳴りが続いて耳鼻科へ行った。
聴覚検査をして確かに低い音が聞き取りづらいようですねと言われたので、今思うと、低音障害型感音難聴だっただろうか。確かビタミン剤や漢方の当帰芍薬散を飲んだら、耳鳴りはおさまった。血流を良くしたらおさまったという印象。


防御力アップ!防音保護具

(ノイズキャンセリング)イヤホン …現在はたまに電車乗車中や本屋へ行く時に使用。

(ノイズキャンセリング)ヘッドホン …週1回ほど自宅で、家族が家にいる中仕事をする必要がある時に使用。

*ノイズキャンセリングは、機能が進み、会話やアナウンスは聞こえる外音取り込みモードなどができるようになった。音を流さないで消音モードにすると、三半規管がやられるのか、車酔いのような吐き気がする。
*聴く内容は、音楽や、ラジオ、ポッドキャスト、オーディブルで本を聴いたりする。コンテンツも豊富になってきた。

イヤーマフ …取り急ぎ耳を塞ぎたい時に。ノイズキャンセリングと違って充電しなくてもいいのは便利。
耳栓 …ドラッグストアで売っているサイレンシアや、ネットで買ったモルデックスを就寝時に使っていたこともある。
使い過ぎて外耳炎気味になった。
今は繰り返し使えるシリコン製の耳栓を、お守りがわりに持ち歩いている。あまり使っていないが、持っていると安心。

消音材 …太鼓の練習音が換気口から入りやすいようなので、消音材を換気口に設置。ネットで数百円で買えて、設置や撤去もお手軽。
音が窓から入ってくるようなら、内窓設置に国から補助金がでる。(2024年現在)


他の対策

仕事の環境 …在宅ワークにして、電車やオフィスを避けた。
勉強 …仕事に必要なスキルアップを、本(たまに動画)で独学で今も折りに触れてしている。

睡眠大事 …自律神経を整えて、血流を良くすると過敏性がおさまりやすい気がする。ストレスが高まり血流が悪くなると、過敏性が高まる感触がある。
ストレッチ …お風呂の後、身体をほぐす。

マインドフルネス …朝、10呼吸分。呼吸と意識の向け方を整える。
寝る時、頭の中で『般若心経』を唱える、約1分弱。感覚過敏の人に、「無眼耳鼻舌身意」のくだりは刺さると思う。
詳しくは拙著コミックエッセイ『ゆる仏道』に描きました。

耳をまわす …これは耳鳴り対策だけど、お風呂に入った時に、耳を手でつかんでグルグルまわす。血行を良くすると耳鳴りがおさまりやすいと思う。
太鼓の練習音を聴いた後、太鼓の音が耳に残り、ポコポコ太鼓のような耳鳴りがし続けることがあるので、念入りに耳をまわす。意識が太鼓の音に向いて、類似の音(家電製品か水の流れる音・自分の身体の音)を拾いやすいからかもしれない。

音を避けて、避けられない場合は触れる頻度を減らし、心と体の調子を整えると、聴覚過敏は和らいだ。


分析

社会性は、営業本を読んだり、トレーニングで結構どうにかなると思う。もしくは人間関係に正解は無いと、ある程度開き直ってしまう。
怒りや憂うつな心は、認識を整える認知行動療法や、アンガーマネジメント、ストレスコーピング、仏教を学んでましになる。

感覚過敏は、生理現象なのでいかんともしがたい。私にとって、ラスボスというか、生きづらさの苦しみの根っこだと思う。

かつては世界にたった一人の異物で自分がおかしいと、もしくは、神経質という漠然とした捉え所のない解決策のない性質だと思っていた。
ここ数年は、聴覚過敏という特性の人がマイノリティながらもいると知り、心強い。

感覚が鋭く、感受性が豊かだから、できることもある。
その感受性は諸刃の剣かもしれないけれど、武器にもなる。
感覚過敏により、会社勤めが苦しくやむを得ずフリーランスのクリエイターになったとも言えるし、ものをつくる仕事がしたいという夢をかなえる糧になったとも言える。
タイトル画像のようにゆるい画力でも、努力と実行を重ね中途半端なプライドを捨てれば、何かしらの形で描くことを仕事にできるので、感覚過敏に悩む人は希望と勇気を持ってほしい!

なお、特に表現に携わる人(アーティスト、役者、音楽家、マンガ家など)は、そのエピソードを読むと、感覚が鋭敏な人は結構いると思う。

以上を踏まえて、6歳の息子に対して、どうしよう。
私の敏感性に似ている所も、違う所もある。生活に困るほどの感覚の過敏さがあるかどうかは絶妙で、才能を裏づける鋭敏さと取れなくもない。おそらく周囲の対応など次第でどちらにでもなる。

来年小学生で、来週保育園の個人面談だ。感覚の鋭さを取り沙汰すか、否か。


[参考]

◯辻 富彦「自閉症スペクトラムなどにおける聴覚過敏について―保護者に対するアンケート調査と文献的考察―」

◯ インクルボックス「Expert辻富彦1〜聴覚過敏とは〜」

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