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経営コンサルの甘言

新型コロナの影響で客足は前年大幅割れがずっと続いている中で、九州を始めとした各地の大雨被害、はたまた関東の地震と、どうにも落ち着かない不穏な今日この頃。
そんなことも影響したのか、先日、こんな夢を見ました。

私は、都内某所で食料品や飲料を扱う小売店舗の雇われ店長をしています。
そんな私のところに、小売店の経営コンサルタントを名乗る人物から会いたいと連絡があり、店で話を伺うことにしました。

やってきたその人物、年齢は私より少し上でしょうか、ボタンダウンのワイシャツにアメリカントラッドの仕立ての良いスーツをパリッと着こなして、靴はぴかぴかに磨かれています。そのスーツ、ブルックス ブラザーズでしょうか?
人当たりの良さそうな笑顔を見せてはいますが、エリートっぽいその立ち居振る舞いを見ると、この人はたぶん、現場に立って自ら物を売った経験は無いんだろうなと思わせるには十分でした。

私から最近の店の状況をひととり聞いた後で、そのコンサル氏、早速こう切り出しました。
「4,5月の休業で売上げが無くて大変でしょう。
でも、ご安心ください。私が売上げを回復させる即効薬をお持ちしました。」

即効薬?
このエリアでの新型コロナの感染者増が連日報道されていて、近隣のビルのオフィス人口も下手したら2~3割程度しかないような状況で、そんなに簡単に売上げを伸ばす手段があるのでしょうか?

「こちらのお店の商品を、全品3割引きで売るのです。」
コンサル氏は、高らかにそう宣言します。

3割引きて、それはお客さん喜ぶかもしれませんが、3割分の売上げが無いと、利益が出ないではありませんか。

「大丈夫。割引きの減資は、国の助成金を私が取ってきます!
3割分全額補填されて、ついでに、広告宣伝費も少し付けましょう。
金額は、そうですね、こちらのお店なら3~4ヶ月は全品割引きが続けられる額にしましょう。予算が無くなった時点で割引き終了という形で。
でも、こちらのお店だけですよ。他ではできません。」

ふえ~、そんなに美味しい助成金があるんですか!?
国も太っ腹ですね。
しかし、そのプランにはいくつか問題がありそうです。
まず、このコロナ第2波が来そうな情勢で、店に人が群がるようなセールを打つことは、果たして良いことなのでしょうか?

「もちろん、コロナ対策はしっかりやっていただく必要があります。
一時的に入店制限をかけるとかも必要かもしれませんね。
具体的な方策は、別途検討しましょう。」

う~む、しかし、全店3割引きセールを数ヶ月なんて、閉店セールみたいで、いろんな人から「あそこは大丈夫か?」なんて言われそうですね。
逆にイメージダウンになるんじゃないでしょうか?

「そんなことはないでしょう(笑)
心配なさらなくて大丈夫ですよ。」

大丈夫って、私が思うくらいだから、そう思う人は他にもたくさんいると思うんですよね。
それに、全商品と言っても、割引きできない商品もあるんじゃないかと思うんです。
焼酎を始めとしたアルコール飲料を売っていますが、これは酒税法との関係で廉売できないルールがあるんじゃなかったかな?

「大丈夫です。
今回の肝は、全商品を3割引きにすることですから。」

本当にそうですか?うかつにやると、後から税務署から怒られたりしそうだなと思いました。怒れるだけならまだ良いですが、酒販免許取り消しにでもなれば目も当てられません。

そんなことを考えているうちに、うちの店に商品を納めていただいている、漬物工場の社長さんや、菓子製造業の社長さんの顔が頭を横切りました。
皆さん、うちの店以外にも近郊のスーパーや百貨店と取引があり、同じような商品を納められていますので、うちの店だけで3割引きセールをやることになれば、取引先から責められることになるかもしれません。
他にも、商品価値を維持したいとか、卸屋さんとの関係から値引き販売をして欲しくないとか仰る取引先もあるかもしれません。
やるからには、全ての取引先に支障が無いかどうか確認しなければならないと思います。

しかし、コンサル氏が言うには、
「そんなことしなくても大丈夫です。
取引先の皆さんには、従来どおりの額をお支払いするわけですし、こちらの店の売上げが伸びれば、お取引先の皆さんも助かるんじゃありませんか?
いちいち断りをいれなくても大丈夫ですよ。」

いや~、製造量や納品量に限界のある取引先もあるので、売上げ伸びたから取引も一概に伸ばせるという所ばかりじゃないんですよね。
どういう売り方をするかを取引先と共有するのは、小売店の最低限の仁義というものではないのでしょうか?

それに、一律3割で数ヶ月売ることにすると、確かに一時的には売上げは伸びるかもしれませんが、割引きセールが終わったとたんに客足がぱったりと止まってしまうことが容易に想像できます。
年間でトータルしたら、結局前年並みか、せいぜい微増にとどまる可能性だってありますよね。
一度安売り店舗のイメージが付いてしまったら、安い商品を求めるお客様が中心になりますし、「今度いつ安売りするの?」なんて、絶対にレジで言われるようになります。

「いやいや、今大事なのは、4~5月に失った売上げを取り戻すことじゃないですか。
こちらのお店と、お取引先には、即効薬が必要なんです!」

そうですか?
でも、3割も引いちゃうと、特定の人気商品だけに集中しちゃいそうですね。品薄な人気商品の中には、メルカリとかヤフオクで定価より高く転売されている商品もあるので、転売屋が殺到しそうです。
売れれば良いというものではないと思うんですよね。
結局、国のお金(元は税金)を使うけど、それは店に残るのでもなく、取引先に行くのでもなく、一部の消費者に広く配られるだけじゃないんですかね?

私が店長に任命された時に課せられた使命が、前年より売上げを1割上げることでした。
売上げ=客単価×客数ですが、客数を伸ばすことは簡単ではないので、まずは客単価を上げる努力をしています。
商品の魅力を説明する手書きのポップを作ったり、商品の配置を買えたり、これまで取り扱ってこなかった商品の納入を取引先にお願いしたり、スタッフ全員で工夫しながら取り組んで、その効果が徐々に見えてきているところなんです。
一律3割引きというのは、その努力と真逆を行くもので、とりあず客数を増やすためのもので、確かに即効性はありそうですが、副作用も大きい劇薬です。

どうしても割引きが必要だと言うのなら、2,000円のお買い上げ毎に500円の割引券を差し上げることにしたらどうでしょう?
そうすれば、客単価を上げる誘導策になりますし、次回来店を促すこともできますので、来客頻度を上げられます。

するとコンサル氏、
「いやいや、割引券の処理とかレジスタッフの皆さんが嫌がるんじゃないですか?回収した券の管理も大変でしょうし。
一律3割引きなら、最後に3割引きのボタンを一つ押すだけですよ。」

割引券なら、これまでも経験がありますし、3割引くのも500円引くのも、ボタン一つなのは変わりません。

コンサル氏、さらに続けて、
「いいですか、このスキームは、3割引きでないとダメなんです。
それより多くても少なくても認められません。
何せ、国が決めたことですから。」

なんか根拠がよくわかりませんが、3割引きでないとダメなら、2,000円のお買い上げで600円の割引券にすれば良いのではないでしょうか?

「もう一つ、一律レジで引く仕組みでないと、受益者が限られるじゃないですか。それだと認められないんですよ。」

ますます根拠がわからなくなってきましたが、うちの店のためにやるんだったら、うちの店がやりやすいように、将来的なことも考えて損が出ないように、やって良かったとスタッフ全員が共有できるようにやりたいですよね。
わざわざ来ていただいて申し訳ないけど、一律で3割引きに限られるのなら、そんなことやりたくないです。

そうしたらコンサル氏、顔を真っ赤にして怒り出しました。
「この話は、お宅の社長と既に話がついてるんですよ。
国からお金を貰ってくることも話ができているし、今さら出来ないなんてことは出来ません!」

え~!社長からは事前にそんな話は全く聞いてませんよ。
事前に相談してくれたら、お話ししたようなことを提案して、みんなが納得できる形にできたのに。
もう、あのぼんぼん社長、現場を知らないくせに、勝手に現場のことを決めちゃうんだから。
これで断ったら、店長辞めさせられて、社長の意のままに動くロボットみたいな新店長が来るのかな?
しかし、この即効薬、麻薬みたいなもので、一度飲んだら身体ボロボロになって店の将来を潰すよね。働いているスタッフの皆さんの将来を潰すことにもなりかねないので、私は絶対にやりなくないな。
どうしよう。う~ん、う~ん。


「あなた、あなた、大丈夫?」

隣で寝ていた妻の声で起こされました。

「どうしたの?何かうなされていたわよ。」

あ~、夢だったか。
なんか嫌な夢だったな。

さて、今日も仕事だ。頑張って行かなくちゃ。
変なコンサルじゃなくて、一人で5,000円くらい買っていただけるお客様が来ていただけますように!

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