【エッセイ】約30万円を払うか、待機・自主隔離期間に無理やり通院するか: 一時帰国で迫られる予想外の決断
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【エッセイ】約30万円を払うか、待機・自主隔離期間に無理やり通院するか: 一時帰国で迫られる予想外の決断

堀口 英利 | Horiguchi Hidetoshi

南アフリカで検出された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株である「オミクロン株」が英国をほか各国でも上陸が確認されました。これに伴い、英国から日本への入国のハードルは上がりました。そして潰瘍性大腸炎を抱える私にとって、この措置は極めて厳しいものでした。

はじめに: 「オミクロン株」による水際対策の強化

11月29日をもって、厚生労働省は「オミクロン株」を「水際対策上特に対応すべき新たな変異株」として位置づけるとともに、英国からの入国者・帰国者には「検疫所が確保する宿泊施設で6日間の待機・自宅ほかで8日間(入国後14日目まで)の自主隔離」および「入国後3日目・6日目の検査」が求められる運びとなりました。

また、ワクチン接種証明書保持者への行動制限緩和、3日間停留免除および待機・自主隔離期間短縮(14日間から10日間)といった措置が停止となりました。

報道によると、日本国内で初めて確認された「オミクロン株」感染者はワクチンを2回とも接種済みで、さらには疫学的な情報も不十分という現実に鑑みるに、この対応は予防的措置としてやむを得ないでしょう。

しかし、冬期休暇の一時帰国を予定していた私にとって、この措置は(おそらく政府が想定していた以上に)厳しく、悪影響や不利益が大きいものでした。

どんな情勢でも一時帰国は絶対に必要、なぜなら

「こんな時期に一時帰国するなんて!」と言われるかもしれません。しかし、私には帰国せざるを得ない事情があります。

持病の「潰瘍性大腸炎」です。特に、潰瘍性大腸炎の最も一般的な第一選択薬(最初に処方される治療薬)である5‐アミノサリチル酸(5-ASA)製剤に薬剤アレルギーを起こしてしまうことから、掛かりつけ医以外での診察(特に外国での治療)には多大な不安があります。

この薬を飲まないと深刻な下痢、血便や貧血といった症状に悩まされ、長期的には大腸がんに発展するリスクを高めます。だから「飲まない」選択肢は絶対にあり得ないし、定期的に一時帰国して投薬治療するほかありません。

補足:
出入国在留管理庁は「日本人が帰国することは国民が当然に有する権利」としており、出入国管理及び難民認定法(入管法)第61条も、日本人が入国監理官から受けるのは許可ではなく、あくまで「確認」としています。
https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/kikoku.html
したがって、仮に持病のような必要性がなくとも帰国それ自体は「当然の権利」であり、本来的に批判されるべきものではありません。

年末に薬が切れるのに、待機・自主隔離期間が延びたから間に合わない!

手元にある免疫抑制剤の在庫は年末に切れる予定です。もともと自主隔離が10日間なら、12月第5週に通院できるので、年末に間に合う予定でした。

しかし、年内で最後の授業(12月中旬)に出席してからヒースロー空港を発ち、羽田空港に着いてから宿泊施設で6日間の待機・自宅で8日間の自主隔離を経ていると、もう年末です。なお、お世話になっている慶應義塾大学病院は日曜日・第1・3土曜日、国民の祝日・休日、年末年始(12月30日-1月4日)、慶應義塾の休日(1月10日)が休診です。

つまり、英国からの待機・自主隔離期間が14日に延長されてしまいましたから、フライトを早めるか、自主隔離期間に通院するかしないと、年末までに通院できずに薬が底を突いてしまいます。

仮に薬が底を突いて我慢しても、掛かりつけ医は月曜日しか病院にいません。1月3日(年末年始)と1月10日(成人の日=祝日、かつ慶應義塾の休日)はともに休診。つまり、年が明けても1月17日まで受診できないし、授業スケジュールおよび英国での隔離期間から1月14日までに日本を発つ必要があります。このままだと、春期休暇まで免疫抑制剤を入手できない事態になりかねません。

「もっと計画的に行動しておけば」と言われるかもしれません。しかし、もともと授業のスケジュールと薬の数を勘案し、年末年始だと航空運賃も高いので安いフライトを探しながら一時帰国の予定を緻密に立案していました。十分に「計画的」だったと表現して差し支えないはずです。それに、そもそもワクチンの普及で感染者数も世界的に減っており、多くの人たち(政府もメディアも)が希望を口にしていた状況で、変異株でここまで大きな混乱が生じる事態を、はたして誰が事前に予想して「計画」できたでしょうか。

航空会社から突き付けられた「約30万円」の差額

多くの場合、私はヒースロー空港と羽田空港の移動にはANA(全日本空輸)を利用します。でも、年末年始のような繁忙期は運賃も上がるため、今回は同じスターアライアンスのルフトハンザドイツ航空でフライトを予約しました。

ルフトハンザドイツ航空だと、公式Webサイトからの予約でもANAの約半額でした。しかし、これが仇となりました。

ルフトハンザドイツ航空に電話して「10日間ほどフライトを早めたい」と相談したところ「確かに席は空いているし、変更は可能」としながらも、「航空運賃の差額として約28万円、その他に税金や発券手数料として合計で約30万円を要する」と告げられました。というのも、当初の予約で用いたBusiness Basic Plusは「14日より先のフライトに適用される割引運賃」で、直近(14日以内)のフライトに前倒しするなら上位の運賃クラスに変更が必要、とのこと。

なお、ルフトハンザドイツ航空の公式Webサイトに、そんな記載は見当たりません。日本語のみならず、英語のWebページでも同様です。また、予約画面にも、予約後に届く電子メールにも、そのような記載はありません。

https://www.lufthansa.com/jp/ja/business-class

https://www.lufthansa.com/gb/en/business-class

持病や体調もあるので、フルフラット座席で横になれるビジネスクラスを選んでいますが、念のためエコノミークラスやプレミアムエコノミークラスにダウングレードしての予約変更の可否も確認してみました。しかし、「ビジネスクラスにしか変更できない」ようです。

つまり、ルフトハンザドイツ航空によると「通院のためにフライトを前倒ししたかったら、約30万円を払え」ということです。でも、30万円を払っても例えばファーストクラスになるわけではなく、同じ座席・サービスで日付が変わるだけです。そのために約30万円というのは、さすがに悩みます。

厚生労働省と保健所は「通院して構わない」と判断、しかし

そこで、「検疫所が確保する宿泊施設で6日間の待機・自宅ほかで8日間(入国後14日目まで)の自主隔離」の期間における通院可否を確認する運びとなりました。

まず、電話したのは厚生労働省。新型コロナウイルス感染症相談窓口に事情を説明すると、次のように回答がありました。

宿泊施設で待機している期間の行動については、住民票所在地の保健所が所管するため、こちらに問い合わせて欲しい。
・自主隔離の期間に求められるのは「不要不急の外出しない・公共交通機関を利用しない」ことで、「通院は不要不急の外出に該当しない」ため公共交通機関を利用しないなら自主隔離の期間であっても通院して構わない。
・ただし、待機・自主隔離の期間における通院については医療機関にも可否を確認して欲しい。

検疫所(厚生労働省)が確保する宿泊施設における行動は住民票所在地の保健所(自治体)が所管する、というのが驚きでした。そこで、自宅を管轄する保健所に確認したところ、次のように回答がありました。

・検疫所が確保した宿泊施設でも、様々な慢性疾患によって通院や処方を要する方々がいると承知している。そのため、これらの事情に関してはオンライン診療、受診を省略した臨時の処方といった方策で柔軟に対応している。
・しかし、医療機関によってはオンライン診療に対応していない場合もあるし、実際の通院が必要なケースも考えられ、厚生労働省の見解にもあるとおり「通院は不要不急の外出にあたらない」ため保健所としては通院して構わないと判断している。なお、公共交通機関を使えないため、遠方の場合は自家用車・レンタカーもしくはハイヤーで移動することになる。
・ただし、やはり待機・自主隔離の期間にある患者さんの受け入れに関しては医療機関の判断となるため、慶應義塾大学病院に問い合わせて欲しい。

保健所の担当者は電話を切るときに、わざわざ「自宅で待機なさるときも、何かお困りのことがあったら、私たちが近くにいますから、いつでも相談してくださいね」と温かい声を掛けてくれ、この混乱のなかでも非常に救われた気持ちになりました。

厚生労働省と自治体から指示があったとおり、慶應義塾大学病院に電話して事情を説明して、通院の可否を問い合わせたところ、次のように回答がありました。

・オミクロン株もあることから、帰国してから2週間以内の患者さんの来院は断っている。
・年末年始、祝日および慶應義塾の休日は休診のため、年始に掛かりつけ医を受診できるのは1月17日になる(=免疫抑制剤がないまま約半月を過ごすことになるし、そもそもロンドンに戻る予定に間に合わない)。

確かに、感染対策を考えれば帰国して直後の患者を受け入れたくない事情も理解できます。当然かもしれません。

しかし、それでも通院できなければ免疫抑制剤を入手・服用できずに、深刻な症状に見舞われます。それに、1月上旬に2週間も連続で休診するというのに一律で「来るな」というのは妥当と思えません。

というのも、昨年3月下旬の通院では待機や自主隔離の対象ではなかったものの、同月中旬にロンドンから帰国した直後ということから、個室の待合室や陰圧室に案内いただいたり、感染対策を施しながら診察いただいたりと、ご配慮をいただきながらも受診することができました。

原則論として「帰国直後は受診するべきではない」としても、間もなく処方薬の在庫が切れてしまうとか、容態が急変したとか、緊急性のあるケースなら、医療機関の公共性を鑑みても柔軟に対応いただけないか、と感じます。特に、医療機関として都内有数の規模を誇る慶應義塾大学病院なら人員や設備のキャパシティも大きいと考えられるわけで、事前の予約や調整があるなら、対応の余地があるように思えます。

いずれにせよ、厚生労働省と保健所から許可がありながらも、医療機関の判断によって、間もなく免疫抑制剤の在庫が切れそうなのに受診できない運びとなりました。

まとめ: 一時帰国で迫られる予想外の決断

すべての人たちにとって「オミクロン株」の混乱は予想外だったことでしょう。ワクチンの普及によって政府やメディアも含め多くの人たちから希望が語られていたことからも、とても予見可能性があったとは言えません。よって、「予め計画的に行動すれば良かった」とか、そういう次元ではありません。

一方で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の情勢や検疫・出入国管理の対応がどうであれ、慢性疾患を抱える人たちは治療や通院を余儀なくされています。在外邦人は約136万人とされており、そのなかには持病や障害のある人も大勢いることでしょう。

もちろん、自分の意思で持病や障害を有しているわけではないし、これらを理由に生活や学業・職業が阻まれてはなりません。この原則は日本でも、外国であっても不変です。故に、公共交通機関である航空会社や、医療機関として高い公共性を有する病院には、なんとも柔軟な対応を求めたいものです。

いずれにせよ、既に学校からは理解を得られましたから、あとは現時点ではルフトハンザドイツ航空に約30万円の運賃差額を払うか、慶應義塾大学病院からの要請を無視して無理やり受診するか、この2つの選択肢しかありません。どちらとも気が進まない「苦渋の選択」です。


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堀口 英利 | Horiguchi Hidetoshi
1998年03月16日生まれ。実はロンドンよりもシンガポールが好きです。 ※投稿には持病の潰瘍性大腸炎に関する内容も含みます。 https://linktr.ee/hidetoshi_h_