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へカテ/ダニエル・シュミット監督

2021-06-27鑑賞

ダニエル・シュミット監督(1941〜2006)の「へカテ」(デジタル・リマスター版)を見る。1982年の作品だ。
https://hecate-japan2021.jp

「ファム・ファタール」。いかにも蓮見重彦氏健在というべき名コメントのその通りに、映画史を彩る甘美な情交シーンもさもさることながら、映画がそこに到達するに至る、どこまでも緻密な構成とカメラワークこそがこのシュミット監督の映画を見る醍醐味ではある。

1932年。北アフリカの植民地(モロッコ)に赴任したフランスの外交官ジュリアン・ロシェル(ベルナール・ジロドー)。官舎の部屋の蓄音器に置かれたレコードはシューマンの「子供の情景」の第1曲「見知らぬ国」を奏でる。本国から遠く離れたエキゾチックな砂漠の街は若いジュリアンに解放感をもたらす。ある熱波の夜のパーティーで、シルクのドレスを纏う魅惑的な女性クロチルド(ローレン・ハットン)に出会い、たちまちのうちに恋に落ちる。

青いガラスを透かし床に落ちる青い光が印象的だ。はじめは彼にとって都合の良い恋愛だと思われたが、謎めくクロチルドにのめり込むごとにまた翻弄されるようになる。ジュリアンの「支配」への欲望が彼女によって宙吊りにされるのだ。クロチルドにはシベリアに赴任する別居中の夫がいるらしいのだが、ジュリアンは彼女との埋まらぬ「何か」の矛先を探しあぐね、遂には自らが張り巡らせる嫉妬の網から逃れられなくなってしまう。

ジュリアンは彼女と別れ、赴任先を転々とする中、シベリアで廃人と化した彼女の夫と出会う。結果的に見れば、すんでのところで自らの罠から逃れられたわけだが、思い返せば彼の上司ヴォーダブル(プロットの進行役ともなっている)の、どこか遠くを見るようにな眼差しも、あるいは別のファム・ファタールの物語の結末だったのかもしれない。全てはシャンパンの泡から始まる終わりの無い旅である。

そういえば、先日見たタラ・ハディド監督の「ハウス・イン・ザ・フィールズ」もモロッコが舞台の話なのだが、それと比べればこの「へカテ」はいかにも20世紀オリエンタリズム満載のロマン主義幻想の映画ではあるが、それはそれで興味深いことではある。

監督:ダニエル・シュミット  
出演:ベルナール・ジロドー | ローレン・ハットン | ジャン・ブイーズ

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