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【書籍】国語教育の優先とその社会的意義ー藤原正彦の教育論と人事戦略への影響

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp263「8月14日:一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数
(藤原正彦 数学者)」を取り上げたいと思います。

 藤原氏による教育論は、日本の初等教育システムに対する深い洞察と批判から成り立っています。彼は特に、現代の教育が直面している課題として、国語教育の軽視と外国語や情報技術教育の偏重を懸念しています。藤原氏の主張の核心は、母国語である国語の教育を最優先にし、その後に算数などの基本的な学問を置くことの重要性にあります。それは、同氏の著書『祖国とは国語』の中でも述べられています。彼は、国語教育を通じて漢字の習得など、言語の根本からしっかりと学ぶべきだと強調し、これが子どもたちの思考力や表現力の基盤となると信じています。

 藤原氏の視点では、小学校での英語教育やパソコン教育の導入は、子どもたちが本質的な学びから遠ざかる原因となっていると批判しています。彼によれば、これらの教育は時間的な資源を浪費し、国際人としての資質よりも、文化や伝統に対する理解と精通を損なうものであると述べています。海外での生活経験を持つ彼自身が感じたことは、流暢な英語能力よりも、自国の文化や世界の名作に対する深い理解が、真の国際感覚を身につける上で遥かに重要であるという認識です。

私が数年の海外生活を通して痛感したのは、東西の名作名著や日本の文化や伝統に精通していることが、流暢な英語を話すこととは比べものにならないほど重要ということでした。

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp263

 また、アメリカの教育システムにおける株式投資の教育を例に挙げ、子どもたちが経済欄や株価に目を通すことの必要性を否定しています。彼は、子どもたちが社会に「目を開く」ことよりも、読書を通じて想像力を育むことや、算数の基礎をしっかり学ぶことの方が重要であると主張します。こうした基礎学習への重点は、創造性や独創性、自ら考える力を育成する上で不可欠だと彼は語ります。

 藤原氏は、戦後の日本の教育が戦前の過ちから反動的に、非論理的な内容の教育を避ける傾向にあると分析しています。しかし、彼によると、世界で最も重要な教訓や価値観には、必ずしも論理的な説明が伴わないものが多いです。例えば、「なぜ人を殺してはいけないか」に対する論理的な説明を避け、単純に「いけないからいけない」という価値観を教えることの重要性を説いています。これは、卑怯な行為や暴力を禁じる教育にも同様に適用されます。藤原氏によれば、こうした非論理的だが根本的な価値観の教育は、親が子どもに対して自信を持って行うべきだとされています。

 彼の教育に対するアプローチは、「一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数」というフレーズに象徴されます。これは、国語教育の圧倒的な優先と、その後に算数などの基礎的な学問を位置づけるべきだという彼の信念を表しています。江戸時代の寺子屋教育を引き合いに出し、読み、書き、算盤(計算)を基本とする教育のあり方を現代にも適用すべきだと主張しています。このようにして、藤原正彦氏は、現代の日本の教育システムが直面する課題を鋭く指摘し、国語教育の重視と基本的な学問の徹底を通じて、子どもたちに真の学びと成長の機会を提供することの重要性を説いています。

私はいつも一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数。あとは十以下と言っています。初等教育における国語の占める割合は、それくらい圧倒的なんですね。江戸時代の初等教育は寺子屋によって行われていました。しかも江戸には千数百か所、県単位で見ても三百、四百とあるんですね。全国津々浦々にあって町民から農民までがここで学んでいた。寺子屋の先生たちの偉さは、教育にとって最も大事な三つを読み、書き、算盤(計算)と順序立てて捉えていた点ですね。

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp263

人事戦略の視点から考える

 藤原氏の教育観について深堀りし、人事の立場から見たその影響や意義をさらに掘り下げてみましょう。彼の主張は、教育が単に知識を伝達する場であるだけでなく、社会の未来を担う人材を育成する基礎であるという考え方を強調しています。

国語教育の深い価値

 国語教育がなぜ重要なのかをさらに詳しく考察すると、言語は単にコミュニケーションのツールではなく、文化や価値観を伝承する手段でもあります。日本語を学ぶことは、日本の文化、歴史、価値観を理解し、それらを尊重し継承していく基盤を作ります。ビジネスの文脈で考えれば、この深い文化的理解は、国内外のクライアントやパートナーとの関係構築において、相互理解や信頼の構築に不可欠な要素となります。また、豊かな語彙力や表現力は、マーケティングコミュニケーションやブランディング戦略を考える上での創造性と独自性を支える土壌となり得ます。

算数・数学教育の社会的役割

 算数・数学教育の重要性に関しては、これが提供する論理的思考や問題解決能力のほかに、デジタル化が進む現代社会においては情報解析能力やデータドリブンな意思決定能力の基礎となることも見逃せません。例えば、ビッグデータの分析、AI技術の活用、経済モデリングなどは、算数・数学に基づく論理的思考を応用する領域です。これらのスキルは、新たなビジネスモデルの開発やイノベーションの推進に直接的な影響を与えます。

教育内容の見直しと人事戦略

 藤原氏の指摘する教育の現状に対する批判は、人事戦略においても重要な示唆を与えます。教育内容の見直しは、将来の労働市場が求めるスキルセットにどのように応えていくかを考える上での出発点となります。例えば、クリティカルシンキング、創造性、協働性といった21世紀のスキルをどのようにして育成し、評価するかについても課題となるでしょう。

国際化と伝統のバランス

 また、グローバル化の進展に伴い、国際的なビジネスシーンにおいては多様な文化背景を持つ人々との協働が日常化しています。このような環境下では、英語などの外国語能力も確かに重要ですが、藤原氏が指摘するように、自国の言語や文化を深く理解し、尊重する態度もまた、国際人としての資質を高める上で不可欠です。人事の立場からは、このようなバランスを考慮したグローバル人材の育成戦略が求められます。

まとめと展望

 藤原氏の教育論は、現代社会における教育の方向性を問い直すとともに、人事管理の観点からも多くの示唆を提供しています。教育が将来の労働市場に与える影響を深く理解し、それに応じた人材育成や採用戦略を立てることの重要性を再認識させます。また、基礎教育の内容をどのように現代のビジネスや社会のニーズに合わせて進化させていくかは、今後の大きな課題と言えるでしょう。人事の専門家としては、教育制度の変化に敏感であり続け、これらの変化が将来のビジネス環境や人材ニーズにどのような影響を及ぼすかを常に考慮する必要があります。

木製の机と黒板がある穏やかな教室の様子を捉えています。黒板には、「一に国語、二に国語、三、四がなくて五に算数」という美しい書道でのフレーズが映し出されています。窓からの日光が教室内に差し込み、日本の文化、歴史、言語教育の重要性に関する本の積み重ねを照らしています。その隣には、言語教育の後に数学の価値を象徴する伝統的な算盤が置かれています。この画像は、学びへの静かな専念と落ち着いた雰囲気を感じさせる、柔らかく温かみのある画風で描かれています。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。



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