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【書籍】部下の成長と信頼関係を築く1on1ミーティングの極意ー日経ビジネス記事より

 日経ビジネス2024/9/12の記事に「「1on1」面談は両刃の剣 成果を得るための姿勢とテクニック」が掲載されていました。

 上司と部下が定期的に行う1対1の面談である「1on1ミーティング」は、ただの業務の進捗確認や報告の場としてだけではなく、部下の成長を促進し、上司と部下の間のコミュニケーションを深めるための非常に重要なツールです。 しかし、適切な姿勢や方法を理解せずに実施すると、その効果を十分に発揮できず、むしろ形骸化してしまうこともあります。

 この記事では、1on1を効果的かつ実りのあるものにするための具体的な進め方や、陥りがちな課題を解決するためのヒントを提供し、読者が実践に役立てることができるようなアドバイスが展開されています。人事の立場としてどのように対応すべきかも検討してみたいと思います。

1on1の目的ー念入りな準備が必要

 1on1ミーティングの基本的な目的は、上司と部下のコミュニケーションを強化し、部下の成長を促すと同時に、チーム全体のパフォーマンス向上を図ることです。
 特に、多くの企業で導入されている1on1の主な狙いは、部下の主体性を引き出し、問題解決力を高めることにあります。しかし、1on1の時間を有意義に過ごすためには、上司がしっかりとした準備を行い、部下との信頼関係を築くことが不可欠です。信頼関係がない状態での1on1では、部下が本音を語ることが難しくなり、結果的に表面的な話に終始してしまう可能性があります。そこで、部下の成長を促進するためには、上司が部下の話をしっかりと聞き、適切な質問を通じて部下に考えさせることが重要です。

業務の進捗だけでなく、幅広い内容を話す場

 1on1ミーティングは、部下のキャリア形成や業務の進捗だけでなく、個人的な悩みや仕事上の課題についても話し合える場として設けられています。これは、単なる業務報告の場ではなく、部下が自分の意見を安心して話せる環境を提供することで、信頼関係を構築し、部下が主体的に行動するための支援をするための場なのです。このような1on1の目的は、多くの企業で共通しているものの、その進め方に課題が残ることも少なくありません。
 例えば、「何を話せば良いのか分からない」「1on1の時間が負担に感じる」という部下の声がよく聞かれますが、これらの問題は、上司が適切な質問を投げかけることで、部下に考えさせ、内省を促すことで解消されます。

日本における1on1のおこり

 1on1ミーティングの形式や目的は、2012年頃から日本国内の企業にも急速に広まりました。シリコンバレーの企業で採用されていた1on1の手法が、日本でも多くの企業で導入されるようになった背景には、従来の目標管理制度が時代に合わなくなり、人材の流動化が進んだことが挙げられます。
 つまり、個々の社員のキャリアニーズに応えるためには、上司と部下が定期的に対話を行い、仕事に対する考え方や目標を共有することが求められるようになったのです。

 しかしながら、1on1の形式が広がる一方で、形だけの面談になってしまい、実際には有意義な時間を過ごせていないと感じる部下も少なくありません。これを防ぐためには、上司がしっかりとした目的を持って1on1に臨み、部下の意見や課題を真摯に受け止める姿勢が必要不可欠です。

1on1の時間をプラスに作用させるための4つの基本的な機能を理解

効果的な1on1を行うためには、以下4つの基本的な機能を理解することが大切です。

 1つ目は、部下の話に耳を傾けることです。単に話を聞くだけではなく、部下が抱える問題や悩みに寄り添い、それを一緒に解決しようとする姿勢が重要です。

 2つ目は、適切な質問を投げかけることです。上司が一方的に答えを与えるのではなく、部下に考えさせることで、部下自身が解決策を見つけ出す力を養うことができます。

 3つ目は、信頼関係の構築です。信頼関係がなければ、部下は本音を語ることができず、1on1は形だけのものになってしまいます。

 最後に、部下のモチベーションを引き上げるためのフィードバックを行うことが必要です。これにより、部下は自分が尊重されていると感じ、より主体的に行動するようになります。

 実際に、全国の正社員200人を対象に行われたアンケート調査によると、78%の人が「今後も1on1を続けてほしい」と回答しており、その理由として「上司が自分の話に耳を傾けてくれること」や「日々の悩みを相談しやすいこと」が挙げられているとのことでした。
 これらの結果からも、部下にとって上司との対話が重要であり、上司が適切な姿勢で1on1に臨むことで、部下のモチベーションが向上することが示されています。特に、日常的に上司が部下の話をしっかりと聞き、共感を示すことで、部下は「自分が尊重されている」と感じ、仕事に対する意欲が高まります。

最も重要なのは「信頼関係の構築」

 また、行動習慣コンサルタントの冨山真由氏は、1on1で最も重要なのは「信頼関係の構築」であると指摘しています。部下が自分の意見を率直に話すためには、上司との間に強い信頼関係が築かれていなければなりません。信頼関係がなければ、部下は上司に対して本音を語ることができず、上司のアドバイスも効果を発揮しません。
 冨山氏は、1on1で部下の成長を妨げる大きな要因として、上司が「先回りして答えを与える」ことを挙げています。部下が自分で考え、自分で解決策を見つけるためには、上司は部下に適切な質問を投げかけ、考える機会を与えることが大切です。

 さらに、1on1ミーティングを成功させるためには、上司が「遮らない」「かぶせない」「助言しない」という「3つのない」を意識することが重要です。部下の話を途中で遮ることなく、また、上司が一方的に答えを与えるのではなく、部下が自らの力で答えを見つけるプロセスを尊重することが求められます。特に、部下が話しやすい環境を作るためには、上司がリラックスした姿勢で話を聞くことが大切です。腕を組んだり、威圧的な態度を取ることは避け、部下が安心して自分の考えを話せるように配慮することが必要です。

 また、1on1の進め方として、特に2回目以降のミーティングでは、「前回の振り返り」から始めることが有効です。例えば、前回の1on1で設定した課題や目標が達成されているかどうかを確認し、その成果について話し合うことで、部下は自分の成長を実感することができます。
 そして、次のステップに向けたテーマ設定を行う際には、「今回は何について話しましょうか」といった質問を投げかけることで、部下自身が話しやすいテーマを選ぶことができます。このように、1on1では上司が一方的に話を進めるのではなく、部下に考えさせる時間を作ることが重要です。

部下が動ける「環境整備」も大切

 1on1を成功させるためには、部下が主体的に行動できるような環境を整え、具体的な行動目標を設定することが必要です。部下が自分の目標に対して責任を持ち、上司がその過程をサポートすることで、部下は自信を持って行動できるようになります。冨山氏が提唱するように、1on1を単なる報告の場にせず、部下の成長を本気で支援するための時間として活用することが、上司にとっての重要な課題となるでしょう。

 1on1ミーティングは、上司と部下が定期的に行うただのコミュニケーションの手段にとどまらず、部下の成長を支援し、組織全体のパフォーマンスを向上させるための重要な機会であるということを再認識することが大切です。

企業人事の観点で考える

 1on1ミーティングは、単なる業務報告や進捗確認の場ではなく、従業員一人ひとりの成長を支援し、上司と部下の間に信頼関係を築くための貴重な機会です。
 1on1を効果的に実施することは、企業の生産性や従業員満足度、そして最終的には組織全体の成功に大きな影響を与えます。そこで、企業の人事としては、1on1ミーティングをどのように運用し、従業員の成長とモチベーションを高めるかを検討してみたいと思います。

1. 従業員の成長促進とキャリア支援

 1on1ミーティングは、従業員の成長を支援するための強力なツールとして機能します。
 人事部としては、1on1を活用して部下が自発的にキャリアビジョンを考え、成長のための計画を立てられるような仕組みを提供することが非常に重要です。従業員一人ひとりが自分の将来を見据え、そのために何が必要かを理解し、上司とともに具体的な行動計画を立てることができる1on1の場を作り出すことは、組織全体のパフォーマンス向上にもつながります。
 例えば、部下のスキルセットや今後のキャリアパスに対して具体的なフィードバックを与えることで、従業員が自己成長を感じられる機会を提供します。これは特に若手社員や中堅社員にとって、非常に大切な機会となり、将来的なリーダーシップ育成にも貢献するでしょう。

 加えて、キャリア形成の支援は、ただ技術や知識の向上だけに限らず、個人の価値観や働き方、ライフステージに合わせたアプローチも含まれます。1on1では、上司が部下の現在の悩みや将来のビジョンについてしっかりと聞く姿勢が求められ、それに応じた具体的なサポートを提供することが、従業員の長期的な成長を促します。人事はこの過程をサポートし、1on1を通じたキャリア支援の場が効果的に機能しているかを定期的にチェックすることが必要です。

2. モチベーション向上とエンゲージメント強化

 従業員のモチベーション向上に直結する重要な手段となります。従業員エンゲージメントを高めることは、離職率の低下や生産性の向上に大きく寄与するため、組織運営上極めて重要な課題です。1on1を通じて、従業員は日常的に上司に自分の意見や課題を伝えることができ、これにより「自分が組織に貢献している」「上司が自分をサポートしてくれている」と感じることができます。これは従業員のモチベーション向上につながり、最終的には組織全体のパフォーマンス向上をもたらします。

 特にリモートワークが普及している現在、従業員が孤立感を感じやすくなるため、1on1を通じた定期的なコミュニケーションが重要になります。リモート環境では、上司との直接の対話の機会が減少するため、従業員が不安や疑問を抱え込んでしまうリスクが高まります。1on1はこのようなリスクを回避し、従業員が抱えている問題や課題を早期に発見し、対処するための貴重な場として機能します。従業員が自分の意見を率直に述べることができ、それに対して上司がフィードバックを行うことで、エンゲージメントが強化され、仕事に対する意欲が向上します。

3. 組織内コミュニケーションの質向上

 組織内のコミュニケーションを活性化させる効果もあります。上司と部下が日常的に対話を行うことで、部下が自分の意見や考えを発信しやすい環境が整い、組織内の情報共有が促進されます。特にイノベーションを推進する企業においては、社員一人ひとりが自発的に新しいアイデアを提案できる文化を醸成することが重要です。人事部は、1on1を通じて、現場での対話の質を高め、従業員同士の信頼関係を強化するための取り組みを支援する役割を担っています。

 さらに、コミュニケーションが円滑に進むことで、組織内での課題解決スピードも向上します。部下が抱えている問題が早期に共有され、それに対するサポートが迅速に行われることで、業務効率が上がり、組織全体のパフォーマンスも向上します。人事はこのプロセスをサポートし、1on1が実際に組織内コミュニケーションの向上に寄与しているかをモニタリングし、適切な改善策を提供することが重要です。

4. フィードバック文化の定着

 企業文化としてフィードバックの習慣を根付かせることも、1on1ミーティングを効果的に活用する上で重要な要素です。従業員が定期的にフィードバックを受けることで、自分の強みや改善すべき点を把握しやすくなり、自己成長を促進できます。ここで重要なのは、フィードバックが一方的ではなく、双方向のコミュニケーションとして行われることです。つまり、上司からのフィードバックだけでなく、部下からも積極的に意見を求め、上司自身も成長の機会として活用することが大切です。

 このフィードバックの文化を社内に定着させるためには、人事部がリーダー層に対してフィードバックの重要性を理解させ、1on1の場で効果的にフィードバックを行うスキルを育成することが必要です。リーダーが適切なフィードバックを行うことで、部下は自分の成長に対して前向きになり、組織全体としての成長を促すことができます。また、部下側にも、フィードバックを「受ける姿勢」を浸透させることもまた重要です。

5. 離職防止策としての1on1活用

 従業員の離職を防ぐための有効なツールでもあります。人事部としては、従業員が抱えている不満や課題を早期に把握し、適切な対応を取ることが、離職防止に大きく寄与します。1on1を通じて、従業員のキャリアパスや業務に対するフィードバックを定期的に確認することで、従業員が会社に対して不満を抱える前にその問題を解消できるようにすることが可能です。

 特に、キャリア志向が強い従業員に対しては、長期的な成長ビジョンを示し、会社がその成長をサポートする姿勢を明確にすることで、従業員の離職意欲を抑制することができます。また、従業員が自分の成長に対するフィードバックを受け取ることで、組織内での自分の役割や価値を再認識し、より積極的に会社に貢献しようとする動機付けにもつながります。

6. リーダー育成とサポート

 部下の成長をサポートするだけでなく、上司自身のリーダーシップスキルを育成する場でもあります。人事部としては、リーダーが効果的に1on1を進め、部下の成長を促進できるようにサポートすることが重要です。例えば、1on1での効果的な質問技術やフィードバックの方法について、リーダーに研修やトレーニングを提供し、部下とのコミュニケーションをより円滑に行えるようにすることが大切です。

 また、部下からのフィードバックをもとに、リーダーのリーダーシップの質を評価し、必要に応じて改善点を指摘することで、上司と部下の関係をより良いものにしていくことができます。リーダー自身が成長することで、組織全体のパフォーマンスも向上し、結果として1on1がより効果的なものになるでしょう。

7. 1on1の効果測定と改善

 1on1ミーティングの効果を定期的に測定し、改善を行うことも重要です。アンケートや面談結果を分析し、1on1が従業員の成長やモチベーション向上にどのように寄与しているかを評価することで、より効果的な1on1を実施するための改善策を打ち出すことができます。

 1on1が形骸化してしまうリスクを防ぐためには、定期的なチェックやフィードバックを通じて、上司が適切に1on1を行えているかを確認することが重要です。また、必要に応じて研修やワークショップを提供し、上司に1on1の進め方を再確認させることで、常にその効果を最大化できるようにすることが重要でしょう。

まとめ

 1on1ミーティングは、従業員一人ひとりの成長を支援し、組織全体のパフォーマンス向上を促すための強力なツールです。人事としても、1on1を効果的に運用し、上司と部下の信頼関係を築き、従業員の主体性を引き出すためのサポートを行うことが必要でしょう。継続的な改善が、企業の競争力を増すことにも繋がるでしょう。

上司と部下がリラックスしながらも集中した1on1ミーティングを行っています。上司は部下の話を理解しながら頷いており、信頼感にあふれた雰囲気が伝わります。机上には資料やタブレット、コーヒーカップが置かれ、協力的でオープンな対話の場が形成されていることを示唆しています。このシーンは、成長やメンタリング、サポートの重要性を強調しており、効果的なコミュニケーションの様子が表現されています。



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