死にたいツイート

 何度見直しても、妊娠検査薬は陽性だった。
「ねぇ、アタシ妊娠したみたいなんだけど……」
「はぁ? 知るかよ、俺の子じゃねーべ」
 彼はゲームから目を離そうともしない。
「あなたとしかエッチしてないのに、なんでそんな事言うのよ!」
ショックと悔しさとが入り交じり、涙がこぼれた。
「いやマジ勘弁してくれよ、まだ親父になるつもりないし。つかペンギンかなんかが出てくるんなら産んでもいいけどよ。つかもう出てってくれよ。つか……」
「もういい! ペンギンなんか哺乳類じゃないんだからアタシが産めるわけないじゃない! あんたバカじゃないの! サヨナラ!」
 私は彼の横っ面を思いっきりひっぱたき、彼の家を飛び出した。
そのまま近くのコンビニに寄り、ATMにカードを入れ、残高を見て愕然とした。今までコツコツ貯めて数十万あったはずの貯金残高が、数百円になっていた。絶対彼だ。もうどうしよう。実家は何年か前に父が亡くなり、今はお母さんが彼氏と住んでるから帰れない。
 そのままフラフラと駅前の漫画喫茶に入った。
『もうダメ。死にたい。誰か確実に死ねる方法教えてください』
 ひとしきり泣いた後、スマホを取り出し、そうツイートすると、何件かリプライがあった。
『じゃ早く死ねよ』『死ぬなら生中継してね』『お前なんか誰も必要としてねーよ』『死ぬ気でやったら何でもできますよ』『僕なんか四〇年彼女いないけどちゃんと生きてるから大丈夫』
 知るか。ってかなんなんだこいつら。
うんざりしてスマホをしまおうとすると一件のリプライが目に留まった。
『もし本当に死にたいのなら相談に乗ります。DMください。自殺師』そうあった。
『本気で死にたいです。助けてください』と返信すると、自殺師からすぐに返信があった。
『今日はたまたまこれから予定が空いてます。〇〇駅まで来られますか?』
 〇〇駅と言えばここからJRで数駅だ。何か運命めいたものを感じ、すぐに返信した。
『数駅離れたとこに居ます。すぐ行けます』
『では、駅前のマクドナルドの前で待ち合わせしましょう』
 電車に飛び乗り待ち合わせ場所に行くと、帽子を目深に被り、マスクをした男が立っていた。
「あなたがメールくれた方ですか?」「そ、そうです」「では、ついて来てください」
 訝しがりながらも、私は男について行った。
 アパートの薄暗い階段を上がり、二階の一番奥の部屋に通された。部屋の中はなんとも形容し難い異様な臭いがする。
 臭いを誤魔化す為なのか、部屋のあちこちに置かれたアロマキャンドルに火が灯っていた。そしてロフトの手すりから、首吊り用に先が輪になったロープがぶら下がっていた。
「ここに首吊り用のロープがあります。ここで首を吊れば確実に死ねますよ。その前にお茶でもどうぞ」とペットボトルに入ったお茶を出された。
「あ、ありがとうございます」
 こいつは絶対おかしい。お茶を飲みながら頭の中で危険信号が明滅した。お茶だけ飲んだらなんとか言い訳して逃げ出そう。ついてきた私がバカだった。
 すると、意識はあるのに身体が言う事を聞かなくなっていた。お茶に何かを入れられたのだろう。もう声も出ない。
「こんなに可愛い顔してるのに、死にたいだなんてもったいないですね~。どうせ死ぬんだからその前にちょっとだけ楽しみましょうね」男が三脚にビデオをセットし、私のブラウスに手をかけ、ボタンを外しにかかったその時だった。
 ドンドンドン
 ドアを叩く音。そしてドアが蹴破られ、そこには彼氏が立っていた。
「てめー! 俺の女に何してやがる」彼は土足のまま部屋に入ってきて、手にしていた金属バットを自殺師の頭に振り下ろした。何度も何度も。ちょっとだけカッコよかった。
「お前のツイッター見て気になってGPSでついてきたんだ。そんなに死にたかったのか。気付いてやれなくてごめんな」
 そう言うと彼は私の身体を持ち上げ、首吊り用のロープに私の首を掛け、手を離した。
 え? 
 彼はケータイを取り出し、どこかに電話を掛ける。
「あ、由美ちゃん? やっと彼女出て行ったぜ。え? 今からくる? オーケイ、じゃあすぐ戻るぜ! ファックしようぜ、ファック。いやほーい!」
 く、くるしい。意識が遠のいたその時、警官隊がなだれ込んできた。
「武器を捨て手を上げなさい!!」
 彼は連行され、私は一命を取り留めた。

 死にたい。
 
 了

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