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再び、P/PCバランスについて

「再び」の背景

先日ある人との会話で、
「不断の努力すれば、誰でも目標は達成できる!」とは考えていない。
世の中はそう単純に都合よく出来ていないことは、身をもって学んでいる、という自論をお話したところ、
「安藤さんはコーチという仕事をしていながら、努力することを奨励していないのですか?」「目標へ向けて努力することは無意味だと思っているのですか?」と突っ込まれました。
少々理解に歪曲があると感じましたが、自分の言葉として出たものへの問いなので、真摯に以下の様にお答えいたしました。

「公正世界仮説」のリスク

「努力は報われる」という考えを否定する意図は毛頭ありません。

「走った距離は裏切らない」、
これは、2004年のアテネ五輪のマラソンの金メダリスト、野口みずきさんの言葉ですが、私もマラソンをやっていた時には座右の銘としていました。

しかし、これを
「成功をした人、目標を達成した人は努力をしていた。」
従って、「努力すれば、成功する。目標達成は達成できる。」
という論理に展開するのは正しくないと思うのです。

そうではなくて、
「成功をした人、目標を達成した人は努力をしていた。」
従って、
「努力することなしに、成功や目標達成は不可能である。」
が正しい論理展開だと思うのです。
努力は「必要条件」であり、「十分条件」ではない、
ということですね。

簡単に言ってしまうと、努力しなければ良い結果には結びつかない。
従って努力をすることを怠ってはいけない。
だからといって、必ずしも良い結果が約束されている わけではない。
それでも努力することは大切であり、そこに努力というものの価値がある、

ということです。

「努力は報われる」という考えは、心理学者のメルビン・ラーナー教授が提唱した「公正世界仮説」から生まれています。
「公正世界仮説」とは、
「世界は公正であるべきであり、実際にそうである」という世界観に基づいたものですが、「武器になる哲学」の著者、山口周氏は、その著書で「公正世界仮説」を解説し、「実際に世の中はそうなっていないので、この様な世界観を頑なに持つことは、むしろ弊害の方が大きい」と論じています。

そして、「いたずらにこの仮説に捕らわれると、「スジの悪い努力」に人生を浪費してしまいかねない」とも述べられていますし、公正世界仮説に囚われると、公正でない世界の現実の中にいた時に、社会や組織を逆恨みすることにもなりかねない。」・・・と。

体育会系の根性論で育てられた自分にとっては、「醒めた見方」として、多少の反発は感じるものの、理にかなっていると同意を覚えました。

金メダルはひとつ  優勝校は一校

少々話が発散してしまいましたが、この努力と成果の関係は、スポーツ指導者へのコーチングで日常茶飯事のテーマです。
以前メルマガでご紹介した、P/PCバランスは、

P=成果(Production)
PC=能力(Performance Capability)

そして、成果は大切だが、これのみに注目するのではなく、その達成のための能力の向上とのバランスが大切であるという考え方です。

スポーツの世界では、Pは正に優勝、入賞、順位、具体的な記録、などです。
しかし残酷なのは、このPは必ずしも約束されていない、ということです。
金メダルは一つです。甲子園で優勝旗を手にできるのは一校です。

そこで、PCの話になるのです。

たとえ、Pが達成できなくとも、そこへ向けて努力する過程で養われたPCに眼を向けるということです。
スポーツ指導者とのコーチングセッションで、問いかける質問にこのようなものがあります。

「チームが目標に向かう過程で得られる能力は何ですか?」

色々答えが出てきます。
持久力、フィジカルの向上、連携する力、忍耐力、技術力、
さらには、実戦力、団結力、相互理解力、(戦略の)理解力、
若手の育成、自信、等々。
結構あるんですね。

こうしたPCを意識して、チームの指導にあたっている限り、たとえPの達成が成し得なくても、挫折、失望、自信喪失を覚えることはありません。
別の言い方をすれば、Pのさらに先の視野に、別のPを設定している、つまり、「ゴールの先にゴールを据えている」とも言えます。

もちろん、スポーツの世界に限ったことではありません。

新製品のリリースで今四半期に設定した売上目標には僅かに届かなかった。
しかし、購入したユーザーの声を拾い上げる仕組みと、失注レポートの制度化で、ターゲットとする顧客層と、競合対策が非常に具体的になった。
次の四半期で今期の未達分を補って余りある成果を上げる。

今回の補欠選挙で当選の可能性は少ない。
しかし、ここで立候補して全力で選挙戦を戦うことで、来年の本選挙での勝率を格段に上げておくことができる。だから今回最善を尽くす。

などは、実際に私の身近で伺った話です。

先のご質問を頂いた方には上述の様なお話をして、私が申し上げたかったことは、P/PCバランスを前提にした努力と成果の関係であることをご理解頂いた次第です。

安藤秀樹
株式会社ドリームパイプライン代表

公式ホームページ: https://dreampipeline.com
お問い合わせ先: hideki.ando@dreampl.com

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