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金物に命を吹き込む - 世界でたった一つのモノづくり -

WEBマガジン『かきたがり』。地域ライター養成講座からはじまったライターゼミ。ゼミ生が取材・執筆した記事を掲載します。

私の部屋にはお気に入りの机がある。
まんまるいこげ茶色のちゃぶ台のような折り畳み机。

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実はこの机、ちょっと前まで倉庫の片隅にひっそりと眠っていた大きな寿司桶だったのだ。
そんな寿司桶を見つけて素敵な机に変身させてくれたのが、”こっちゃん”こと小谷洋子さん。

寿司桶を使っていた「誰かの暮らし」に思いを馳せながら、生まれ変わった机に触ると自然と温もりを感じる。新しいものもいいけれど、巡り巡って素材を無駄にしないモノづくりはもっと素敵だ。

使われなくなったものにデザインと遊び心で新しい命を吹き込む。そして、次の人にバトンを渡す。そんな小谷さんをご紹介します。

定期的に何か作りたくなる症候群

小谷さんは京都府舞鶴市出身。
デザインの専門学校を卒業後、石川県の和紙の会社に就職した。

和紙の特性や加工の仕方を学んだあと、京都府舞鶴市のアパレルメーカーで勤務をしていたときに、母の会社である山下金物店で働くことを決意。現在は経理の仕事を中心に、金物素材を用いた「暮らしに寄り添うものづくり」を自分の部屋から始め、店頭販売や地元のイベントに出店したりしている。

小谷さんは自分のことを「定期的に何かをつくりたくなる症候群」と話す。例えば、自分が頭の中でイメージしたモノが欲しいと思ったときに店内の金物材料を見てまわる。そうするうちに、自ずと新しいアイディアが生まれるのだそう。

「店内で金物材料を見ていると『あ!あの時の金具や!』と閃いて作ることが多いですね。だけど、多分それはこれだけ金物に囲まれている環境だから思いつくことで、普通にしていても思い付かないかなぁ」

そうやって作られた商品は、キースタンドやハンガーラック、アクセサリースタンド、本棚、傘立て、スリッパラックなど多岐に渡る。

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モノづくりの原点は、ずっとカタチとして残るもの

そんな小谷さんは幼少の頃、姉の影響でソフトテニスを始めてから中学・高校・大学・社会人までテニスに打ち込み、生活の全てを捧げて生きてきた。

しかし24歳の頃、原因不明の難病に襲われテニスを続けることができなくなった小谷さんは、当時働いていた銀行を退社。専門学校でプロダクトデザインの勉強に打ち込んだ。

「テニスを失ったことに対する喪失感がすごかったの。だから、次は無くならない物がいいなと思って。昔から絵を書くのも好きやったし、ものづくりに興味があったんだと思う。オリジナリティが出せて、自分しかできないことに挑戦したいなって」

その時の経験が小谷さんの現在のモノづくりに対する想いの原点になっている。

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夢はショールームを作ること

小谷さんのお店にくるお客さんのほとんどは土木(水道)関係のお客さん。業者の人はたくさんくるけれど、今後はもっと幅広い人に利用してもらいたいと話す。

「例えば、DIYを作るのが好きな人。材料が多いから見てても楽しいし、真鍮のマイナスネジや太鼓鋲とか、デザインがレトロでかわいい。昔扱ってた古い金物もあるしね。お店に来たら、私と同じように『何か作ってみたい!』って衝動にかられると思うんです」

そのためにも、商品陳列の方法を工夫してみたり、魅力を伝えるポップをつくったり。専門学校で学んだ経験を活かして、今後はディスプレイデザインやショールームとしても活用できるようにしていきたい。

少しずつ夢を実現していきたいと話す小谷さん。「日々の業務に追われて、まだ道半ばなんだけどね」と少し頭を抱えながらも謙虚に話す。その姿からこれからも「つくりたいものをつくる」という内に秘めた強い思いを感じた。 彼女のモノづくりの背景には、テニスやデザインを通じてこれまでコツコツと積み上げてきた土台があってこそだ。

舞鶴に訪れた際には、レトロで新しい温もりのある金物雑貨店をふらっとのぞいてみてほしい。あなただけの「素敵な宝物」が見つかるかもしれません。

株式会社山下金物店
住所:〒625-0036 京都府舞鶴市浜198
WEB / Instagram

(書き手:小森 美佳)

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