見出し画像

プレファブとマスプロとアアルトと、神奈川県立近代美術館で考える「融通性のある規格化」についての話

神奈川県立近代美術館の葉山館へ。もう何度もここには来ているけれども、その日は珍しく人で溢れていた。学生と思しき人たち。もちろんその目的は、みんな回顧展「アルヴァ・アアルト―もうひとつの自然」を見に行くため以外にないわけだけれども。

アアルトというと波打つ曲線、あるいは有機的な形態を意匠に取り込んだことで評価されているような印象があったんだけれど。でも、この回顧展の最大の見所は、「融通性のある規格化と再構築」に関する展示コーナーではないかなと。代替が効かないモニュメンタルな公共建築とは異なり、量産化と大衆化が必要とされる規格化住宅に有機性を施していく作業、そしてその挑戦と挫折。

建築の規格化は、自動車のような集中型規格化と同質のものであってはならず、理性にも感性にも対応する分散型規格化であるべきである。建築における規格化は型を目指すことではなく、生活に適応した変化と豊かさを創り出すことにある。

もちろんパイミオのサナトリウムの再現も、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムとアルヴァ・アアルト美術館による国際巡回展だからこそ見られるものではあるんだろうけれども。そして特設のアアルト・ルームの窓から眺める一色海岸を手前に、そしてその先の相模湾越しの富士山も格別ではあるんだけれども。

でも、アアルトが米国MITに渡って、米国のプリファブリケーションとマスプロダクションの影響を受けながら、組み合わせ自在な融通性のある規格化住宅の仕様「AAシステム」を深化させた話と、量産販売する段になって「融通性」が骨抜きにされて「Aハウス」としてアールストロム社から売り出された話と。これがこの回顧展の最大のハイライトなのではないかと思う。

アアルトといったらスツール60とサヴォイ・ベースくらいしかイメージになかったので、この話は正直初めて知った。だからArtekで目指していたのは、実は今でいうIKEAのそれだったのではないかという気もしてくる。

果実は全て同じ植物のパーツを持っているにも関わらず、それぞれ個性的である。

ラップランド戦争で荒廃したフィンランドを、融通性がある規格化住宅で再構築しようと試みていたアアルトと、震災復興で実践するモジュール化と拡張性に優れた坂茂の取り組みを比較するのも非常に面白いし、実際この企画展の図録の巻末に坂茂が「融通性のある規格化」についてインタビューで答えていて、これも興味深くオススメ。

アルヴァ・アアルトの軌跡を辿る企画展「アルヴァ・アアルト―もうひとつの自然」は、現在神奈川県立近代美術館葉山館で公開。会期は11月25日まで。この国際巡回展はその後名古屋市美術館、東京ステーションギャラリー、そして青森県立美術館を巡回。





140文字の文章ばかり書いていると長い文章を書くのが実に億劫で、どうもまとめる力が衰えてきた気がしてなりません。日々のことはTwitterの方に書いてますので、よろしければ→@hideaki