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失敗続きのモバイル短尺動画サービス、ハリウッド重鎮が立ち上げるQuibiは5Gの波に乗れるのか?

今年のSXSWでどうしても聞きたかったキーノートが、Jeffery KatzenbergとMeg Whitmanが登壇する「The Next Form of Storytelling」でした。あいにく年度末までに片付けなければならない仕事でSXSW自体に行くことができなかったのですが、その様子がYouTubeやSoundCloudにアップされていたので、今回はそんなJeffery KtzenbergとMeg Whitmanが推進しているプレミアム短尺動画配信サービスQuibiについて整理してみたいと思いますよ。

サービスを説明する前に、まずはこの人、Jeffrey Katzenberg(以後Katzenberg)の話。彼は「リトル・マーメイド」「美女と野獣」「アラジン」「ライオンキング」など、低迷していた映画部門を復活させ、Disneyの第二の黄金期を作り上げた大功労者。個人的には「ロジャー・ラビット」も好きですが、ハリウッド界の重鎮として、知らない人はいないという人物なんですね。

その後Disneyで活躍していながら、当時Michael Eisnerと対立してDisneyを離れることになるんですが(彼に呼ばれて移籍したっていうのに)、それがまたきっかけとなってDreamWorks SKGが立ち上がるんですね。SKGとは、Steven Spielberg・Jeffrey Katzenberg・David Geffenのこと。そしてDreamWorks SKGのアニメーション部門をKatzenbergがリードするわけですけれども(つまりDreamWorks Animation)、そこで生み出されたのが「シュレック」や「カンフー・パンダ」などの人気シリーズ。その後作品がヒットせずスタジオ経営が不安定な状況に陥ったりしながらも、最終的にはDreamWorks AnimationをNBCUniversalに38億ドルで売却、自らもCEOを退任することになります。

60も半ばのKatzenberg、悠々自適なリタイヤライフを満喫すると思いきや、すぐさま6億ドルを調達して、メディアエンターテイメント系のスタートアップに投資したり、事業開発するためのビークルWndrCo.を立ち上げるんです。そこで、Mixcloud・Axios・Node・Flowspace・Whistle Sports・TYT Networkなど、どんどん投資していきます。衰え知らずです。ただ、彼は20億ドルを調達して、心の底からやってみたいと思っていたことがありました。もしかすると、それはDreamWorks Animation時代にAwesomenessTVを買収したことがきっかけだったかもしれません。それが、ミレニアル世代をターゲットにしたモバイル向け短尺動画配信サービスという領域です。

当時このプロジェクトは、「NewTV」と呼ばれていました。テレビ全盛時代に生まれたHBOを、モバイル全盛時代に相応しい形で再現する。さすがハリウッド業界の重鎮、そんな彼のゴール設定に反応してメジャースタジオから軽々?と資金調達をします。具体的には21st Century Fox・Disney・NBCUniversal・Sony・Warner Media・Viacom・eOne・ITV・Lionsgate・MGMなど。その他VCや金融機関の他に、Alibabaも出資し、調達額は総額で10億ドルに上りました。

そして彼はこのプロジェクトを推進するために、パロアルトの和食屋である人を口説き落とします。それがMeg Whitman(以下Whitman)。元HPのCEO。その前はeBayのCEOで、さらにもっと前にはDisneyのSVPもやっていた人物です。そしてブランド名をNewTVからQuibiに改めます。Quibiは”Quick Bites”に由来した造語。カタカナで書くと「クイビー」となります。

モバイルに特化した、プレミアムコンテンツを集めた短尺動画配信サービスというのは、別に新しいアイデアではありません。例えばVerizonがGo90を立ち上げたり、Huluの元CEOのJason Kilarが立ち上げたVessel、Samusungが立ち上げたMilk Videoなどいくらでもあります。ただどれもこれも失敗に終わっています。

ではQuibiは成功するのか。正直よくわかりません。

分かっているのは、2020年4月にQuibiがサービス開始されるということ。SXSWでのキーノートや、それ以前のイベントでの発言記録を追っていくと、Quibiは25-35歳を中心的なオーディエンスに設定していて、一部広告ありで月額5ドル、もう1つは完全広告なしで月額8ドルというサブスリプションモデルとなるようです。

新作オリジナル番組を毎週月曜に配信し、1話あたり15分程度。1時間あたりの制作費は500-600万ドルかけて制作するようです。これは時間単価で言うとNetflixやHBOと同じくらいの制作費とタレントを注入するということ。そして週に100本のコンテンツを配信し、年間5,300-5,400本まで増やす構想のようです。番組によるのかもしれませんが、短尺番組というよりも、長尺番組をチャプターごとに分割して配信するイメージなのかもしれません。

オリジナル番組を作るのはSam Raimi・Guillermo del Toro・Antoine Fuqua・Jason Blumなどのオールスター陣営。Snapchatを創業したEvan Spiegelを追ったドキュメンタリーシリーズ「The Frat Boy Genius」は、Facebookの創業期を追った映画「The Social Network | ソーシャル・ネットワーク」を彷彿とさせる企画で、非常に注目されています。配信するのはドラマやドキュメンタリーだけでなく、ニュースや音楽なども想定されているようです。

投資家向けのプレゼン資料によると、5年後1100万人のユーザー獲得のケースで、初年度のコンテンツ投資額が3.568億ドル、5年後6.18億ドル。AbemaTVのコンテンツ投資額が2億ドルくらいでしょうから、それよりは少し大きいくらいでしょうか。NetflixやHBOと比較すると一桁くらい少ないですけれども。そして通信会社と提携して、サービスをバンドル化して提供することを想定しているようです。T-Mobileの定額ファミリープラン加入者向けに無料でNetflixのサービスをバンドル化して提供するようなイメージ。

Netflixユーザーの70%はTVを通じて利用しているのですが、Katzenbergは午前7時から午後7時、テレビを見ることができない時に見るサービスとしてQuibiを位置付けているようです。つまりNetflixと狙っている層が被らないと。動画配信サービスはゼロサムゲームではないと。なんとなく言いたいことは分かるけれど、Netflixのモバイル最適化のスピードに勝てるのか、そしてモバイルに最適化された物語の伝え方って、本当に存在するのか。個人的には制作したコンテンツをモバイルだけで消費することが前提となると、コンテンツの価値を最大化させることができず、結果としてコンテンツにかけられる予算に制限が出てくるような気がしていますが。いずれにせよ、答え合わせは、来年4月に。









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