消費者の購買行動を変える「全ページためしよみ」誕生秘話
子どもを連れて、本屋さんでゆっくり絵本選び・・・。
これってなかなか難しいですよね。
かといって、絵本は親がお話しを読まずに買うというわけにはいきません。
そこで、絵本の出版社・作家さんたちと絵本ナビで進めているのがアプリ上で絵本を一冊丸ごと無料で1回だけ読める「全ページためしよみ」というサービスです。
無料のメンバー登録をすると、なんと2,300作品以上の市販の絵本作品を、無料で閲覧することができます。
試し読みして、気に入ったらそのまま購入できるということで、もはや絵本の世界では当たり前になった感がありますが、もともとは「実現不可能」と言われていたのでした。
構想は創業時から
絵本ナビが始まったのは2002年春ですが、このときから「絵本を試し読みできるサービス」という構想がありました。娘が生まれたばかりの新米パパだった僕にとって、自宅に居ながらにして絵本を探したり読んだりできるサービスがあったらどんなに嬉しいだろう、と考えたのです。(創業ストーリーはこちら)
でもそもそもこの時代は「インターネットに本の表示画像を載せてよいかどうか」で議論が分かれていた頃で、まずは表紙画像掲載の許諾をとるところから苦労していましたので、「全部読める」なんて、夢のまた夢、でした。
その後、販売目的であれば表紙画像の掲載はOKといったコンセンサスができ、出版社によって、中面の見開き画像の掲載OK、数ページのためしよみはOK、となっていきました。それでも、絵本ナビをはじめネット書店はあくまで「もう買う作品が決まっている指名買い」の場でしかなかったのです。
インスピレーション
2010年は絵本ナビにとってエポックメイキングな年でした。新たな株主と役員を迎え、視座を高く上げて改めて自分達が目指す先について考え、「社会のインフラとなるサービスを提供する企業になろう」というビジョンを掲げました。(現在のビジョンにも繋がっています)
ひとつのメディア、ひとつのネット書店、ではなく、消費者の購買行動にインパクトのある変化を生み出すこと、なくてはならないインフラになること。パイの奪い合いでなく、市場全体のパイを拡げるチャレンジを継続していくこと。そういった視点で、何が出来るかを考え続けていました。
そんな中、あるイベントでお会いした著名な方と数分間お話しした会話からビビッとインスピレーションを受け、翌日までに一気に「全ページためしよみ」の企画書を書き上げました。創業時に考えていたあのアイデアを、技術が進化し、すでに多くのユーザー、出版社、作家さんとのコネクションがある状況で再度世に問うタイミングが来た!と鳥肌が立ちました。
できるわけがない
ところが、ここからサービス実現までは簡単ではありませんでした。
まず社内で企画を説明したときには、スタッフは「全員反対」でした。(これはスタッフとして極めて正しい反応で、そもそも企画の最初は穴だらけでそのままなら大失敗したことでしょう。それぞれの担当がしっかり考えてなぜ反対なのかを伝えてくれるところがスタートだと考えています)
出版社や作家さんの立場に立つと、サイト上で全部読めることによって紙の絵本が売れなくなってしまうリスクがあるわけで、許諾が得られるはずがない、というのが主たる理由でした。
実際に出版社の方に意見を聞いてみても、書店店頭での立ち読みとネットでの試し読みは意味が違うのではないか、違法コピーで海賊版が出回ってしまうのではないか、といった声が聞かれました。
できるわけがない、ということです。
そうかもしれないし、そうでないかもしれません。
さて、どうするか・・・。
多くの方にお会いして、アドバイスを求めました。
そして、絵本ナビの顧問の方から「期間限定のトライアルをやるといいよ。それなら許諾しやすいし、そこで出てきた課題をクリアして本番のサービスに移行すればいいんじゃない?」とアドバイスをもらいました。
それだ!!!!!!
ということで、早速、期間限定トライアルの実施に向けて準備を進め、出版社に参加を呼びかけました。
全ページためしよみ誕生〜まずは31作品でトライアル実施
出版社の方の中にもこのサービスは面白そうだと感じてくれていた方々がいて、期間限定のトライアルなら社内を通せる、ということで、31作品が参加してくれることになり、1ヶ月間の「全ページためしよみ」トライアル企画が絵本ナビ上で開催されました。
はたしてどうなったでしょうか?
対象作品について、全ページためしよみ実施前と実施後の冊数ベース比較で、なんと平均4倍の販売実績となったのです!
最も販売が伸びたのは、『いわたくんちのおばあちゃん』という絵本で、なんと13倍も売れました。(実施前1ヶ月実績3冊→実施後1ヶ月41冊)
これはぜひ実際に読んでみて欲しいのですが、戦争がテーマの作品でそもそもなかなか手にとってもらうのが難しいけれど、実際に最後まで読むと魅力が伝わる格好の例です。(僕も最後のページを開いたとき鳥肌が立ち、涙が込み上げてきました)
こういう、「読んでもらえれば作品の良さが伝わるけれど、なかなか手にとってもらえない作品」こそ、このサービスに参加するインパクトがあることがわかりました。
そして、ユーザーの皆さんにこの企画へのメッセージを求めたところ、なんと1,000通を超える熱いメッセージが寄せられました。
まったく予想を超える反響でした。
寄せられたメッセージを読んでいくと、全ページためしよみできるとなぜ売れるのか、ということについてわかってきました。
「全部読めちゃったら売れなくなる」ということはありませんでした。それどころか「とても売れる」という結果でした。
心配していた違法コピーもありませんでした。ビューアーにキャプチャ防止機能を組み込んだこともありますが、図書館で借りた絵本をスマホで撮影することもできますし、パソコンの画面をスマホで撮影することもできます。でもそれでは絵本を読んだことにはならず、やはり紙の絵本を親子で一緒に読むことが最上の体験なのです。
そしてこのサービスが恒常的に求められていることは、ユーザーの反応・メッセージから明らかでした。
正式にサービスリリース
トライアルでの販売実績と、ユーザーからのメッセージ(1,000通以上を全部プリントして紙袋に入れて持って行きました)を携えて出版社に報告に行くと、ほとんどの出版社が理解してくれ、正式なサービス開始に伴って追加の作品参加を申し出てくれました。
また、大御所の絵本作家さんが応援してくれたことが大きな弾みになりました。
この後、全ページためし読み参加作品は順調に増え、1,000作品を超え、今では2,300作品となりました。この作品数は、毎日1冊ずつ読んだとして、6年間ずっと新たな絵本が読める、ということです。
例えばママたちが話しているときに絵本の話題になったとして、以前であれば「本屋さんか図書館に行ったときにみておくね」で話しが終わってしまったわけですが、今ではその場でスマホで一緒に全ページためしよみできて、さらに話しが盛り上がるのです。そんな風に、消費者の行動が変わってくるところまで来ています。
SNSで絵本の話題が出たときには、絵本ナビにためしよみに来る人が増えます。そしてためしよみした感想をまたSNSに書き込んで・・・と、絵本ナビはクチコミの増幅装置としても機能しています。話題が拡散すると、まとめサイトが取り上げ、テレビ番組が「ネットで話題」として取り上げ、テレビで放送されるとそれがまたSNSに書き込まれる・・・と、絵本のヒット作品が生まれる、まさにインフラとしての役割を果たしています。
ここ数年は、新刊発売時から絵本ナビの全ページためしよみに参加することが前提になっている出版社や作家さんが大勢います。(「絵本ナビしておいて」と作家さんが言ってくれるそうです)
なぜ真似されないのか?
最後に「なぜ真似されないのか?」を。
よいサービスなら、同じようなことをやる事業者が出てくるものですよね。
以下に真似されない理由をまとめました。
絵本ナビは、出版社や作家さんとの関係性を「長期的信頼関係」として捉えています。全ページためしよみは、実は短期的にはコストの方が大きいのです。それでも、絵本は時代を超えて愛されていくものですので、長期的に、そして本の販売だけではない関係性に基づいてコストも手間もかけています。
そして、「全ページためしよみ」が成り立つのは今のところ絵本だけ(コミックやビジネス書を全部無料で読めるようにして、さらに紙の本を買うかというと、買わないですよね)なのです。
例えば大手ネット書店からすると、全体の数パーセントでしかない絵本のために特殊な機能を開発したりするよりも他のジャンル(例えばコミック)の方が優先されますし、絵本に関しては絵本ナビと組んだほうが合理的です。
下記の記事にも書きましたが、絵本ナビには絵本児童書専門サイトとしてネットワーク外部性が働いていることが強みのひとつなのです。
最後に〜カナガキからユーザーへのメッセージ
長くなりましたが、サイトに載せている僕からのメッセージをこちらにも載せておきます。思いを感じていただけましたら嬉しく思います。(1000作品突破時に書いたものです)
<絵本ナビでは一緒に働いてくれる仲間を求めています>
・現在の採用情報については下記のコーポレートサイトをご覧下さい。
▼twitterでは毎日何かつぶやいています。
(2022/5/1追記)最新情報で更新しました。
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