見出し画像

負けて完結した新参者の終着地(ストーリー)〜2024J1第38節 vs鹿島アントラーズ レビュー&シーズン終了に寄せて【FC町田ゼルビア】

こんにちわこんばんは。ひだりです。2024年J1 第38節 FC町田ゼルビアvs 鹿島アントラーズ戦、最終節ということでレビュー+雑感:シーズン終了に寄せて、思ったところをまとめました。

チームのなにが課題だったか、など全体〜マネジメント的な振り返りはスポーツメディア等にも多々記事が出ています。

なので、その辺はいったんお任せして、自分の雑感は昨シーズンのシーズンレビュー(下記)と同様、完全サポ目線の物語です。

どうぞよろしくお願いいたします。


今年終盤の町田vs中後体制以降の鹿島、それぞれのらしさがハッキリと出た内容と結果だった。町田にとっては悪い方に、鹿島にとっては良い方に。

プレビューで準備していた鹿島視点の画像(下記)を作ったけれど、

サイドについてはおおよそ想像通りの部分を突かれた敗戦だった。(サリーで334よりはガッツリ442-244だったけども)
師岡や鈴木優磨の斜めに入ってくる動きも想像はしていたから、図に入れておくべきだったな。とはいえ、あんなモロでハッキリと裏取らせてしまうとは思ってなかった…。

ハイライト・スタメン・試合結果

りんぐさんのレビューもぶらさげておきます。毎回安定感・信頼感にあふれるレビュー、今シーズンも楽しかったです。ありがとうございました!

前半

明白だった鹿島のハイライン裏を取る意識

鹿島に奪われた3失点はいずれもハイラインを取る町田の出方を読んで鋭いスルーパスでその裏をソリッドに突く攻撃。
町田の3バックの脇、両ウィングの上がった裏のスペースからFWが斜めに侵入する形を企図して、前半早くから師岡が裏抜けを見せていた。

町田もオセフン目掛けたロングボール配給やボール奪ってエリキ・相馬に預けての速攻で鹿島ゴールを目指すも、コンパクトな442ミドルプレスで中央を分厚く固めた鹿島相手に、中盤でボールを奪えても、どうしてもゴールまでの距離が遠い。

ボール回収の出足早い鹿島

また、ハイボールでの競り合いや町田の後方ビルドアップに対しても、鹿島の出足が早く町田を上回っていた。

1人が前方向に強く身体をぶつけに行く時、必ず二の矢でボール回収役が飛んできた。ダブルチームまたはトリプルチームで、町田のボール保持者中心に適切な距離感を常に保つ配置とスピーディーで粘り強い対応で、こぼれ球を回収する連動が優れていた。

見せつけられた経験と練度の差

また、ボールを奪った後のつなぎの部分でも、うまく前進できない焦りからか町田にはミス・エラーが多かった。鹿島はパスワーク、ヘディングでの競り合い、クリアでも、いずれの局面でもボールを的確に味方へとつないで、正しく収めた。足元やボールの持ち出す方向で町田のプレスをはずす動きも巧みだった。

もちろん町田の選手が劣るとは思っていない。こちらにだって代表クラスの選手はいるのだ。
それでも鈴木優磨、柴崎、三竿ら海外経験のある代表級、歴戦の猛者が見せる鹿島の高強度の中で活きる技術と判断、それらを使うべき場面で適切に使う実力者同士の阿吽の呼吸は見事だった。

町田の352の実戦投入はFC東京戦・京都戦の2試合のみで様々な局面を打開できるまでの練度も柔軟性もない。
鹿島にとっては立ち帰る場所である442運用の練度と選手個々の経験、両面で差を突きつけられたように感じる。

最小化されたセットプレーの脅威

CKのサインプレー、タッチライン際ゴール内からニアポスト付近に出てきたイボの落とし〜下田北斗の鮮やかなミドルシュートは鹿島ゴールの左サイドネットを突き刺した。
地上で決められないならこれがある、これはこれで今の町田らしさ。不利な状況に屈せずそのままにはしておかない、反攻姿勢を見せた。

地上戦で落ち着かない展開が続く中、スローインも活かして攻勢を強める町田。
ロングスロー、クリアされてタッチを出たらまたロングスロー。繰り返してはいたが、セットプレーのシンプルな跳ね返しなら、植田・関川を筆頭に鹿島の得意分野でもある。

鹿島はクリア時の高く上がったボールを競り合う局面でもコントロールして空いた味方につないでくる。ゴール前のボールを跳ね返して、そのままカウンターに持ち込まれそうなシーンも散見された。

やってこない「町田の空気」

黒田ゼルビアでは、通常ロングスローやCKなどセットプレーを試合の中で重ねれば重ねるほど「町田の空気」を持ってこれた。(特に野津田で顕著)
けれど、この日はセットプレーを繰り返しても、なかなかこちらに空気が流れてこなかった。
現地にいた時は声出しとただ目の前の展開へ祈るばかりで意識していなかったものの、DAZNで映像を見直してみると、セットプレーを重ねても、なかなかムードが町田に近づく気配がない。

町田の選手もサポも気持ちは十分に入っていて、決して状況に飲み込まれていたとは思わない。
それでも、リスタートへの対策を十分に練ってきた鹿島の選手たちがセットプレーを受け止め切る覚悟と、鹿島サポの応援が醸し出すスタジアムの空気が、試合の主導権を移すことを拒んだ。

町田側の姿勢に関係なく、楽に事を運ばせない。難攻不落の地・カシマスタジアムの力なのかもしれない。

痛恨の3失点目

鹿島らしい屈強さのCB植田・関川を筆頭にボランチの知念・柴崎、鈴木優磨も下がってアンカー脇のケア。相馬には三竿を当てて自由を与えない。逆サイド、前進圧力に欠けた中でのヘンリー、エリキの連携はやや怪しく、結果として3失点目につながるエラーにも繋がった。

やはり自軍スローインでのリスタートで集中を欠いた対応を見せてしまったところからはじまった3つ目の失点が痛かった。

たらればながら、あの鈴木優磨のゴールがなく1-2で後半に持ち込めていれば、勝ち点1を持ち帰ることはできていたかもしれない。(それでも結局順位は変わらなかったけども。)

後半

町田、横を活かすアプローチは不発

後半にはボランチを下田に替えて中山、イエローをもらいエキサイト気味だったエリキに替えて藤尾が入る。
幅と奥行きを活かして鹿島の陣地への押し込みを狙う。50分台には人もボールもスピーディーにグイグイと動くそこそこのパス連携を見せるも、鹿島のブロックをズラすためにサイドへの持ち出し、前方を封鎖されると後ろ周りでの組み立て直しが頻発。鹿島の堅固な守備ブロック突破を狙った結果が、逆に相手ゴールに向かう攻撃の矢印を小さくさせてしまった。
2点リードの状況で中央を固めることを重視する鹿島からすれば、町田側がブロックに突っ込んでくる状況はむしろ守りやすい。カウンター狙いの姿勢で居やすい状況を与えてしまう。

鹿島が見せた「強かさ」のレッスン

藤本〜デュークの投入で、縦突破+前につなぐ意識が向上し、攻撃の圧はやや増したように見えたが、鹿島は集中力高く対応し、町田の自由な攻撃を許さない。リスクの高い局面では柴崎が少し低い位置に下がってボールの逃げ場を作り、ボールを受けて、組み立て直す。時間をコントロールする、ニクい巧さだった。
藤尾から荒木への交代、藤尾のインアウトは、現地で見ていて懲罰……なに?と動揺したのが正直なところ。

負傷ということならまあやむを得ない、ということにしておこう…。
とはいえ、442の中盤回収でも機能が見込める荒木はもう少し適切なタイミング・運用で投入したかった。

乱闘シーンはDAZN解説でも触れられていたが、そもそも不要な乱闘に思えた。
とはいえアウトオブプレーで時計を進め、かつ町田に圧を与え、かつ焦りを誘う手札(に結果的になる)。鹿島らしく上手くやられた部分で、経験だなぁと思う。

終盤はそこまで計画的なアクションも取れず町田 のロンボ前進〜跳ね返しからのカウンターで拮抗したまま時計が進み、そのままスコア動かず終了。
3-1鹿島の快勝。シーズンホーム無敗はすげーな。おつかれさまでした。

雑感〜シーズン終了に寄せて

逆転でのJ1リーグ参入初年度初優勝を達成するため、町田は勝ちに行くしかなかった。勝つには点を取らねばならず、点を取るためには、前に出なければならない。

だからこそ、鹿島は442ブロックをドッシリと構えた。球際を戦う用意など鹿島戦士はハナからできている。ライン高く攻めてくる相手の裏へ、カウンター一閃に集中。こぼれ球を奪い切り、手数をかけず速攻でゴールに迫る。
ひとつの試合の中でそう多くは出ない「一本中の一本」のチャンスを、鹿島は3回決めた。

結果論ながら、終わってみれば、試合開始前の時点で筋道はある程度決まっていた、予見できた展開だった。

選手・監督をはじめ現場、フロント、サポーターたちも、持てるすべてをぶつけ、死力を尽くして打ち勝ちに行ったことには疑いがない。

それでも、試合後に公開された鹿島戦の The Day of the MATCH を見て「今年のチームの終着地はここだったんだな」となんとなく感じた。

勝利のために必要だったこと

5戦未勝利、広島・神戸に首位を奪われ、降格圏内のチーム相手に勝ち点を落とし、2チームに引き離され、遠のいていくシャーレ。
メディアや他チームからも「優勝争いからは脱落した」と目された状況の中、覚悟を決めた352システム変更が功を奏してFC東京戦・京都戦の2連勝。首位神戸との勝ち点差を3に縮め、他力ながら優勝の可能性を「自分たちの結果」で取り戻した。
京都戦ではかつてのキング・平戸の凱旋・邂逅も花を添え、最終節の大一番は、歴史的に町田と縁深い兄貴分・ラスボス鹿島。

人が、時代が変わっても脈々と続く「不屈のゼルビア」の真骨頂。シーズン最終戦前、2024シーズンの私たちにとって疑いなく大事で、あまりにも美しいストーリーが成立していた。
成立してしまったのだ。最終節がはじまる前に。

鹿島に自分たちの持てる全部をぶつける。

リーグの最終局面、選手やスタッフの最高のモチベーションのため、勝利して優勝を強く信じるサポーターのため、町田の新しい歴史を切り開くため、それは至極当然で、他に選択の余地のない必要なアプローチだった。

それでも、この1戦にもし勝ち切るならば、必要だったのは、未完の美しいストーリーもほどほどに、ただ目前の試合の勝利に徹してこだわることだったのかもしれない。

「勝利の方程式」を描きづらい状況

今季序盤の好調時、あるいはJ2優勝した2023年シーズンから存在した黒田式「勝利の方程式」に照らせば、チームに求められてきたのは必ずしも「自分たちのやり方を貫いて勝つこと」ではなかった。

「勝つではなく、負けない」「相手のやりたいことをやらせない」相手の体が崩れた一瞬を見定め、たった一回訪れたチャンスを「一本中の一本」で決めきる。
そんな、チームの強さが最も発揮される「町田らしいゲーム運び」をすることが、勝たねば優勝を得られない状況下では難しかった。

攻撃的352へのフォーメーション変更で復調タームに入ったばかりのタイミングだったことも、守り切るアプローチを取る決断をしづらい状況につながった。そもそもは対戦相手の進んだ町田対策と負傷・移籍による人の入れ替わりで、本来やりたかった町田らしい戦い方ができなくなった結果の布陣変更である。

もちろん勝利への意気高い鹿島相手に、膠着を恐れず耐えて戦うやり方を選択したところで、完遂できたかは正直不透明。なんせブレずに同じやり方をチームに求めて5戦勝ちなしの泥沼も経験している。

だから、2連勝の流れそのまま勢いを持って制しにいく選択は、勝利の可能性をコンマひとつでも高めるため、試合に臨む姿勢として妥当だった。

それでも、時間的にもキャパシティ的にも、相手の出方に柔軟に対応できる程、このやり方の練度を高める余裕や余力はなかっただろう。

負けて完結した2024年のストーリー

現場の選手・スタッフ・フロント・サポーター、みんなの総意として共闘で戦い抜く覚悟を決めた、この最終第38節、本質的に守備のチームである町田が、本気で、前のめりに勝ちに行った。

その結果、鹿島は勝ちに来る町田の姿勢を完全に見透かし、鮮やかに勝ち切った。
海舟からのボール奪取から平河が決め切って勝った、記念碑的なホーム鹿島戦の意趣返しのような3発で。

カシマスタジアムのピッチで町田が見せたサッカーは、昌子や黒田監督の言葉に偽りなく、今年の、あの日の町田ができる全部だった。
もうひとつの変化や対応を見せることはできないほど、いまできる全部をやりきった。

これが今年の全部だった。それは、今節の敗因というか、状況だったのかなと思う。

最後に負けて、”最強の新参者” FC町田ゼルビアの2024年のストーリーは完成した。

もう新しい歴史の最中

地元のサッカークラブが日本のトップカテゴリーの頂点へとチャレンジする、チームが描いてきた歴史のひとつの集大成だったから、本当に勝ちたかった。勝たせてあげたかった。

それでも、この1年、チームのしてくれた取り組み・道筋は間違いなく誇りに思える。後悔に感じる部分はまったくない。反省した方が良さそうなことは折々いろいろあると思うけれど、細かな改善・PDCAはわりと得意なチームなので、信じている。

あの日表現できる全部を表現して出し切ってくれた町田戦士たち。青で埋め尽くされたアウェイゴール裏とそこに浮かんだ、ひとつの白い星。唸るような鹿島の轟音に囲まれても、配信越しからもハッキリ届く町田サポのチャント。

上手くも賢くもないやり方かもしれないけれど、愚直にやりきって、J1初年度での3位。ACLEかACL2かはお預けながら、来シーズンのアジアのステージも確約された。

町田と野津田の風景は変わった。気温2.6度の春ナイター、氷雨降るスタジアムのガラガラなバック自由席で松本山雅のアウェイ応援見てすげーな山雅と笑ってた頃とはもう違うのだ。

この1シーズン、新しい歴史は作られて、いまはもう、新しい歴史の最中にある。

とはいえ、いまある風景は必ずしも当たり前のものではない。また後退して、カラッポのスタジアムに戻るのはなかなかキツい。

新参者としてトップカテゴリの巨大な山を登り、今年は新しい景色を見た。

ここをベースに、更に積み上げ、できれば遠くなく、星を掴んでほしいなと祈っている。

付則:2019年の記憶

付則として。
今年ある達成感、にわかに2018年の終わりに似ているんですよね。

2019年はCA傘下ゼルビアとして開幕を迎えた初年度。オフに鈴木孝司退団・2018ゼルビア4位躍進の立役者・平戸太貴が鹿島へ帰還。代わりに富樫敬真、端山豪、平尾壮らが入団。ゼルつくがはじまったり、9月に平戸が完全移籍で帰ってきたりいろいろがんばるも、なかなか勝ち切れずに盛大なJ2残留争いに巻き込まれた年です。
同年は合計7シーズンを指揮した相馬直樹監督の最終年となりました。

当時と今ではさまざま状況が異なりますが、一度踏んだ同じ轍を踏みたくない。

今年の達成は確かに最高の体験で、それはそれでヨシと認めた上で、きちんと切り替えて、来シーズンを見据えてほしい。
今シーズンのベースに基づき、積み上げて、ブレずにかつ新しいチームの形を作っていってほしいなぁと祈るばかり……とか思ってたら原さんの振り返りインタビューが、今日出ましたね。

抜かりなさそうです。いろいろめっちゃ期待して待ってます。

次々出てくる移籍情報。明日12/13は来シーズンの年間対戦カードの発表だ。

2025シーズンは、もうはじまっている。

本年もお読みいただき、誠にありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集